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精神疾患の入院患者が減らされる?行き先はどう確保するのか(ニュースを考える)

精神疾患の入院患者が減らされる?行き先はどう確保するのか(ニュースを考える)

統合失調症という病気

統合失調症は、そもそも100人に1人がかかる、頻度の大きい病気です。医療の発達によって、その過半数は、社会復帰が可能とされています(厚生労働省, 2011年)。問題は、社会復帰が困難になる残りの約半数です。

そもそも、精神疾患をわずらい、入院している患者の約8割が、統合失調症です(厚生労働省, 2014年)。入院患者の数は毎年少しずつ減らされていますが、実際に退院させられてしまったケースを知ると、その厳しすぎる状態に、なんとも言えない気持ちになります。

もちろんケースにもよります。しかし、社会復帰が困難な統合失調症の場合は、幻覚や妄想があり、普通では考えられない世界観を確信的に持ってしまったりもします。家族のことも、家族ではなく、誰かが入れ替わっている他人であると思いこんだりもします。

ある重度の統合失調症のケース

あるケースでは、患者は、アメリカの諜報機関CIAによる監視を受けていて、常に、周囲に8人の監視員がいることを信じて疑いません。また、2匹の黒猫もいて、その黒猫はCIAが送り込んだロボットだと主張します。いくら論理的におかしいことを指摘しても、変わりません。

夜中になると、ひどくおびえて、CIAのことを罵りながら大声で喚きちらします。家族に対しては「いっしょに死んでくれ」と言い、包丁を持ち出します。危ないから包丁を隠すと、今度は自分で窓ガラスを割って、その破片を握りしめて振り回したりもします。こうしたことが毎週、繰り返されます。

ある日、家族の枕元に、ハサミを振りかざそうとする患者が立っていました。家族には小さな子供もいます。家族は、もはやこれまでという思いで、患者を入院させます。しかし、長期入院は断られ、3ヶ月でまた患者は帰ってきます。そうして3ヶ月ごとの入退院を繰り返します。

3ヶ月ごとに、入院させてくれる病院の空きを見つけるのは、非常に大変です。時には、入院先が見つからず、また自宅に戻ってくることもあります。それでもまた、恐ろしい妄想から、家族が危険な状態になったりします。ついに、運良く、長期入院させてくれる先が見つかりました。

毎月、相当な入院費用がかかりますが、家族は、昼の仕事以外にも、夜もバイトをしたりして、その入院費をまかなっています。同時に、病院からは退院の催促があったりして「そこをなんとか」という交渉を続け、ギリギリ、入院させてもらっているような状態を続けます。

精神疾患の患者の入院を減らすという政策

社会福祉のための財源が枯渇しつつある国としては、こうした状況があっても、入院患者を減らそうとしています。以下、毎日新聞の記事(2017年1月9日)より、一部引用します。

厚生労働省は、統合失調症などで精神科に長期入院する患者を2020年度末までに全国で最大3万9000人減らす目標を決めた。日本の精神科入院患者数は国際的にも高水準で、1年以上の長期入院は14年現在、18万5000人に上る。少人数で生活するグループホームなどを整備し地域社会で暮らせる人を増やす方針だ。

長期入院は過去の隔離収容政策の影響が一因で、人権上の問題が指摘されている。以前にも減らす目標を掲げたが達成できておらず、実現には財源の確保のほか、医療関係者の協力や住民の偏見の解消が必要になる。

「地域社会で暮らせる人を増やす」というのは、先のケースのような場合は、不可能です。実は、過去にグループホームからは追い出されてしまった患者も少なくありません。幻覚と妄想がひどく、どうしても、他の入居者に迷惑をかけてしまうことが多いからです。

また「人権上の問題」というのは、家族としては、痛いほどによくわかります。長期入院させている家族は、心のどこかで「家族を捨てた」という罪の意識を持っているものです。しかし、そうした患者を退院させれば、今度は家族の人権が侵害されます(最悪は殺人事件に発展する)。

ターゲットは、75歳以上の認知症患者か?

先にも述べたとおり、精神疾患をわずらい、長期入院している患者の約8割は、統合失調症です。ただ、年齢階級別にみると、75歳以上の長期入院患者のところだけ、統合失調症は37.9%で、認知症が47.3%となっています(2011年患者調査結果)。

ここの人々は、本来は精神病ではなく、認知症の患者として、介護の対象となるべき人々です。精神病院のスタッフからしても、認知症は、専門外です。ですから、精神病院への入院ではなく、介護施設への入居が本来の形だと思われます。

また、病院側の判断として、退院させるのが困難な人のうち33%は、他に住居がなかったり、家族や周囲からの支援が受けられない状態にあります(2012年調査結果)。この人々についても、別の施設に転居が必要かもしれません。

とはいえ、特別養護老人ホーム(特養)の空きはありません。数十万人規模の待機者がいるのが現実です。国から社会福祉の財源が枯渇しつつある現在、どうしても絶望が見えてしまいます。日本の社会福祉は、いちど破綻するしかないのかもしれません

統合失調症の意義について

統合失調症だからということで、その全ての人が、ここで述べたような困難に直面するわけではありません。普通に社会生活を送っている人も多数います。それどころか、普通以上に活躍している人も多いと考えられているのです。

統合失調症と、学問や芸術に代表される創造性の間には、古くから相関が指摘されてきました(三好, 2007年)。ゲーム理論の確立によってノーベル経済学賞を受賞した数学者ジョン・ナッシュが統合失調症に苦しんだ半生は『ビューティフル・マインド』という映画にもなっています。

一般の人以上に、鋭い感性を持っていたり、物語を空想したり、新しい世界観を見出したりする力を持つということは、運が悪ければ、病的な幻覚や妄想の領域まで至ってしまい、統合失調症をわずらってしまうのでしょう。

この社会に大きな創造性をもたらす人々は、統合失調症を発症するリスクを抱えているとも言えます。そう考えると、精神病院に長期入院できる状態を確保しておくことは、社会的なセーフティーネットであり、社会による創造性への投資という側面があります。

社会が創造性を必要とする限りにおいて、今後も、統合失調症に苦しむ人々は生まれてきます。そうした人々が、私たちの社会を前進させるために戦う人々であると認識されるとき、長期入院に対する考え方も変わるのではないかと思います。

※参考文献
・厚生労働省, 『こころもメンテしよう/統合失調症』, 2011年
・厚生労働省, 『長期入院精神障害者をめぐる現状』, 精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会(第8回), 2014年3月28日
・毎日新聞, 『長期入院3.9万人削減へ 20年度末までに』, 2017年1月9日
・三好留実子, et al., 『統合失調型と創作活動の関連』, 日心第72回大会, 2007年

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