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デンマークの高齢者介護システムに学べること

デンマークの高齢者介護

北欧の社会福祉には学ぶべきところが多い

オランダ、スウェーデン、デンマークといった北欧の国々における社会福祉には、学ぶべきところが多いと感じている人が多いでしょう。北欧は、いわゆる「成熟社会」と呼ばれており、教育や市民参加型の政治など、ときに「ため息」が出るほどに進んでいます。

もちろん、こうした国々も、ある日突然「成熟社会」になったわけではなく、様々な課題と悲惨な歴史を通して、少しずつ社会を発展させてきたわけです。私たちは、そうした北欧の国々の歴史に学び、同じことを繰り返すことなく「成熟社会」の仲間入りをしていきたいものです。

今回は、簡単にではありますが、デンマークの高齢者介護システムについて紹介します。あくまでも概要ですので、本当に詳しく理解したい人は、最後に示す参考文献などを直接あたってください。

デンマークの社会福祉財源は税金である

日本との最大の違いは、デンマークは、社会福祉の財源を、すべて税金でまかなっていることです。ですから、税率は極端に高いです。所得税は50%以上になり、消費税も25%(日常必需品以外)です。

まず、日本の所得税ですが、累進性が取られています。年収195万円以下=5%、年収195〜330万円=10%、年収330〜695万円=20%、年収695〜900万円=23%、年収900〜1,800万円=33%、年収1,800〜4.000万円=40%、年収4,000万円超=45%、となっています。

日本が、医療や介護の費用をどこから出しているかというと、税金だけでなく、現役世代から社会保険料を徴収し、それを高齢者が使うという「賦課方式」になっています。高齢者にとっては嬉しいですが、現役世代には厳しいです。

日本は、高齢者を、現役世代が支えているという形なのです。これは、人口にしめる現役世代の割合が大きく、高齢者が少ないときにだけ成り立つ方式です。日本の社会福祉が破綻していると言われるのは、この「賦課方式」に原因があります。

デンマークでは、高い税率にもかかわらず、満足度も高いという状況にあるようです。なぜなら、医療費、介護費、年金、教育は、すべて税金(国庫)から出ているからです。お金持ちでなくても、安心して暮らせる社会であれば、高い税金も飲み込めるということでしょう。

さらに、デンマークにおける労働者の約35%を占めるのは公務員です。そして、医療・福祉に関わる人材のほとんどが、公務員であるという事実は、日本も学びたいところでしょう。日本では、介護職の年収は、公務員の半分程度になっており、明らかにおかしい状況が続いています。
 
デンマークの精神

ノーマライゼーションの精神を貫いている

ノーマライゼーションとは、今から50年以上も前、1960年代の北欧において発達した考え方です。障害や病を抱えた人を、施設に隔離したりする形で排除するのではなく、そうしたハンデを抱えていても、健常者と変わらず、普通に(ノーマルに)暮らせる社会を築くという理想です。

デンマークは、そのころから、少しずつこの理想の実現に向かってきました。年金も、日本のように徴収されるのではなく、デンマーク国民であれば誰もが65歳から支給される仕組みになっています(さらに給与の一定額を積み立てる制度もある)。

デンマークは、社会福祉に「穴」がなく、安心して暮らせる社会なので、高齢者は、自分の子供と同居しているケースはほとんどありません。医療も介護も、国の責任であり、家族にその負担が強いられるということもありません。

ノーマライゼーションの理想実現のためには、介護を必要とする人であっても、できるだけ普通に暮らせないといけません。そのために、本人ができることを減らさずに、またできることを増やしていくために、介護職に求められる要件は高くなっていきました。現在では、介護職には、医療をはじめとした様々な教育が与えられています。

デンマークの高齢者介護システム

デンマークにも、苦しい時代がありました。高齢化率10%を超えた1960年代には、日本の特別養護老人ホーム(特養)に近い介護施設(プライエム)が多数建設され、大規模化していきました。これは、ノーマライゼーションの理想に逆行するものでした。

この状態を脱するため、デンマークでは1982年に「高齢者三原則」が採択され、老人ホーム的な介護施設(プライエム)の新規建設が禁止されます。誰も、隔離されない社会を目指したのです。財源の問題も顕在化して「在宅介護」への大きな舵取りが開始されました。この三原則を『デンマークの認知症ケア動向Ⅰ』(認知症介護情報ネットワーク)より引用します。

高齢者三原則
○ これまで暮らしてきた生活と断絶せず、継続性をもって暮らす(生活の継続性に関する原則)
○ 高齢者自身の自己決定を尊重し、周りはこれを支える(自己決定の原則)
○ 今ある能力に着目して自立を支援する(残存能力の活性化に関する原則)

これ以降、デンマークには、介護施設(老人ホーム)という概念は否定されます。それに近いものはありますが、それでも、基本的には隔離という形は取らず、介護が必要な高齢者が集まる「集合住宅」という位置付けを厳格に守っています。

極端に言えば、デンマークではすべてが「在宅介護」です。これを支えているサービスは、日本と同じようなものが多くあります。ただ、日本と決定的に違うのは、デンマークでは、要介護認定や利用制限がなく「必要とする人が、必要なときに」無料で使えるということです。

すべて「在宅介護」ですから、日本よりも、訪問介護(ヘルパー)が充実しています。一度の訪問時間は5〜20分程度と非常に短いのですが、そのかわり、1日のうちに何度も訪問してくれます(排泄介助、移乗、寝返りのため)。また、夜間のケアも標準になっていて、緊急対応も万全です。

デンマークにおける認知症への対応

理想だけでは、どうにもならないのが認知症対応です。デンマークでも、ここは、自治体によって対応が異なります。ある自治体では、ノーマライゼーションの理想のとおり、認知症の高齢者と地域住民が空間を同じくして暮らしています。しかし別の自治体では、特に対応の難しい認知症高齢者には、居住区を引き離す政策が取られています。

また、他人に危害を与える可能性が高い場合には、身体拘束もあります。日本のように日常的ではないにせよ、デンマークでも、どうしても達成できない理想があり、それとの戦いは続いているということでしょう。

また「在宅介護」の理想も、実際には、高齢者の幸せと「在宅介護」が直結していないケースも多数認められています。ここには、現在も解決していない矛盾があり、デンマークと言えども、まだ理想には行き着いていない状態です。

※参考文献
・認知症介護情報ネットワーク, 『デンマークの認知症ケア動向Ⅰ 高齢者介護システム』
・熊坂聡, 『高齢者施設を住宅に転換する過程で何が起こったか ―デンマークでの介護住宅センターに対する聞き取り調査から―』, 宮城学院女子大学発達科学研究, 2013.13.1-10
・石黒暢, 『既存プライイェムの生活・居住ユニットケア導入プロセス:デンマークのヨアツホイ(Hjortshoj)介護型住宅の実践から』, IDUN 17, 207-226, 2006

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