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高齢者のガストロノミー(美味学 / 美食学 / gastronomy)は進んでいるか?

高齢者のガストロノミー(美味学 / 美食学 / gastronomy)は進んでいるか?

「食べてくれない」という悩みの深刻さについて

高齢者への対応において、大きな悩みになるのは、食べてくれないというものです。食べてくれないと、栄養が足りなくなり、どんどん虚弱化してしまいます。結果として、要介護状態になったり、要介護状態が悪化したりもします。

これはまず、家族の介護負担という意味で問題です。要介護状態になったり、それが悪化したりすると、時間的にも金銭的にも、家族の負担は大きくなります。それが行き着くと、仕事を続けながらの介護が難しくなり、介護離職にもつながってしまうでしょう。

つぎに、国の社会福祉予算の面からも問題です。こうして、要介護者が増えてしまえば、財源を圧迫します。また、要介護状態が悪化すると、必要な介護サービスが増えるので、これもまた、財源を圧迫してしまうのです。

このように、高齢者が食事を食べてくれないという問題は、頻繁に見られるものであるのと同時に、家族や国にとっても、非常に深刻な問題なのです。高齢者からすれば、放っておいてもらいたいことかもしれませんが、その希望どおりに放っておくわけにはいきません。

特に、認知症の高齢者の場合は、より深刻になります。認知能力が維持されていれば、食欲がなくても食べないといけないことを認識できます。しかし、認知症になると、そうしたことが理解できなくなるのです。すると、食べてくれないという問題が、ずっと大きくなるのです。

ガストロノミー(美味学 / 美食学 / gastronomy)とは?

高齢化によって、食欲が減退するのは、生理的なものであり、仕方のないことかもしれません。そうなると、多少、食欲がなくても食べたくなるような、美味しい食事が提供されることでしか、この問題に対応できないという事実が見えてきます。ここで、美味しい食事に関する学問、すなわちガストロノミーへの期待が高まります。

ガストロノミー(美味学 / 美食学 / gastronomy)とは、古代ギリシアにて誕生し、中世においては忘れられ、18〜19世紀のヨーロッパで蘇った、美味しく食べるための理論体系です。客観的に味を研究するだけでなく、美味しいと感じられる背景や、食事を通した人間関係の構築など、幅広い学問分野として成立しています。

実は、人類社会に、高齢化の問題が登場するまでは、ガストロノミーは、ある種の贅沢でした。しかし、こうして高齢化の問題が顕在化し、特に認知症の高齢者に食べてもらうための研究としての期待が付与された今、ガストロノミーの社会的な地位は高まっているのです。

ただ、高齢者の味覚が、加齢とともにどのように変化をしていくのかということについては、まだ研究が進んでいません(宮村, 2016年)。この背景としては、そもそも高齢者が大多数となる社会は、過去には存在していなかったからという事実があるでしょう。高齢者のガストロノミーは、新しくて、意義深い学問分野なのです。

高齢者のガストロノミーでわかっていること

高齢者のガストロノミーは、先に述べたとおり、まだあまり進んでいません。ただ、人類一般の研究において、使わない機能や能力は加速度的に衰え、一度衰えると、元の状態には戻りにくいという法則は、ガストロノミーについても言えることでしょう。以下、少ないながらもわかっていることについて述べてみます。

まず、味覚障害を抱える高齢者の数は多く、これが食品選択の強い動機となり、高齢者の栄養状態に大きく影響します。低栄養状態にある高齢者も増えてきており、その背景には味覚障害があることもわかってきています。これは、死亡率とも強い相関性があることがわかっています(小野, 2016年)。

一般に、高齢者になると、基本5味(塩味、甘味、酸味、苦味、旨味)すべての感受性(閾値)が下がります。高齢者は、より強い刺激(濃い味付け)でないと、味が感じられないということです。しかし、濃い味付けは、健康によくないことは、広く知られている通りです。

味を感じるとき、基本5味だけでなく、食べ物の温度(温覚、冷覚)、舌触り(触覚、痛覚)といった体性感覚も重要であることは、言うまでもありません。加齢とともに、こうした体性感覚も衰えることは想像に難くありませんが、ここの研究はまだ少ないようです。

無視できないこととして、認知症があると、味覚が有意に衰えるという研究結果です。高齢者の味覚について考えるとき、認知症のあるなしをスクリーニングした上で研究しないと、味覚の衰えが加齢によるものなのか、認知症によるものなのかを切り分けることができなくなります。

日本の食品メーカーにこそ、頑張ってもらいたい

日本は、世界有数の美食大国です。特に東京は、ミシュランガイドにおいて、世界一の美食都市として認定されています。東京で、ミシュランスターを獲得しているレストランは226店であり、2位であるパリの94店と比べても圧倒的です(2015年)。

ミシュランスターで注目すべきなのは、東京で選ばれたのは、寿司や懐石といった日本料理だけでなく、フレンチだけでも50店もあるということです。日本人の美食に対する感覚はグローバルであり、かつ世界一ということです。これからの日本にとって、この日本の強みを活かさない手はありません。

日本は、世界一、高齢化が進んでいる国でもあります(高齢化率=26.3%/2015年)。かつ、世界一、美食が進んでいる国なのです。この組み合わせが、高齢者のガストロノミーにつながらないはずはありません。

そう考えると、日本の食品メーカーの社会的役割もはっきりしてくるでしょう。それは、高齢者になって味覚が衰えてもなお、日本の食品メーカーの商品があれば、美味しい料理が楽しめる世界を生みだすことです。ぜひとも、日本の食品メーカーには、この理想を実現してもらいたいです。

※参考文献
・宮村 季浩, 『高齢者のおいしさ:豊かな老年期のために』, 山梨大学, 2016年
・尾家 建生, 『ガストロノミーの現代的意義』, 大阪観光大学紀要 13, 29-36, 2013年3月4日
・小野 綾, 『高齢者における味覚の変化と今後の研究課題』, 弘前学院大学看護紀要, 第11巻, 1-11, 2016年
・CNN, 『東京が「世界一の美食都市」になった理由は?』, 2015年12月30日

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