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特養が、困窮者を救う!こうした柔軟な対応を広げるために、必要なこと(ニュースを考える)

特養が、困窮者を救う

誰でも、ちょっとしたことで貧困化する社会

現代は、まじめに、しっかり生きてきたとしても、病気になって高額な治療費を支払うだけで、簡単に貧困化してしまう社会です。自分は関係ないと思っても、現実は、そんなに優しくありません。

社会福祉(セーフティーネット)を考えるということは、自分の未来を少しでも安全なものにするという意味があります。どこか、知らないところで起こっている不幸への対応ではないのです。

そんな中、日本には苦手と思われてきた「柔軟な対応」の成功事例が、福祉新聞によって報道(2016年1月21日)されました。単に、心温まるニュースというだけでなく、日本の可能性を感じさせる、多くの人が学ぶべき「先例」としたい話です。以下、引用します(太字は KAIGO LAB)。

熊本県では2015年4月から、社会福祉法人が制度の谷間にある人を支援する「生計困難者レスキュー事業」が始まっている。緊急性の高い困窮者には、特別養護老人ホームなどが施設を宿泊先として提供したり、食料も支援したりする。(中略)

「久々に布団で寝た時の心地よさはたまらなかった」−。昨年6月、レスキュー事業により路上生活から脱却した熊本市在住の80代男性は、支援を受けた日のことを忘れられないという。

百貨店に勤務していた男性は、もともと妻の親族が所有するマンションに住んでいた。ところが、定年後に妻が病気で長期に渡って入院し、多額の治療費が重くのしかかった。妻の死去後、家を出ざるを得なくなったが、保証人のいない高齢者の一人暮らしでは簡単に家も借りられない。仕方なく市内の温泉センターで寝泊まりしていたという。

やがて貯金も底をつき、やむなく路上生活を開始したものの、高齢の体に路上生活はひどくこたえる。1カ月ほど悩んだ末、福祉事務所に相談に向かった。(中略)

男性が福祉事務所を訪れたのが午後1時で、施設に着いたのが午後5時。あまりのスピードの早さに、男性は「これならもっと早く相談に行けば良かったと後悔した」と言う。2週間ほど特養ホームに滞在した後、男性は市社協のあっせんで、施設から車で15分ほどのところに家を借りた。必要な家財道具などは法人が職員などに呼び掛けて集め、男性に寄贈したという。

制度の「谷間」を埋めるのは、人間の意志である

熊本県がすばらしいのは、制度の「谷間」を直視し、そこを埋めることに力を注いでいる点です。それも、掛け声だけの官民連携ではなく、実務レベルでの連携に成功しています。

こうした「谷間」は、社会福祉に限らず、組織であればどこでも発生します。そして特定の組織の強さは、まさに、様々な制度の「谷間」において、ポテンヒットを起こさないことです。

制度の「谷間」と戦うことは、ロボットには決してできません。意志をもった人間だけができることです。制度のとおりに物事を動かすことは、ロボットが得意なことです。ミスもありません。

この社会は、こうした制度の「谷間」にあふれています。私たち人間の価値は、自分がどれだけ、こうした「谷間」に向かいあってきたかにもよるでしょう。「谷間」を見たとき、そこから逃げず、この熊本県の事例のように「なんとかしてやろう」という気持ちを持って向かいたいですね。

熊本県、本当にすばらしいです。こういう自治体なら、もっと税金を払ってもいいと感じます。

介護業界の役割は、これからさらに拡大していく

このニュースで紹介されている「生計困難者レスキュー事業」の要になっているのは、短期間の一時避難場所(シェルター)を提供する特養(特別養護老人ホーム)です。

介護業界で働く人々は、高齢者のスペシャリストであるだけでなく、一般人以上に、医療に関する知識も持っています。災害時にはもちろん、超高齢化社会を迎える日本において、介護業界自体が、緊急時のシェルターとしての役割を担っていくことになるでしょう。

その意味でも、現在の介護業界における人手不足は、大問題なのです。このニュースでは、80代の男性が2週間滞在したという特養の、その現場にいる人々の声までは拾えていません。実際に、この対応をした介護職員には、普段よりも大きな負荷がかかったはずです。

いつまでも、現場の人々の善意による自己犠牲に頼っていることはできません。このニュースの最後でも触れられている通り、結局、必要な家財道具を寄付しているのは、介護業界の人々です。しかし増え続ける高齢者の数は、こうしたボランティア精神だけではとても対応しきれないものになっています。

にもかかわらず、介護職の平均年収は、全産業の平均年収よりも100万円以上安い状態にあります。ベテラン職員も、新人職員とほとんど変わらない待遇で働かされています。

極端な例では、外国人介護士の教育・指導をしながら、自分の仕事もこなしているベテラン職員が、どういうわけか外国人介護士よりも低い待遇になっているケースもあると聞きます。

介護業界は、日本における社会福祉制度の「谷間」と戦う人々の集団でもあります。日本社会として、制度の「谷間」に「橋」をかけてくれている人々に対して、正しい待遇と尊敬をもって当たらなければ、私たち自身の将来が、とんでもないことになってしまいます。

※参考文献
・福祉新聞, 『特養が困窮者に宿泊場所など提供 社会福祉法人が連携しスピード対応』, 2016年1月21日
 

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