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東京都が介護施設職員に家賃補助?この発想の問題点について(ニュースを考える)

家賃補助

東京都の取り組みとして

東京都が、介護施設職員に対して家賃補助をするという話がニュースになっています。一見、嬉しいニュースではあるのですが、色々と考えるべき点が多い発表ですので、ピックアップしてみます。まずは、NHKによる報道(2015年12月30日)から、一部引用します(太字はKAIGO LABによる)。

介護施設の職員の待遇を改善し、人手不足の解消につなげようと、東京都は介護施設が空き家などを活用して職員用の住宅を確保する場合、家賃を補助する制度を来年度から導入する方針を決めました。(中略)対象となるのは、介護サービスを利用する高齢者など、災害時に通常の避難所では生活を続けることが難しい被災者を受け入れる「福祉避難所」の指定を受けた介護施設です。

都は空き家やアパートを借りるケースを想定していて、およそ7万円を上限に家賃の金額に応じて補助を行い、介護職員の待遇改善につなげたいとしています。(中略)都の担当者は「空き家対策の一助にもなる取り組みで、人材を確保し運営態勢の強化を目指す施設をしっかり支援したい」と話しています。

これはこれで、ほんの少しですが、介護業界の待遇改善につながるので、嬉しいニュースではあります。しかし、やはりと言いますか、もう少し考えておくべき点もあるように感じるのです。

相変わらずインセンティブ設計には問題がある

この東京都の取り組みは、介護業界の人材に対して、どのようなインセンティブ(=人材の意欲を引き出すための刺激)になっているでしょうか。まず、簡単に言えることは「福祉避難所」に指定されている介護施設に、介護業界で働く人材の人気が集中するということです。

逆に言えば「福祉避難所」に指定されていない介護事業者にとってはピンチです。なにも手を打たなければ、実質的に「福祉避難所」に指定されている介護施設とは、職員の実質的な待遇に最大で月額7万円(ここの計算はわかりませんが)もの差がつけられてしまうのですから。職員に転職されてしまう可能性が高まります。

また、そもそも介護施設に入所できている要介護者というのは、決して多くはありません。特に東京都は、介護施設が足りていません。ですから、多数の要介護者が(本当は施設に入るべきだとしても)在宅介護を受けています。

しかし、報道によれば、今回の家賃補助は、在宅介護系の介護サービス事業者には適用されません。ということは、在宅介護系の介護サービス事業者は、この制度によって弱体化させられてしまいます。ただでさえ経営が厳しく、倒産や廃業が相次いでいる介護事業者にとって、人材を失うことは死活問題に直結します。

そうなると困るのは、現在、都内で在宅介護をしている介護者(家族)です。今、お世話になっているヘルパーが「福祉避難所」になっている介護施設に転職してしまう可能性が高まるからです。その後を引き継ぐ人がいればまだよいですが、この人手不足の状態では、最悪はサービスが受けられなくなる可能性もあります。

同一労働・同一賃金の原則からも外れている?

今回のように、介護業界に給付されるお金が増えるのは良いことです。ただ、インセンティブ設計については、本当に慎重にならないと、大変なことになってしまいます。今回のケースでも、そこがとても心配です。

本来は、同じ仕事をしていれば、同じ賃金が得られないといけません(同一労働・同一賃金の原則)。これは、国際労働機関(ILO)における憲章の前文にさえなっている「基本的人権」です。しかし、今回の制度は、どうでしょうか。どうにも、不公平な感じがしてしまいます。

「福祉避難所」なのだから、職員には、災害時にはすぐにそこに駆けつける義務が発生するのでしょう。では「福祉避難所」に指定されていない介護施設や介護サービスに従事する職員は、災害時には、要介護者を無視して避難するのでしょうか。そもそも介護業界にいるのは、そんな人々ではないのです。

より公平に分配するための財源が足りないというなら、優遇すべきなのは、介護業界の現場で長く働いてくれている人々です。その勤続期間によって、段階的に家賃補助を出すといった形式のほうが公平(より介護経験のある人材のほうが良い仕事をするという仮説)だと思うのですが、どうでしょうか。

※参考文献
・NHK NEWSWEB, 『介護施設職員の住宅確保で家賃補助へ東京』, 2015年12月30日
 

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