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新規の介護事業は、なぜ失敗するのか?大きすぎる盲点に気づいていない経営者が多い。

高齢者の心理の深読み

介護業界は成長産業です

ライフネット生命保険の創業者、岩瀬大輔氏は、様々なところで、新規事業の開拓ターゲットとすべき市場の特徴を述べています。それらは(1)市場規模が大きいこと(2)その市場に大きな非合理が存在していること(3)その非合理が新技術や規制緩和によって解消される可能性が高いこと、の3つです。

この3つのポイントに照らしても、介護業界には大きなビジネスチャンスがあると言えます。介護の市場規模は大きいですし、大小様々な非合理でいっぱいですし、それらはIT、ロボット技術、制度改革によって解消されていく可能性が高いからです。

そうしたわけで、現在、多くの企業が新規事業領域として介護(ヘルスケア)に参入してきています。さらに、VC(ベンチャーキャピタル)も、介護系のスタートアップ(起業)に投資をしはじめています。お金も人材も、どんどん入ってきているので、失敗も多いでしょうが、いずれ面白い事業が立ち上がってくるでしょう。

そんな環境にあって、KAIGO LAB にも、少なからぬ事業相談があります(だいたい、週に2件くらいのお問い合わせがあります)。こうした方々にお会いして、いつも感じている「盲点」があるので、それについて少し考えを述べておきたいと思います。

顕在(けんざい)ニーズと、潜在(せんざい)ニーズの違い

いかなる事業においても「顧客の理解」がなければ、かならず失敗します。いわゆる顧客ニーズ(欲求)の把握が大事になるわけですが、特に、顧客ニーズの中でも、本人が気がついているニーズ(顕在ニーズ)よりもむしろ、本人が気がついていないニーズ(潜在ニーズ)のほうが大事です。

顕在ニーズは、アンケートによって、理解できます。困っていること、求めていることを直接聞けば、それに答えてもらえるからです。しかしこうした顕在ニーズは、自社だけでなく、競合もまた簡単に取得することが可能です。結果として、そうした顕在ニーズに応えるような商品は、供給過多になり、価格競争に巻き込まれ、利益が出にくいものになりやすいのです。

これに対して、潜在ニーズは、そもそも顧客自身が、自分がそれを求めていることに気がついていないものです。フォード自動車の創業者は「もし私が、顧客に何が欲しいですかと尋ね歩いたら、顧客はもっと速い馬が欲しいと答えただろう」と言っています。自動車を見たことがない顧客は、自動車が欲しいとは答えられないわけです。

こうした潜在ニーズを上手にとらえることができたら、フォード自動車のように、その後、大きな成長を得ることができます。ですから、介護においても、誰もが知っているような顕在ニーズではなくて、できるだけ誰も知らない潜在ニーズをとらえるべく努力すべきなのです。

20年前の自分が、今の自分のことを理解できますか?

潜在ニーズを見つけるには、できる限り顧客の立場にたって、顧客の心理を深読みする必要があります。介護業界への参入をもくろんでいるビジネスパーソンも、当然、高齢者の心理を深読みしようと頑張っています。

ただ、少なからぬケースで、高齢者の心理の深読みは失敗しているように思います。その理由は簡単なのですが、それに気がつくのは難しいのかもしれません。

高齢者の心理をとらえるのが難しいのは、多くのビジネスパーソンが高齢者ではないからです。にもかかわらず「こうだろう」という勝手な予想をして、失敗しているようなのです。

大前提として認識しておくべきなのは、高齢者は、自分よりも知識も経験もあるという事実です。たとえば、20年前の自分が、今の自分の心理を予想できるでしょうか。同じように、自分よりも20年、30年も長く生きている人の心理を、今の自分が予想できるでしょうか。

ともずれば、高齢者は、新しい技術などに弱いですし、見た目も弱々しくなっているので、現役世代としては「自分よりも下」だと勘違いしやすいかもしれません。しかし、ITに弱くても、見た目が弱々しくても、高齢者は、人生経験において、現役世代よりも圧倒的に上にあります。

新規に介護事業をつくりあげるのが難しいのは、それが本質的に、自分よりも知的に優れた顧客に対して、商品やサービスを提供することだからです。そして、人間は、自分よりも知的に優れた人の心理を深読みすることはできません。

高齢者向けのビジネスで成功するための鍵

こうしたことを認識すれば明らかなとおり、高齢者向けのビジネスで成功するためには、そのビジネス開発において、できるだけ多くの高齢者に関わってもらうことが必要なのです。

20歳の若者には、40歳向けの商品やサービスはつくれません。同じように、ベテランとはいえ、40歳のビジネスパーソンに、60歳向けの商品やサービスはつくれないと考えたほうが無難です。

「自分は顧客を理解している」というのは、多くの場合、おごりです。私たち人間は、ときに、自分の配偶者のことさえわからなくなる生き物です。ましてや、他人であって、かつ、年齢もずっと上の高齢者のことを理解するのは、とても難しいと考えるべきでしょう。

逆に言えば、これが難しいからこそ、そこにはチャンスもあります。多くの競合は、高齢者の心理の深読みに失敗してくれるわけです。ですから、自分たちは、できるだけ丁寧に、実際に多くの高齢者を巻き込み、観察しながら、潜在ニーズをとらえることに注意深くなるべきでしょう。

そうした活動から生まれる答えは、おごりから生まれる答えよりも、ずっと優れているはずです。結果として、それが商品やサービスの差別化につながり、事業を成功に導いてくれるでしょう。

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