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山本五十六による有名な格言を逆から読む

山本五十六の格言

優れた管理職は、仕事と介護の両立に成功しているようだ」という研究成果があります。自らが動くのではなく、他者を動かすことで高い成果を上げていくための秘訣は、介護マネジメントという文脈でも通用することだからでしょう。この背景を受けて、今回は、管理職になると必ず参照すると言ってよい有名な格言について考えてみます。

山本五十六その人

山本五十六(やまもと・いそろく)は、大日本帝国海軍において、連合艦隊司令長官(第26、27代)として活躍した人物です。戦死時の階級は海軍大将で、死後元師に特進し、国葬が行われています。アメリカとの戦争に、真っ向から反対しながらも軍の指揮をとった「悲劇の名将」として知られています。

山本五十六は、1919年にハーバード大学へ留学しています。この頃から、世界情勢に関する知見を蓄えていました。特に、アメリカの自動車産業と航空機産業を見て、ショックを受けています。山本五十六がアメリカとの戦争に反対し続けていたのも、こうした世界情勢を正確に理解していたためです。

しかし当時の日本は、自国を世界一と考えていました。ですから、山本五十六が戦争に反対するのを快く思わない人々から、何度も暗殺されそうになっています。とはいえ、いざ開戦となると、彼は「やる以上は全力を尽くそう」と決めます。このとき彼は、親友に宛てた手紙に「個人の意見とは、正反対の決意を固めた」という趣旨のことを書いています。

山本五十六は、部下や同僚から深く愛された人物でした。今日でも、山本五十六に対しては、国内のみならず、海外からの賞賛も多くあります。その背景には、彼の優れた分析力と、現実的な作戦計画(それは悲劇的にも受け入れられなかった)があるのですが、それ以上に、彼の愛されるべき人格があります。

性格としては、極端な負けず嫌いだったと言います。海軍兵学校には、200名中2番で入学(32期)し、11番で卒業しています。卒業時には、教官から「もっとしゃべれ」と注意されていますので、寡黙なところもあったのでしょう。山本五十六に対するネガティブな評価としても「もっと彼が強く主張しておけば、日本の悲劇は避けられた」というものもあります。ある意味で、山本五十六は、自らの軍人としての立場を超えることができなかったのかもしれません。

なお、五十六(いそろく)というユニークな名前の由来は、山本五十六が生まれたときの父親の年齢が56歳だったことでした。これは、彼としては嫌な由来だったようです。名前の由来を聞かれると不機嫌になったという話が残されています。

山本五十六が残した格言を逆から考えてみる

山本五十六が残した格言に「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」というものがあります。これは、人材の活用法として、管理職になると、ほとんど例外なく参照するほど有名なものです。この言葉には、はじめて聞いた人にも「確かにそうだ」と思わせるところがあります。

しかし、こうした言葉が格言になるのは、その背景に、動かしがたい人間の「ネガティブな特徴」があるからです。以下、そうした点について配慮しながら、この格言を「逆」から読んでみます。

まず、はじめに言い切ってしまえば、本当に活躍できる人というのは「やってみせなくても、言って聞かせなくても、させてみなくても、褒めてやらなくても、自ら考えて動く人材」ということになります。放っておいても自然に管理職になり、経営者として活躍する人材は、ほとんど例外なく、こうした特徴を備えているものです。

1. 褒められないと動かない人は管理職に向かない

褒められて、おだてられないと、やる気というのは出ないものです。人間のモチベーションは、他者からの承認のあるなしで上下するということでしょう。これはこれで、困ったことです。なぜなら、私たちは、他者に認めてもらえないと、なかなか行動できないということだからです。

モチベーションは、都合の悪いことに、上下します。しかし、その度にパフォーマンスも上下させていたら、プロとしての仕事はとてもできません。「今日はモチベーションが出ないから打席に立たない」なんていうプロ野球選手はいないのです。

受験でもそうです。モチベーションのあるなしで、勉強のやるやらないを決めていては、志望校には受かりません。「勉強、よく頑張っているね」と褒められないと、モチベーションは下がります。しかし、そうして褒められる量と成績を連動させないことが重要であるという事実は、受験生時代に、多くの人が実感しているものでしょう。

