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入りたくても入れない特別養護老人ホーム(特養)の稼働率が96%(2万人分が空いている)という現実(ニュースを考える)

入りたくても入れない特別養護老人ホーム(特養)、稼働率が96%という現実の背景

特別養護老人ホーム(特養)に入れるか、入れないか

民間の老人ホームに入ると、毎月、1人あたり平均で25万円程度の費用がかかると言われます。これが、特別養護老人ホーム(特養)だと、多くのケースで10万円以下になります。特養には年金の範囲内で入居できるだけでなく、設備もまた民間の老人ホームよりも優れていることが多いのです。

特養が、このような状態にあるのは、特養には国からの補助金が入っているからです。特養は、実質的には公的な施設であり、民間の老人ホームと競合関係にあります。もちろん、民間の老人ホームは、補助金が入っている特養と競争しても勝てないのは当然です。

では、民間の老人ホームが潰れてしまうかというと、そんなことはありません。特養は、その人気が高すぎて、入りたくても入れない状態にあるからです。統計によっては、50万人以上が「入居待ち」になっているのが、特養なのです。

国が掲げる「介護離職ゼロ」にとっても、特養は重要な存在です。親に介護が必要になったとしても、親が特養に入居できたら、日々の介護はすべて特養まかせで済みます。こうなれば、仕事との両立も容易になり、介護離職も減っていくことでしょう。

ですから、親の介護に悩む多くのビジネス・パーソンにとって、特養に入れるか、入れないかは、大きな問題なのです。国は、この点を理解しており、特養を増やす方向に動こうとしてきました。しかし、この流れは、どうやらうまくいかない可能性が濃厚になってきているのです。

特養の稼働率は100%ではない?なにが稼働率を下げているのか

全国で50万人以上もの人が「入居待ち」しているような施設であれば、稼働率は100%でなければおかしいでしょう。しかし、実際の特養の稼働率は96%と、全国でみると、およそ2万人分の空き部屋がある状態にあります。

国の補助金が入っていて、かつ「入居待ち」をしている人がたくさんいるのに、空き部屋があるのはおかしなことです。この原因について、NHKクローズアップ現代が、番組として報道(2017年3月16日)をしました。以下、この報道録から、一部引用します(改行位置のみ、KAIGO LABにて修正)。

入居待ちが52万人に上るとされる、特別養護老人ホームです。介護や医療的なケアなどのサービスが受けられ、国などから補助金が出ているため、年金の範囲内で入ることができます。

ベッドがどれだけ使われているかを示す稼働率について、今回、国が委託調査を行ったところ、その稼働率が96%と、100%に満たないことが分かりました。入りたくても入れない高齢者がたくさんいる一方で、なぜベッドが空いているのか。(中略)

特別養護老人ホーム桶川和則施設長「全く使ってないですね。」120のベッドのうち、10のベッドが空いたままです。理由は、介護職員の不足。国の基準で職員を確保できなければ、定員いっぱいまで受け入れることができないのです。(中略)

「実際は職員の取り合いもかなりある。施設の方が多くなっているのが今の実態だと思う。」ベッドが空いている、もう1つの理由は、制度の変更により、入れない高齢者が増えたことです。(中略)国が制度を変更したのは、2年前。特別養護老人ホームの入居を待つ人が50万人を超える中、より介護が必要な人を優先させるため、入居条件に制限を加えました。

介護が必要な度合いが5段階のうち、2以下の人は原則入居できなくなりました。認知症を患っている男性は、歩いたり食べたりすることは1人でできるため、要介護2。男性は火の不始末など、目を離せない状況です。しかし、国の制度の変更により、施設が空いていても入れないのです。(中略)

一方、過疎化が進む地方では、別の理由でベッドが空いています。施設の整備が進められている中で、人口が減少し、入居を希望する高齢者が減ってきているのです。(中略)入居希望者の減少が続く施設は、利用者の確保に奔走しています。(中略)しかし市の計画では、さらにもう1つ、施設を増やす予定です。

厚生労働省は、特養に対して「介護職員(または看護職員)を、入所者3人に対して1人以上配置する」という人員配置の基準を設けています。全国でおよそ2万人分のベッドが空いているということは、単純計算で、約6,700人の介護職が不足しているということになります。

本当に大事なのは、介護職として働く人を増やすこと

介護職は、まったく足りない状況にあります。介護事業者の話を聞くと、採用面接も、ほぼ100%通過するような状態だそうです。人材の良し悪しを判断している余裕はなく、とにかく、誰の手であっても借りたいという切実な状況があるからです。

そうなると、介護職の取り合いは、異なる特養の間だけでなく、特養とその他の介護事業者の間にも存在していることがわかります。つまり、特養の稼働率を高めるためには、人材を、介護業界の外から連れてこないとならないということです。さもないと、仮に特養の稼働率が上がっても、在宅介護などが崩壊してしまいます。

日本の悪いクセで、いわゆる「ハコモノ行政」が、介護の現場にも発生してしまっているのです。特養の立派な設備だけどんどん作って、そこで働いてくれる介護職の確保には無頓着なのですから。

不足する介護職を確保するための方法は、たったひとつしかありません。それは、全産業平均と比較して、年収ベースで100万円以上も安いと言われる介護職の待遇を改善することです。財源がないという意見もありますが、であればいっそ、介護職を公務員(または準公務員)にしてしまうべきです。

特養問題を通して見えてくる日本の社会福祉の倒壊について

そもそも、同じように税金を払ってきて、安くて優れた特養に入れる人と、そうでない人が生まれてしまっているのは不公平すぎます。本来であれば、こうした特養と、民間の老人ホームが競っているという状況自体に無理があるのです。

将来の形としては、2種類しかありません。ひとつの形は、民間の老人ホームのすべてを特養にしてしまうことです。そうすることで、誰もが、必要なときに、安価で優れた老人ホームを利用することができるようになります。しかし、2025年問題を目前とした日本には、そのための財源がありません。

もうひつとの形は、特養を廃止し、老人ホームはすべて民間の運営とすることです。これにより、資金的に、老人ホームには入っていられない高齢者も増えてしまいます。しかしこれによって、特養のために不公平に使われてきた税金は、在宅介護のための財源にすることもできます(それだけでは足りませんが)。

本当は、特養が増えたほうが嬉しいのです。しかし現実的には、後者の形である、特養の廃止という方向性しかありえません。遠くない将来、特養に代表されるような税金の投入されている社会福祉施設は、その数が減らされていくことになるでしょう。いかにそれが悲惨な結果につながっても、これを食い止める手段は、もはや残されていないのです。

※参考文献
・NHKクローズアップ現代, 『“老人ホーム”が空いている!?』, No.3952, 2017年3月16日

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