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助けを求められない人々の受援力(じゅえんりょく)について

助けを求められない人々の受援力(じゅえんりょく)について

助けを求められない人々

社会福祉の用語でインボランタリー・クライエントという言葉があります。これは、他者からの援助を受けることの意味を感じることができず、拒否や反発などのマイナスの感情を持つ方々のことをさした言葉です。もちろん、本人たちには自分の意思がありますから、これは社会福祉の立場から見た考えにすぎません。

実際に介護職が出会うインボランタリー・クライエントとしては、認知症の初期にある方、ゴミ屋敷に住む方、ヘルパーが家に上がることを頑なに拒む方などです。他にも「自分が全ての介護を担わなければならない」と強く考えて、サービスの利用を制限する家族などもこれに含まれます。

確かに、介護や福祉サービスを受けることには、ある種の「恥」をともなうイメージがあります。誰もが「人様のお世話」にならないで生活ができるに越したことはないと思っているはずです。

そして、介護や福祉のサービスは、時に本人や家族が「自覚していない困り事」に対して介入するという特徴があります。ここが特に「頭が痛い、お腹が痛い」と自覚症状があって求められる医療とは大きく異なる点なのです。以下、私が経験した介護家族の2つのエピソードをご紹介したいと思います。

助けを求められなかった悲劇1

Aさんは50代の働き盛りのサラリーマンでした。中高生のお子さん二人が共に受験を控えており、奥さんはパートに出かけながら家計を助けていました。そして、Aさんには認知症の母親とそれを介護する父親が2人で暮らしていました。このAさんのご両親が暮らしていたのは、Aさんからは隣町にあたります。

Aさんの奥さんは、Aさんの母親と関係が悪かったのです。そこでAさんは、自分の母親の介護に、奥さんを関わらせたくないと考えていました。また、父親は昔気質な人ですが、苦労をかけてきた妻の介護は自分がみる、という方でした。

父親は介護負担を吐露するのですが、ケアマネジャーやAさんの勧めるヘルパーやデイサービスの利用には消極的でした。そんな父親の気持ちを尊重して、Aさんは会社帰りや週末は実家へ通い、母親の介護をして、この父親を手伝っていたのでした。

Aさん家族に出会って1年ほどした頃、疲労や家庭での不和が重なり、Aさんはうつ病の診断を受けてしまいました。その2ヶ月後に父親は腰痛の悪化で入院し、認知症の母親は緊急で隣県の離れた介護施設に入ることになったのです。

助けを求められなかった悲劇2

Bさんは正社員として働く40代の女性でした。隣県に、認知症の母親が一人で暮らしていました。Bさんは独身で一人暮らしでした。そして、母親の介護を担うために、ほぼ実家に住む形で介護を担っていました。母子家庭で一人っ子だったBさんにとって、母親の行く末を見守ることには強い思い入れがあったのです。

しかし、その思いが強すぎたためか、仕事以外の時間は、ほぼ母親の介護につぎ込んでいました。利用する介護サービスに対しては、重箱の隅をつつくようなクレームを重ねてしまい、自らサービスを転々と変えているような方でした。

結局、自分が求める母親への介護を全て提供できるサービスには出会えませんでした。そして、Bさん自身が介護の多くを担う状況を自ら作ってしまっていたのです。ついにBさんは、正社員の仕事を辞める介護離職を選択されました。

そして、パートをしながら介護をしていましたが、肺炎をきっかけに母親は入院してしまいます。その病院で、母親は最期を迎えられました。その後、Bさんは正社員に復職することはできていないようです。

2つのケースで考えなければならないこと

AさんもBさんも結果として心穏やかな形での介護生活を終えることは出来ませんでした。2人に共通するのは「自分がやらなければいけない」「他人(や家族)には頼れない」という気持ちだったのではないかと思います。

後から振り返れば、自分ひとりで抱え込まないで介護をする選択肢もあったはずです。しかし「自分がやらなくても大丈夫」「誰かにもっと助けてもらおう」という思いに至ることは出来なかったようです。

ただ、こうした2人の心持ちだけに要因を求めることは間違っているのかもしれません。本当の要因は、他人に助けを求めることへの抵抗や、自分のことは自分でやらなければならないという慣習や風土という社会の側にあるのかもしれないと考えています。

受援力(じゅえんりょく)のススメ

こうした個人が「助けて」と言い出せない現状を危惧し「助けを求め、助けを受ける心構えやスキル」の重要性を説く人がいます。これに「受援力(じゅえんりょく)」と名付けた、産婦人科医の吉田穂波先生です。吉田先生は、公共政策の専門家として、子育てや少子化、被災地での支援などに関わってきた方です。

そうした関わりの中で「助けて」と言えない人々の孤独や孤立に関心を持ち「受援力のススメ」を社会に提言されています。こうした「受援力」は子育てなどの分野だけでなく、介護生活にある本人や家族にとっても重視するべき力と言えます。

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少子高齢化の中で、日本では介護を必要とする人が今後も増大していきます。それはすなわち、自分や周りの人が「介護を受ける側」になる可能性が増えることを意味しています。介護サービスへの知識や情報を集めることも大切です。同時に「他者に助けてもらう力」を身につけるという視点も必要なのではないでしょうか。

誰もが介護や福祉サービスを利用する時代です。もはや人に助けてもらうことは、恥ずべきことではなく、むしろ優れたスキルなのかもしれません。「受援力」という言葉が広がり、これを多くの人が身につけて、互いに助けあえる社会が、これからの鍵になると思われます。

※参考文献
・吉田 穂波, 『受援力』, Honami Yoshida Official Site
・吉田 穂波, 『受援力ノススメ』, 受援力パンフレット

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