つまり、優れた管理職になるには、自分自身は「モチベーションの奴隷」にならないことが肝要なのです。難しいのは、普段の仕事では、それを部下に強制することはできないということです。一般には、モチベーションが上がらないのは、上司(環境)のせいにされるものです。だからこそ、山本五十六の格言があるのでしょう。

とはいえ、親や配偶者の介護には上司はいません。介護においては、自分のモチベーションを上手に高めてくれるような存在はいないのです。「嫌なことでも、やらなければならないことは、やる」という覚悟がないと、介護は、どんどん先送りされていきます。先送りは、結果として、将来の負担を高めるだけです。

2. やったことがないとできない人は管理職に向かない

管理職になると、やったことがないことでも、管理・推進していかないとならないケースが多数出てきます。そうしたときは、過去の自分の経験に頼らずに、多くの人に相談して、実践を通して学んでいくしかありません。そして過去にやったことがないことは、はじめから上手くできたりはしません。失敗から学んでいくしかないのです。

人生には、やったことがないからという理由で、やらなくて済むことも確かにあります。しかし介護は、そういうわけにはいきません。はじまってしまえば、逃げられないのが介護です。誰かやったことがある人に任せたくても、親や配偶者の介護は、特にその根幹のところ(判断・決断)は、誰かに任せることができません。

失敗したくないから、やらないというロジックも、残念ながら介護には通用しません。むしろ、介護を振り返ると、失敗だらけという人のほうが多いと思います。誰もが、振り返るのも嫌という失敗を経験します。

介護には人の心が大きく関わりますから、失敗によってはトラウマになるほど手痛いです。うかうかしていると、介護をとおして、親子関係・夫婦関係などはどんどん悪化していきます。

それでもなお、進めるしかないのが介護です。ある意味、人間関係が悪化していても利益さえ上げていればなんとかなる普段の仕事のほうが楽だと感じることも多いほどです。

3. 言われないとできない人は管理職には向かない

管理職には、自分で課題を見つけ、その解決策を考え、解決策を実行していく力が求められます。放置しておいても、勝手に仕事をつくって忙しくできる人でないと、優れた管理職にはなれないのです。

「なにをすればいいですか?」という質問は、奴隷の質問です。下積み時代であれば、あえて「なんでもやります」という態度もありえます。しかし、一人の独立した大人として生きていくためには、自分のやるべきことは、自分で考えて行動できないとなりません。

ある意味で、自分のやるべきことを、自分で考えて行動できるという条件は、人材育成の到達点でもあります。大企業病と揶揄される事例は、ほとんど例外なく「指示されないと動かない」「指示されたこと以外はやらない」「指示された内容が間違っていてもそのまま進める」といったあたりに帰着します。

ベテランの介護職に話を聞くと、介護職に対して「私はなにをすればいいでしょう?」と聞いてくる人も少なくないそうです。もちろん、知らないことを聞くことは、大切な態度です。しかし、介護は個々に事情がことなり、これという一般解のない世界です。そして、そこから逃げることはできないのです。

人生の主導権をアウトソースすることはできない

結局のところ、介護に限らず、自分の人生には優れた上司などいません。「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」という方法で管理してくれる存在はいないのです。人生の主導権だけは、アウトソースすることはできません。

むしろ組織で戦う世界だけが、例外的に、主導権を誰かに預けることが可能なのです。だからこそ、組織で戦っている時間が長い場合は特に、私たちは、自らが、自らの人生の主導権を持っていることを忘れないように注意する必要があるのです。

介護という事件は、しかし、こうした環境から私たちを強引に引きはがします。自分の人生というサバンナにおいては、自分で自分の糧を得ていかないと生きられません。組織の中にいるということは、悪く言えば、毎日決まった時間にエサをもらえる動物園の中で生きているようなものです。しかし介護は、まさにサバンナでの生活です。

介護は大変ですし、ネガティブな事件でしょう。しかし、その事件への対応を通して、私たちは、自分の人生と向き合うことにもなります。そうした視点から考えると、介護というのは、私たちに与えられた大きな成長の機会かもしれないのです(そんな呑気なことは言っていられないケースも多いのですが)。

悪天候も、見方によっては大地を潤しています。それと同じように、介護もまた、私たちに対して大切な何かを与えてくれるのかもしれません。

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