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介護業界における「新人いじめ」について考えてみる

介護業界における「新人いじめ」について

残念ながら、非常によく聞く話なのです

実は、介護業界では「新人いじめ」が横行している可能性があります。程度の差はあれ「新人いじめ」は、どこの業界でも存在するでしょう。しかし、これは完全に主観的な意見なのですが、介護業界における「新人いじめ」の状況は、他の業界におけるものよりも深刻だと感じます。

介護業界では、離職理由として「職場の人間関係」というものがよく出てきます。この「職場の人間関係」とは、好意的に考えると「ただ相性がわるいだけ」ということかもしれません。しかし、現実に多くの介護職の人々と話をしていると、どうやらその中身は「新人いじめ」ではないかと思うのです。

介護業界には、人間的に優しい人が多いという印象があります。にもかかわらず「新人いじめ」があるとしたら、それはどうしてなのでしょうか。また、そうした「新人いじめ」による介護職の退職を防止するための手段はあるのでしょうか。

ストレスが多い職場で、連携が求められる高度な仕事

介護職の現場は、まず、ストレスが大きい職場です。特に、顧客(=要介護者)との接触時間が長く、サービスを常に顧客に見られているという部分は、他の職種にはない特徴です。常に顧客に見られている、顧客から何かを要求されているというのは、誰にとってもストレスになるでしょう。

また、介護職は、1人の要介護者に対して複数人で関わるという仕事です。高度な連携が求められ、要介護者に対して優れたサービスを届けようと思ったら、自分1人ではなくて、要介護者に関わる全員のサービス品質が求められます。

そして何より、介護職は人手不足であり、仕事量に対して、かなり少ない人数で仕事を回しています。同僚の誰かが急に休んだりしたら、それこそ戦場のような忙しさになります(日常的に戦場のような職場もあります)。

そこに新人が入ってきたとします。介護業界は、ここ数年で急速に大きくなった業界ということもあり、新人の多くは実質的に介護の未経験者だったりします。本来であれば、こうした新人に対しては、十分な研修の機会などを準備・導入してから、現場に入ってもらうべきところです。

しかし、今の介護業界にはそのような余裕はなく、ちょっとの研修で、新人を現場に出してしまいます。これは、現場への教育の「丸投げ」です。しかし、ご存知の通り、現場には、未経験者に対して懇切丁寧に仕事の指導をする余裕などないわけです。

現場にいるベテランとしては「なんで、こんな未経験者を、いきなり現場に入れるんだ?利用者(=要介護者)のことを考えたら、危険だし、ありえない!」と考えるところです。

しかも、介護の仕事は、自分一人で完結することはなく、チーム戦なわけです。チームメンバーが弱ければ、チーム全体が弱くなり、結果として、要介護者に優れたサービスを提供することができなくなります。

「新人いじめ」が発生しやすい条件が整ってしまっている

新人は、要介護者の排泄物をみて「うわー」といった露骨な反応を要介護者の目の前でしたりするわけです。誰でも、介護経験が浅いうちは、排泄物の処理などの仕事は厳しいものです。ですから、そこは本当は仕方がない部分ではあります。

しかし、それを間近に見るベテランとしては、要介護者に対して失礼だし、それによって要介護者が自信をなくしてしまうことを恐れます。やっと少し心を開いてくれるようになった要介護者が、新人のマズい対応で、また難しい状態に逆戻りしたりもするのです。

そうなると、ベテランとしては「もっと経験のある人を採用してもらいたい」と考えて当然です。それが、新人への風当たりを強くさせ、場合によっては意図的に辞めさせようという方向に行ってしまうこともあるのかもしれません。

本当は、余裕があれば、手取り足取り、介護の実務を教えてあげたいところです。しかし、どこも人手不足であり、さらに、要介護者の数はどんどん増えているという中、そうした余裕はありません。

それと意図していなくても、新人に対して「もっと、ちゃんと仕事してよ!」という具合に、冷たく当たってしまうようなことが起こりやすいはずです。さらに、忙しい中で、新人から質問をされたりすると「そんなの、自分で調べてよ!」となる可能性も高いでしょう。

