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認知症の人にとっての「リハビリ」とは?

認知症の人にとっての「リハビリ」

リハビリとは「身体の機能回復」のことではない?

皆さんはリハビリテーション(リハビリ)に、どのようなイメージを持っていますか?おそらくは、厳しいリハビリから復帰して活躍するスポーツ選手の報道などから「身体の機能回復」という印象が強いのではないかと思います。

しかし、リハビリには「身体の機能回復」ということ以上の意味があります。本来は、リハビリには、なんらかの課題によって、社会の一員としての役割をうまく担えなくなってしまっている状態からの復帰(社会参加の権利の回復)という意味があります。

ハビリテーションとは「re(再び)」と「habilis(適した)」いう2つの意味を重ねた言葉です(ラテン語)。ここからも明らかな通り、リハビリは、決して「身体の機能回復」に意味の限定される言葉ではありません。

リハビリは、本当は「いまいちど、もともと上手に参加できていた社会に適応する」という、より広い幅をもった言葉なのです。極端に言えば「身体の機能回復」ができなくても、社会の一員として満足できる状態にあれば、それ以上のリハビリは必要ない可能性もあります。

それでも一般には、リハビリというと「身体の機能回復」という意味が固定化されてしまっているのも事実です。このため、介護生活をしている中でリハビリという言葉に出会った時、家族は、要介護者と専門職に対して「身体の機能回復」ばかりを求める傾向があります。実はこれが、新たに問題を引き起こすこともあるのです。

リハビリが求められる典型的な2つのケース

実際に、リハビリが求められる典型的なケースには、以下、2つ大きなものが挙げられます。こうしたリハビリによって、リハビリを受けない場合よりも、介護生活が改善されることも少なくありません。

C1. 転倒により大腿骨頸部(足の付け根)骨折をしてしまった場合

要介護の状態になる原因のうち、約9%が転倒です(原因の第5位)。大腿骨頸部骨折の治療のために、毎年、日本の医療費の約3,000億円が使われています。多くは、転倒後すぐに手術を行い、下肢機能回復のために、歩行訓練などのリハビリが始まります。

このリハビリが順調にいけば、日常生活に大きな支障がない程度の歩行能力の回復が見込めます。しかし、特に75歳(後期高齢者)以上の年齢になっていると、リハビリをしても、歩行能力は元には戻らないまま車イスの生活、場合によっては寝たきりになることもあります。

C2. 脳卒中を発症してしまった場合

日本における死因の第3位となっている脳卒中とは、脳の血管がつまってしまったり(脳梗塞)、脳の血管が破れてしまったり(脳出血・くも膜下出血)する病気です。毎年、25万人以上が脳卒中になっており、寝たきりになる人の約3割が、この脳卒中が原因とされます。

脳卒中になると、まずは手術が行われます。その後は、通常はすぐリハビリに入り、脳卒中によって生まれてしまった機能障害が、そのまま固定してしまわないないようにします。ここでは、少しでも後遺症が小さくなることが目指されるわけです。

認知症の人のリハビリが難しくなる理由

認知症の人たちも、先の2つのケースに代表されるような、転倒して骨折をしたり、脳卒中になることがあります。認知症の人の場合、病院では、治療に必要な点滴などに対しても混乱し、激しい反応をしてしまうこともあります。

環境の変化を受け入れにくくなるのが認知症の特徴でもあるので、めまぐるしい環境変化の中にあれば、それも無理のないことです。

こうした反応が強すぎる場合、それを抑制するために、身体を拘束されることもあります。治療にとっては必要な処置かもしれませんが、これが混乱を進めてしまいます。結果として、認知症が悪化するだけでなく、身体的にも弱ってしまうことも多いのです。

そんな状態で、退院となります。普通は、この後は、リハビリを專門とする病院などに転院しないとなりません。しかし、認知症の症状によっては、転院先となる病院が、転院を拒否することも少なくありません。残念なことですが、事実です。

先に示した2つの代表的なリハビリが有効なのは、あくまでも、要介護者がその意義を理解できる場合の話です。要介護者が、リハビリの意義に納得し、辛さに耐え、主体的に取り組んではじめてリハビリの効果が出てくるからです。

しかし認知症の人は、度合いにもよりますが、特に退院時には、リハビリの意義を理解することが困難なのです。普段であれば理解できる話も、退院の混乱があるときには、難しくもなります。

そのとき、家族はどう考えればよいのだろうか?

