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虐待問題を受け、介護施設への抜き打ち調査が開始される(ニュースを考える)

介護施設への抜き打ち調査

介護をめぐる虐待問題についておさらい

前提として共有しておきたいのは、虐待は、絶対に行ってはいけないということです。それぞれに虐待に至ってしまう背景には、共感するところもあります。しかし、どのような事情があろうとも、虐待が認められることはありません。しかし、ただ「虐待はいけない!」と叫んでも、虐待が減ることもありません。

厚生労働省が発表(2016年2月5日)した、2014年度の虐待件数は、総数で1万6,039件にもなりました。この内訳は、家族や親族による虐待が1万5,739件(前年とほぼ同じ)、介護施設における介護職員による虐待が300件(前年度比35.7%増)でした。

こうした虐待問題を受けて、厚生労働省は、自治体が定期的に行っている介護施設の調査・指導を「抜き打ち」でも実施することを決めたようです。朝日新聞の報道(2016年3月8日)から、一部引用します。

実地指導は、サービス内容や職員配置といった入居者の処遇に問題がないか確認するため、定期的に実施している。事前に通告するのは「必要な書類をそろえておいてもらわないと効果的な指導ができない」という理由からだ。

指針の改定では、都道府県などが抜き打ちで実地指導に入った際に目的などを文書で示せばいいようにする。厚労省は、緊急性はないものの不正の情報が寄せられた施設などを抜き打ちの対象に想定。例えば、職員不足で日常的に入居者を身体拘束しているといった実態を把握できる可能性が大きくなるとみている。

背景には、川崎市の有料老人ホームで入居者の男女3人が転落死する事件が起きるなど、介護施設での虐待が問題化していることがある。厚労省によると、介護施設の職員らによる高齢者への虐待は2014年度中に300件が確認された。前年度より35.7%増え、8年連続で過去最多を更新した。

介護施設の調査・指導によって虐待問題は解決するのか?

もちろん、こうした「抜き打ち」の調査・指導は、大事なことだと思います。むしろ、これまでずっと「抜き打ち」でなかったことが不思議なくらいです。そこは、しっかりと進めてもらいたいです。

しかし、虐待問題の本丸は、家族や親族による、在宅介護での虐待です(1万5,739件)。事実として、介護施設における介護職員による虐待(300件)よりも、家族や親族による虐待のほうが50倍以上も多いのです。

ここへの対応については、おそらくは「国による個人宅への介入」ということが難しいのでしょう。それは、それで理解できます。しかしだからといって、介護施設でだけ、虐待が監視されるというのは、おかしな話です。法整備を急ぎ、在宅における虐待問題(介護殺人にもつながっている)への対応が求められます。

残念ながら、この「抜き打ち」の調査・指導では、介護における虐待問題は、ほとんど解決しないでしょう。調査や指導も必要ですが、本当に大事なところへの着手も、急いでもらいたいです。

本当に虐待を減らすために必要なことは?

介護の負担というのは、介護に関わったことのない一般の人が想像できないほど、厳しいものです。それをこなすためには、基本的に、多くのリソース(ヒト、モノ、カネ)が必要です。

虐待が発生してしまっているのは、辛い介護をたった1人で行っていたりと、介護へのリソースが足りていないケースに集中しているはずです。朝から晩まで、夜中に何度も起こされるという生活が、数年どころか10年以上続くということもあります。

本当に虐待を減らそうと思うなら、孤立した状態で介護を行っている人に、介護サービス(特に家事全般、入浴介助、排泄介助)をまんべんなく届けることが第一です。十分なレスパイトも受けられるようにする必要があります。

これは、介護施設でも同じことです。虐待が起こっているのは、人材不足が原因で、多くの人の介護を、少ない介護職員で担わされているケースでしょう。介護施設には認知症の要介護者も多いですから、その環境は、場合によっては在宅介護よりも過酷です。

仮眠室のない介護施設など、ざらにあります。そうした環境で、16時間の夜勤を強いられたりしているのです(8割以上の介護施設で2交代制が取られている)。そして、夜中に何度も呼び鈴を鳴らされる生活を、ずっと続けているのです。

虐待を減らすための本丸は、介護業界の人材不足を解決することです。そのためには、介護職の待遇改善が絶対に必要です。これから2025年に向けて、80万人の介護職が追加で必要になると予想されています。その確保ができなければ、いくら「抜き打ち」での調査・指導を増やしても、虐待は減るどころか、どんどん増えていくでしょう。

※参考文献
・朝日新聞, 『介護施設への実地指導、抜き打ち可能に 虐待急増を受け』, 2016年3月8日
・毎日新聞, 『高齢者虐待2014年度300件 35%急増』, 2016年2月5日

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