介護業界における「新人いじめ」を心理状態から考えてみる

研究によれば「いじめ」には、大きく分けて4つのプレーヤーが存在しています。それらは(1)加害者(2)被害者(3)観衆(4)傍観者です。また、別の研究によれば、職場の「いじめ」は、職位上の上位者(先輩、上司)が加害者となり、職位上の下位者(新人、後輩)が被害者になるケースが多いようです。ここから、それぞれのプレーヤーについて、典型的な心理状態を考えてみます。

(1)加害者の心理状態

自分はまじめに介護に関わってきた。利用者からの信頼も得ているし、自分がいなければ、この職場は回らない。利用者のために、きちんとした仕事をしていくためには、職場全体の能力を高めないといけない。それなのに、また、未経験の新人が入ってきた。未経験というだけならよいが、介護の仕事をナメているようにも見える。いっそ、この新人には辞めてもらって、また別の、もっとよい人を採用してもらったほうが、利用者のためにもよい。

(2)被害者の心理状態

人の役に立てる仕事だし、やりがいもあると思って介護業界に入ってきた。しかし、想像以上に仕事はきついし、特に排泄物の処理はやりたくない。もっと早く、利用者から感謝されるものだと思っていたのに、介護の実務は難しくて、利用者からも叱られる。なんだか想像と違っているし、このまま頑張っていけるものだろうか。いっそ、介護業界を出て、他の業界に再就職したほうがよいのではないか。

(3)観衆の心理状態

あー、また加害者が「新人いじめ」をはじめた。確かに、あの新人は仕事に対する態度がおかしいから、仕方ないな。自分だって「新人いじめ」を耐えて、やっと一人前になったのだから、耐えられないのなら新人のほうも悪いよね。適当に加害者を応援しつつ、新人の「お手並み拝見」をさせてもらおう。でも一応、管理者には「未経験者は採用しないほうがいいですよ」くらいの報告はしておこうかな。

(4)傍観者の心理状態

なんだか「新人いじめ」があるようだけど、自分には関係ないし、関わらないほうがいいな。自分の持ち場をしっかりと守って、利用者に喜んでもらえればそれでいいわけだし。それに、自分はまだ半人前だし、加害者に目をつけられたら、今度は自分のほうが危ない立場になってしまう。実務的にも加害者の能力には勝てないから、放っておくしかない。

介護業界における「新人いじめ」を減らすためには

介護業界における「新人いじめ」を減らすためには、本質的には、研修などの教育機会を十分に与え、それぞれの介護実務能力を高めることが求められます。新人であっても、十分な研修によって、他の同僚に迷惑をかけない程度の仕事ができれば、そうそう「いじめ」の対象にはならないはずです。

それでも「新人いじめ」がある場合は、鍵となるのは、先の4つのプレーヤーの中の(4)傍観者です。傍観者は「新人いじめ」を仲裁したり、抑制したりする立場になります。このためには、傍観者を新人のメンターにすることが効果的だと思われます。

ある研究(浜本, 2014年)によれば、傍観者が「いじめ」の仲裁をするのは、被害者が傍観者の「友達」である場合だということがわかっています。これは中学生を対象とした研究なのですが、大人でも大差ないと考えれば、被害者と傍観者の関係性を深めておくことが大事だということがわかります。

であれば、特に未経験者の新人を採用する場合、メンターをつけて、新人を現場に投入する前に十分な教育を行うということが、根本的に「新人いじめ」をなくしていくための手段になりそうです。

まとめ

・介護業界では「新人いじめ」が起こりやすい可能性がある
・これを抑止するには、教育機関の拡充が必要
・メンター制度を導入し、新人を現場に投入する前に十分な教育を行う

※参考文献
・浜本瑞, 小林哲郎, 『罪悪感と共感性が中学生のいじめ場面への関わり方に与える影響』, 日本教育心理学会総会発表論文集 (56), 769, 2014-10-26
・Lifehacker, 『学生時代よりたちが悪い? 大人のいじめ対処法』, 2015年9月7日
 

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