認知症の人が退院するときは、身体的に弱っているし、ほとんど寝たきりの状態の場合もあります。このとき家族は「こんな状態では、自宅へ帰ってきても面倒を見られない」「リハビリが出来るところを探して、元の状態に戻るまで置いてほしい」と思うのも当然です。

家族は、リハビリによる「身体の機能回復」を強く願います。しかし、要介護者は混乱状態にあり、とてもリハビリを受け入れられるような段階にはないことが多いのです。ここで、家族のニーズと、要介護者のニーズが衝突してしまいます。

とはいえ、先にも述べたとおり、リハビリの成果を得るには、要介護者本人の意思がしっかりしている必要があるのです。では、どうすればよいのでしょう。リハビリの専門職に話をうかがい、以下3つのポイントを教えてもらいました。ただし、人によって異なるのは当然なので、あくまでも参考としてください。

P1. 治療が必要な状態を脱していることを確認する

まだ症状が治まっていない、在宅医療では支えきれない状態であるとしたら、病院側も、要介護者を退院させることはできません。現実には、多くの病院は、一定期間を過ぎて患者を入院させていると診療報酬が減額されるため、退院を迫るようになってきています。

それでも、そもそも在宅医療では支えきれないなら、転院先を探すことを手伝ってくれたりもします。その病院に医療ソーシャルワーカーがいたら、必ず相談するようにしてください。

P2. 混乱が落ち着く、安心できる環境にうつる

ただでさえ、骨折や疾患による痛みや不自由があるのです。さらに、家族から引き離され、管理された入院生活をおくることで、混乱が大きくなっている可能性があります。まずは、そうした環境から少しでも安心できる環境にうつることが大事です。

具体的には、自宅、在宅復帰を目指す強化型の老人保健施設、介護事業所、認知症の方の対応に強い病院などです。普段は別居していても、家族の家に一時的に引き取ることも選択肢の一つです。いずれにせよ、安心できる環境にうつることで、混乱が落ち着く可能性は低くありません。

要介護者が入院すると、家族としては、正直、少しホッとします。一時的ではあれ、介護の負担から解放されるので、それも当然のことです。しかし、この、安心できる環境にうつるという過程を先送りにすると、認知症が悪化してしまうので注意してください。

P3. リハビリを日常生活の中に取り入れていく

大事なのは「身体の機能回復」のリハビリは、混乱が落ち着いてから(安心できる環境にうつってから)という認識です。そして、年齢によっては、そもそも「身体の機能回復」がうまくいかないケースも多いことを覚悟しておくことです。

混乱があろうとなかろうと、無理に「身体の機能回復」のリハビリを進めれば、認知症が悪化してしまう可能性があります。だからこそ、認知症の人のリハビリにおいては「身体の機能回復」という、せまいリハビリの定義を超える必要があります。

ここで「いまいちど、もともと上手に参加できていた社会に適応する」という、リハビリ本来の意味に立ちかえってみます。まずは、認知症の人が安心して生活できる状態に戻ることです。それ自体が、実は、すでにリハビリなのです。

その上で、失ってしまった身体の機能を、日常生活の中で自然に回復できないか、リハビリの専門職に相談してみてください。慣れない場所で、器具を用いたリハビリはできないかもしれません。しかし普通に暮らしながら、適切に身体を動かしていけば機能回復に成功するケースもあります。

これは理想論ではあります。しかし、とにかく混乱があるままに「身体の機能回復」を願うことは、認知証を悪化させてしまう可能性の高い、危険なことだという意見は、頭の中に入れておくべきでしょう。

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