閉じる

最新の介護食事情とその未来(神戸修さん)

神戸修さん
神戸修さん

先入観に影響される、介護食の市場

農林水産省の食料産業局の試算によれば、高齢者向けの飲食品の市場は潜在的に2.5兆円とされます。しかし、いわゆる介護食は爆発的に売れないという現実もあります。それは、介護食に対する先入観が影響しているためではないかという指摘を、KAIGO LABの以前の記事で考察しました。

介護される人のための食事は、通常の食事とは異なります。だからということで、ただ飲み込みやすくするだけでは、消費者には受け入れられません。人間にとって食事には「栄養の摂取」という意味以上のものがあるからです。

まさに、こうした介護食のイメージを変えるために、最先端で戦っている神戸修(こうべ・おさむ)さん(日清医療食品株式会社/総務本部総務部広報課)に、最新の介護食事情を聞いてきましたので、ご紹介したいと思います。

目で楽しめる美味しい介護食の登場

日清医療食品株式会社は、医療・福祉施設向けの食事サービスとして「ムース食」を開発し、2004年から提供しています。これは、咀嚼や嚥下などの機能が衰えた高齢者でも、安全に食事ができるよう、ペースト状にした食材を柔らかく再形成したものです。

従来は、普通食からミキサー食まで、さまざまな形態の食事領域がありました。こうした、いわゆる介護食は、噛む力と飲み込む力に応じて、その形態が決められてきたのです。以下、従来の区分のフレームワークを示します。

従来の区分のフレームワーク
きざみ食の方々への食事は原型ををとどめず、衛生管理も大変でした。また、誤嚥(ごえん)の危険性も高く、誤嚥性肺炎のリスクもある食事形態だったのです。

これに対してムース食は、食材本来の風味や形を保っているため、目でも楽しめ、美味しく味わえます。ここには「何を食べているかわからない」方々へ「何を食べているかわかる」ような食事を提供したいという開発者たちの強い想いが込められています。以下、あたらしい区分のフレームワークを示します。

あたらしい区分のフレームワーク
こうしたムース食の特徴としては、以下の6点にまとめられます。

(1)見た目が美味しい
(2)料理に香りがある
(3)それぞれ個別に味を感じる
(4)スムーズに安心・安全の喉を通る
(5)少量でも高栄養
(6)調理が簡単で衛生的

ただし、ムース食のデメリットとして、軟らかさに飽きてしまうことや、柔らかいものに慣れてしまうことによる咀嚼能力の低下も挙げられます。ここは、今後の大きな課題として残されている部分であり、これからも開発が続けられるところでしょう。

ムース食の進化について

そんなムース食は、開発当初と比べて、格段に進化しているそうです。まず、2004年時点でのムース食の写真が以下になります。手前がハンバーグであることはかろうじてわかりますが、他が何の食品であるか、全て同じ形のためわかりづらいです。

2004年時点でのムース食

一方で、最新のムース食が以下になります。専門的には「3Dムース食」といい、それぞれの食材を立体的に再現し、目でも食事を楽しめる新しい食材になっています。それぞれニンジン、ブロッコリー、れんこん、たけのこであると、一目でわかります。

3Dムース食

この「3Dムース食」の技術でつくった海老フライも、以下のような仕上がりです。食事は五感で楽しむものです。過去の味気ないものではなく、こうした「3Dムース食」であれば、食欲が湧きやすいですね。

3Dムムース食による海老フライ

イベントで活用できるよう棒状のムース食をカットして使用するなど、用途に応じた商品もあるそうです。毎日の食事がより「楽しい」時間になれば、生活全体が活性化していきます。ここまで細部まで再現しようと追究するのは、いかにも日本人らしい仕事です。この技術は世界中から注目を浴びているそうです。

介護食の未来とは

このように進化しているムース食ですが、今後は、どこを目指していくのでしょうか。未来というのは、いつのまにか自然にそこにあるのではなく、誰かの想いがつくるものです。そんな介護食の未来について、神戸さんは、以下のように想いを語ってくれました。

現在の介護食は和食ベースが多いですが、今後は、団塊世代も満足できるように中華や洋食のさまざまなメニューも考えていきたいです。咀嚼機能・嚥下機能が低下しても、「ラーメンが食べたい」、「ナポリタンが食べたい」といった声に応えていきたいです。

こうした神戸さんの想いの裏には、実は、ご自身の原体験があります。神戸さんは、後ろから見知らぬ人に強くぶつかられ、頸椎ヘルニアになってしまったのです。このときの体験を、神戸さんは以下のように語ってくれました。

今まで「食べる時に姿勢が大切」「飲込むがうまくできないと食欲が落ちる」などの知識は有していましたが、実際、のどを手術したことにより、術後に「声がでない」「飲込むがうまく出来ない」「腸骨を移設したため、咳ができない」などを経験しました。

術後にゼリーを食べた際に付着性がないため、そのまま誤嚥をしたことからただ単に柔らかいものでは、そのまま誤嚥をすることを改めて認識できました。今まで他の病気で入院をしたことがありましたが、その時も食欲は落ちなかったですが、この頚椎ヘルニア時だけは恐怖から食欲が落ちました。

過去、高齢者が食べることは命がけと言われていた時期があります。ムース食などの介護食の発展で変わりつつありますが、もっと介護食が進化していることを知ってもらいたいと思うようになりました。

介護食が浸透するためには

最初は病院食として、開発されたにもかかわらず、いまや全国のスーパーで販売され、スタンダードに多くの人が食すようになったある食品があります。それは「骨なし魚」です。読者の多くも「骨なし魚」の存在は知っているでしょう。では、この「骨なし魚」はどのように作られているか、ご存知でしょうか。

「骨なし魚」の製造は、日本で採れた魚をいったん冷凍し、中国で解凍して骨をとり、また冷凍されて日本へ送られ、店頭で販売されているのです。このような骨を取る工程を加えても、鮮度や味が落ちない冷凍技術が開発され、広まっていることが背景にあります。

もっと他の介護食も、この「骨なし魚」のように身近なものになっていくと、介護食は広がっていくことでしょう。私自身もムース食を食したことがあります。見た目と味が保たれているにもかかわらず、ふわっと口の中で溶けていく感覚に感動しました。フランス料理の一品と言われれば、そうなのかなと感じるほどです。

介護の世界には、こうして様々な角度から、よりよい介護を目指す仲間たちがいます。もし、あなたが介護の中に孤独を感じているとするなら、店頭に置かれている介護食の裏側には、こうした想いがあることを知ってもらえたらと思います。

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト