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リチャード・ウォルトンのQWL(労働生活の質)からみた仕事と介護の両立【経営者・人事部向け】

リチャード・ウォルトンのQWL(労働生活の質)

QOL(Quality Of Life)の視点では仕事と介護の両立は語れない?

介護の近くにいると、QOL(Quality of Life)という言葉はよく聞くものだと思います。要介護者(利用者)の多くは、仕事を引退していますから、この視点からすれば、QOLについて考えていくことが必要十分であるのかもしれません。

しかし、介護者(家族)の視点からすると、QOLの中には、仕事の視点が色濃く入っているべきです。仕事と人生について考える世界には、ワークライフ・バランス(work–life balance)という言葉があります。

しかし、ワークライフ・バランスは、現実的には働きすぎの人に対して、もう少し仕事の外での人生も考えましょうという使われ方をする概念です。仕事と介護の両立という視点を考えるとき、ワークライフ・バランスの考え方では、それをとらえきれない部分があります。

そこで考えたいのが、職場での生活全体の質(労働生活の質)の向上という視点です。これを特に、QWL(Quality of Working Life)と言います。欧米では、1970年代より注目されてきた考え方で、経営参加、フレックスタイム、労働時間短縮、企業の福祉施策などについて提言が行われ、改善が進んでいます。

ウォルトンのQWL(Quality of Working Life)とは?

リチャード・ウォルトン(Richard E. Walton)は、組織変革や行動科学の分野で多くの研究成果を残した人で、ハーバード・ビジネス・スクールの教授としても活躍していたことがあります。

ウォルトンが、ハーバード・ビジネス・スクールの研究科長をしていた時期(1969〜1976年)には、QWLに関する研究論文を発表しており、このときの論文が、後に世界中の経営学者に影響を与えています。ウォルトンは共著も含めて32冊の本を書き、30以上の論文を発表しています。

ウォルトンは、1973年と1975年の論文にて、QWLの評価基準を、8つのポイントにまとめてくれています。仕事と介護の両立についても、このポイントについて理解しておく必要があります。それらのポイントを、現代の環境に合わせて改修してくれている論文(Mohammad, 2013年)をベースとして、以下にまとめます。

1. 十分で公平な賃金 賃金が、客観的な基準に対し、また、労働者の主観的な基準に対して十分な状態にあるか。同僚と比較して、不当に高かったり、安かったりはしないか。
2. 安全で健康的な労働環境 心身の健康にとって、安全で健康的な労働環境になっているかどうか。多すぎる仕事量を、少なすぎる人員数で対応していないかどうか。
3. 雇用の安全性 短期労働や、期限付きの労働ではなく、できるかぎり安定した労働条件となっているかどうか。そのために、労働者に対して新しいスキルなどの習得機会が提供されているかどうか。
4. 成長する機会 学習による成長の機会が十分に提供されているかどうか。仕事に対する知識が増え、他部署の仕事への理解も増し、課題解決のスキルが向上しているかどうか。
5. トータルライフ 現代は、激化する企業の競争環境によって、家庭と仕事の時間の分割がますます困難になっている。だからこそ、家庭とキャリアのバランスについて考えることの重要性は増している。
6. 労働者の権利 個人のプライバシーまで含め、労働者の権利について、雇用主、労働者ともに、正しく認識しているか。それが建前のようにならず、きちんと機能しているか。
7. 差別のない昇進可能性 差別のない環境であり、社内のコミュニティーに参加でき、あらたな人間関係を築け、組織内での昇進ができるような環境にあるか。
8. 労働の社会的な意味 労働者が、自分たちの仕事が社会的な課題解決になっており、そこで提供されている価値に満足できているかどうか。

仕事と介護の両立において考えないとならないこと

介護が発生すると、QWLはより危機的な状況になることは明白です。そこで、先の、ウォルトンのQWLにおける8つのポイントに従って、以下、仕事と介護の両立において(特に経営者と人事担当者が)考えなければならない点について、以下にまとめてみます。

なお、ここの記述は KAIGO LAB の経営・人事コンサルティング業務から得た知見であり、統計的に効果が検証されているものではないことには注意してください。また内容は、組織によって違いもあるため、あくまでも論点の提示にとどめています。

1. 十分で公平な賃金 客観的な社内基準に従うと、介護に時間がとられる労働者の賃金は、労働者の生活にとって必要な水準を下回る可能性がある。介護をしていない同僚との賃金の公平性を担保しながらも、こうした賃金不足に対して、どう対応するのか。労働時間をフレキシブルにして、細切れでも空いている時間に労働できるような環境整備が必要ではないか。
2. 安全で健康的な労働環境 職場では仕事をして、自宅では介護をする労働者の心身の健康に配慮するような仕組みはあるか。労働による疲労を回復するための時間に関しても、あるべき姿と現状のギャップについて、組織内の理解が進んでいるか。
3. 雇用の安全性 介護をしているという理由での解雇などが無効であることを認識しているか。介護をしているだけで、そこに居づらい空気が形成されていないか。実際に、仕事と介護を両立している労働者が活躍できる職場になっているかどうか。
4. 成長する機会 仕事についてのみならず、介護についての知識やスキルが学べるような研修や勉強会、社内コミュニティーが提供されているかどうか。予防的な意味での介護研修があるかどうか。
5. トータルライフ 介護をしながらも、充実した仕事をしながら、家族との時間が取れているかどうか。その理想と現実のギャップが測定され、そのギャップを埋めるための施策が走っているかどうか。
6. 労働者の権利 介護をしていることを同僚に知られたくないという労働者のための、匿名または匿名性の高い相談窓口が設置されているかどうか。労働者の介護情報に関する管理に対して、特別なポリシーが設定されているかどうか。
7. 差別のない昇進可能性 介護をしているという事実が知れても、昇進に対して悪い影響がないかどうか。そうした悪い影響がないということが周知徹底されているかどうか。
8. 労働の社会的な意味 生活のための賃金を得るということだけでなく、苦しい介護と両立するだけの意味のある仕事であることが認識されているかどうか。どうしても両立したいと考えるような仕事になっているかどうか。

ここに書いたようなことは理想です。しかし、労働力が極端に現象していく今後は、労働者は、こうした仕事と介護の両立に対する配慮を、需要な労働条件の一つとして評価するようになっていきます。そうなると、これは競合する企業との採用力の勝負に直結する条件になっていくでしょう。

考えておきたいのは、仕事と介護の両立が必要になるのは、少数の労働者ではないということです。介護は、40歳以上の労働者であれば、誰の身にも降りかかる可能性のあることなのです。

※参考文献
・Harvard University Library(Baker Library), Richard E. Walton Papers, 1968-1995: A Finding Aid, August 1997
・Mohammad Reza Faghih, et al., “Effect of Quality of Work Life on Organizational Commitment by SEM”, International Journal of Academic Research in Business and Social Sciences, October 2013, Vol. 3, No. 10

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