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高齢者の虐待に関する報道には、決定的に欠けている視点がある(ニュースを考える)

高齢者の虐待

高齢者の虐待件数が増えている事実

まず、虐待は絶対にいけないことです。背景にどのような理由があろうとも、それ自体が認められることはありません。同時に、虐待をただ「いけないこと」として法整備をするだけでは、虐待は無くなるどころか、増えているという現実があります。

特に、要介護者となっている高齢者の虐待が止まりません。2015年に確認された高齢者の虐待は1万6039件でした。この中で、特に介護施設における虐待は、2006年の調査開始よりうなぎ登り(2年で倍増)で、過去最高となってしまっています。

こうして報道に乗るようなケースは、ほんの一握りであることは明らかです。密室で起こる虐待は、そもそも明るみに出にくいものだからです。特に、認知症を発症している高齢者の場合は、虐待を、警察に報告するといった行動ができません。現実には、虐待はこの数字の何倍にもなるでしょう。

昨年度の虐待の状況が、厚生労働省により発表(2016年2月5日)されたことを受けて、報道各社は、これをニュースとして取り上げています。ニュースを分析してみると、虐待の原因とされているのは(1)介護職員の介護知識・技術が足りないこと(2)ストレスが大きく介護疲れがあること、の2つに集約される傾向があります。

しかし、これは「偏り」のある見かたです。以下、もう少し詳しく考えてみます。

報道に決定的に欠けている視点;要介護者の側にも虐待の原因がある

全国有料老人ホーム協会などがつくっている「高齢者住まい事業者団体連合会」が行った虐待防止研修の参加者へのアンケート調査によれば、自分の勤務する介護施設で「虐待が起きていると思う」「起こるかもしれない」と答えた人が82%にもなったそうです(毎日新聞の報道)。

また、認知症の要介護者を介護する家族(100名)に対して行った「認知症のご家族を「虐待」をしそうになったことはありますか?」との質問に「ある」と回答した人は全体の79%にもなったそうです(株式会社ウェルクスの報道)。

こうした虐待は、基本的に「普通の人」が行っているからこそ、怖いのです。報道されることが増えてきた介護殺人でも、犯罪者になってしまった介護者への同情が多くみられます。殺人にさえ、共感できてしまう人が多いという現実があるわけです。

しかし、虐待の原因として報道されるのは、いつも、介護職や介護者(家族)の側にある原因ばかりです。ここには介護されている側の問題、すなわち「要介護者の特徴が、虐待を呼び込んでしまう原因にもなっている」という視点が決定的に欠けているのです。

当然、こうした報道が要介護者の差別につながってしまわないような配慮も必要です。そもそも、要介護者も、好きでそういう状況を作っているわけではないことがほとんどなので、そこに、個人的なレベルでの非難が向かうべきでもありません。ここで主張したいのは、虐待の肯定では決してありません。この点については、誤解のないよう、強調しておきたいです。

ただ、要介護者から、日常的に暴力・暴言を受けている介護者(家族)が多数いるのも事実です。ですから、少なくとも要介護者による介護者の虐待という視点での調査・報道も必要です。

介護者の多くには「被害者」としての側面もあります。いつもアザだらけの介護者を見たことがあれば、今のような介護現場における虐待に関する報道には「偏り」が感じられるはずです。

重い介護の責任は、いつまで家族に課せられるのか

とにかく「普通の人」であっても虐待をしてしまうのは、要介護者という存在との関わりが、誰にとっても非常に難しいからです。実際に虐待をしてしまった人の多くは「まさか自分が」と思っていると考えられます。

報道では、解決策として「介護をする家族を支援する」といった案が上がっていますが、誰が、どう支援してくれるのでしょうか。待っていれば、本当に助けてくれるのでしょうか。厳しい状況に置かれている介護者には、空虚な解決策に聞こえます。

重い介護の責任を、家族に負わせること自体が、そもそも無理というところを、真剣に議論する必要があると思います。せめて、特に対応の難しい要介護者の介護は、国が責任を持って、熟練の介護職をつけた施設介護に移管していくことを検討してもらいたいです。

※参考文献
・NHK NEWSWEB, 『高齢者への虐待2年連続で増加 介護疲れが一因』, 2016年2月5日
・TBS NEWSi, 『介護職員による高齢者虐待、過去最多』, 2016年2月5日
・日本経済新聞, 『介護施設で虐待、最多300件 14年度35.7%増』, 2016年2月5日
・毎日新聞, 『高齢者虐待2014年度300件 35%急増』, 2016年2月5日
・朝日新聞, 『介護職員の高齢者虐待が3割増 14年度、過去最多更新』, 2016年2月6日
・読売新聞, 『介護施設虐待、最多300件…被害の7割認知症』, 2016年2月6日
・株式会社ウェルクス, 『認知症の介護家族の約8割が「虐待」しそうになった経験が「ある」。調査データ発表』, 2016年1月21日

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