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【朝日新聞スクープ】特養で「ベッド買い」が横行している?本当なら大問題に発展する

【朝日新聞スクープ】特養で「ベッド買い」が横行している?本当なら大問題に発展する

「ベッド買い」とは何か?

朝日新聞のスクープです。安価でサービス内容が良いとされる特別養護老人ホーム(特養)は、2017年時点でも約37万人の人が入居待ちをしていることで知られています。この特養をめぐって、優先的に入居できるという入居枠が、複数の自治体において「ベッド買い」という言葉で取引されているというのです。

この事実を把握した朝日新聞は、2018年1月12日に3本の記事をアップし、状況を伝えています。1本目の記事(2018年1月12日05時08分)より、一部を引用します。ここでは「ベッド買い」と呼ばれる事例が、想像以上に多数存在していることが述べられています。

特別養護老人ホーム(特養)の優先入所枠を補助金を支払って確保する事例が、複数の自治体で行われていることが、朝日新聞の取材でわかった。「ベッド買い」と呼ばれ、住んでいる地域や所得などに関わらず、平等に福祉サービスを受けられる介護保険制度の趣旨に反している可能性が高い。(中略)

ベッド買いは、自治体が他の自治体にある特養を運営する社会福祉法人と協定を結び、補助金を支払う見返りに、自らの住民が優先的に入所できる枠を確保する仕組み。全国の都道府県で特養の入所待機者が最も多い東京都内の23区と近接5市に取材したところ、8割以上の23区市がこうした協定を結び、計3328の入所枠を持っていた。(後略)

市区町村などの自治体は、特養の入居待ちを減らそうとしてきました。本来は、入居待ちが出るほど、ベッド数が足りないのであれば、新たな特養を建設しなければなりません。しかし、特養の建設には莫大な補助金を出さなくてはならず、その運用費も、住民が納める介護保険料に反映される(高くなる)ことになります。

そこで、入居待ちを減らすための入居枠を、他の市区町村などの自治体にすでに建設されている特養から買い取るという考えが生まれたのです。しかし、こうして買い取られた枠は、本来であれば、その特養が建設されている自治体の住民が入居するためのものです。

その特養がある地域で暮らす住民は、他の自治体の住民の分まで、税金や介護保険料を負担しているということになります。正当な税金や介護保険料を納めてきた住民が、必要になっても特養に入居できないという状況が、こうした「ベッド買い」によって生まれている可能性が高いのです。

過去の「ベッド買い」をめぐる裁判では違法とされている

この「ベッド買い」については、町民(原告)がこれを不正として、町長(被告)を訴えた裁判があります。事件番号/平成12(行ウ)13、事件名/損害賠償請求住民訴訟事件、裁判長裁判官/内田計一(津地方裁判所民事部)です。

この裁判では、こうした「ベッド買い」は介護保険法に基づく厚生省令6条2項に違反していると判断されました。すこし長くなりますが、このときの裁判記録(PDF)より「当裁判所の判断」の一部を引用します(改行位置のみ、KAIGO LAB にて修正)。

介護保険法に基づく厚生省令6条2項は,「指定介護老人福祉施設は,正当な理由なく,指定介護福祉施設サービスの提供を拒んではならない。」と規定され,特別養護老人ホームの利用は,特定の市町村の住民に限定されてはならず,広域的に利用されるべきことが定められている。

この規定の趣旨からすれば,そもそも,A町の住民が,平成12年4月より優先的にDの入所ベッド20床を20年間にわたり利用できるようにするためのD入所確保事業ということ自体が介護保険法上許容されず,本件補助決定及び本件覚書は介護保険法に反し違法であるというべきである。

そうとすれば,本件補助決定及び本件覚書に基づきなされた本件補助金の支出も違法であるということができる。また,これらにつき,被告に過失があることも認められる。

なお,被告は,「本件覚書は,Dが持つ合理的な裁量の範囲内において,できる限りA町民の入所に配慮を図ってもらうことを意図したものであって,紳士協定的な慣行を文書化したものにすぎない。」旨主張するが,前記基本的事実関係で認定のとおりの補助金交付申請書(乙10の1),確約書(乙10の3)及び本件覚書の各記載内容からして,本件覚書がかかる趣旨で規定されたものであるとは到底認められない。

また,被告は,「本件補助金の支出は,A町としての公益性があり,議会の予算の議決を経ているから適法である。」旨主張するが,A町としての公益性があり,議会の予算の議決を経たからといって,法令上違法な支出が適法な支出になることはないから,被告の同主張は採用できない。

さらに,被告は,「本件補助金の支出が違法とされれば,全国の地方自治体の高齢者福祉及び介護福祉政策に行政が関与できなくなるだけでなく,介護保険制度を歪め大きく後退させる。」とも主張するが,D入所確保事業のための補助金が違法であるからといって,全国の地方自治体の高齢者福祉及び介護福祉政策に行政が関与することができなくなるとは認められず,また,介護保険制度を歪め大きく後退させるとも認められない。

この裁判では「ベッド買い」は違法行為となされました。さらに「ベッド買い」に対して、それが紳士協定であるとか、議会の議決を受けているとか、介護保険制度を後退させるといった「考えられうる言い訳」は退けられているのです。

本当に大問題になるかを注視すべき案件

現実には、それぞれの「ベッド買い」で事情が異なるでしょうから、先の判例をもってして、全てのケースを違法とすることはできません。ただ、朝日新聞によるスクープは、こうしたケースが相当多数存在していることを示しました。その中には、違法と判断されるものも(おそらくは)あるでしょう。

これから、この問題が人々の関心をひきつければ、日本全国で、多数の裁判が起こされる可能性があります。そうなってしまうと、大きな混乱になります。特に、こうした「ベッド買い」を通して特養に不正に入居した人と、正当に特養の入居待ちをしている人の間でも「出ていけ!」という争いになることが懸念されます。

厚生労働省からすれば、きちんと介護保険法で定めたことを、自治体が勝手に歪めて起こした不祥事ということになるでしょう。とにかく、厚生労働省にとって、かなり頭の痛い問題であることは間違いありません。ただでさえ忙しいところに、大きな問題が顕在化してしまったのです。

しかし、厚生労働省は、この問題がこうして広く確認された以上、それが不適切であることを(改めて)示さないとならないでしょう。その上で実態調査をしつつ(1)不正に入居した人をどうするのか(2)そうした不正によって入居できなかった人をどうするのか、の2点について早急に判断を示す必要があります。

これは、本当に大きな問題です。この問題が明るみに出ることを恐れていた人も多くいるはずなので、問題の追求には圧力がかかる可能性もあるでしょう。だからこそ、これから、この問題がどう処理されていくのかについては、国民のみんなで注視していかないとなりません。

※参考文献
・朝日新聞, 『特養「ベッド買い」が横行 自治体、補助金で入所枠確保』, 2018年1月12日
・朝日新聞, 『ベッド買い「1床50万円、協議にならぬ」 苦しい交渉』, 2018年1月12日
・朝日新聞, 『加藤厚労相「実態調査したい」 特養「ベッド買い」問題』, 2018年1月12日

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