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高齢者にとって音楽がいかに重要か、考えてみた。

高齢者と音楽

加齢にともなって記憶力は衰えていくが・・・

加齢によって、記憶力は衰えていきます。人間の記憶には、短期記憶(短期間だけ保持される短い記憶)と長期記憶(より長期に保持される記憶)があります。高齢者になるということは、一般に、短期記憶の力も、長期記憶の力も衰えるということです。ですから、新しいことを覚えたりするのも、難しくなっていきます。

しかし、昔のことは、意外と覚えています。これを特に「超」長期記憶と言ったりします。昔行った場所、昔学んだ学問、昔から付き合いのある人、そして昔聞いた音楽といったことは、脳のどこかに保持されているのです。

もちろん、一般的な記憶力である短期記憶や長期記憶が失われてしまわないように、普段から知的なトレーニングをしたりすることも大事です。同時に、昔の記憶、すなわち超長期記憶も上手に活用して、脳を活性化することも意味があります。

「新しい道路」と「古い道路」

短期記憶や長期記憶の活用は、脳内に「新しい道路」を作るようなものです。しかし「新しい道路」を作るのは、骨の折れる作業で、だんだん衰えていきます。ですが脳内には、過去に築いてきた「古い道路」がすでにあるのです。それが、超長期記憶です。

ただ「古い道路」も、放っておくと雑草が生えて、走れなくなってしまいます。なので、普段は「新しい道路」を作る努力をしながらも、今走ることができる「古い道路」を楽しむことで、脳全体を活性化することも大事なのです。

「新しい道路」を作るのは、後でそこを走ると楽しいからです。ですがたとえ「新しい道路」を走ることができなくなったとしても、まだまだ「古い道路」を走ることはできます。そうして走ることを楽しむことは、そもそも、私たちが生きる目的なのかもしれません。

喜怒哀楽に満ちた自分の人生という「映画」の再生スイッチ

街中で、BGMが流れていたとします。それが、とても古い音楽で、昔、自分が聞いていたものだったとしましょう。そうしたとき、私たちの中では、昔その音楽を聞いていたときの記憶が湧き上がってきたりします。これが、超長期記憶の発見です。

普段は、思い出すことのないような超長期記憶が、特定の音楽をきっかけとしてよみがえることがあります。要するに、音楽とは、喜怒哀楽に満ちた自分の人生という「映画」の再生スイッチなのです。そしてその「映画」は、例外なく、自分だけのオリジナルです。

脳が衰えて、新しいことが覚えられなくなり、自信をなくしてしまっていたとします。それでもなお、人間は、音楽という再生スイッチがあれば「古い道路」を高速で疾走することができます。認知能力が落ちてきている高齢者にとって、これ以上の希望があるでしょうか。

昔聞いていたと思われる音楽を、次々と再生しながら、再生スイッチを探します。「カチッ」といったとき、ずっと忘れていた超長期記憶の「映画」が再生されます。それは当然、楽しい記憶ばかりではないと思います。

ですが、それが怒りや悲しみを呼び起こすとことになっても、そうして自分の中に沸き起こる感情の起伏に「自分は確かに生きている」ということを確認するのも人間ではないでしょうか。

高齢者が音楽から得られるもの

特に、言語障害者と認知症高齢者においては、昔聞いた音楽を聞くことが、症状の回復をもたらすことが知られています(暴言や徘徊が減るなど)。そのためには「懐かしい音楽」を見つけ出す作業が必要ではあります。しかし、その労力に見合った効果が期待できます。

ネガティブな感情が減り、ポジティブな感情が刺激されるそうです。情緒が安定し、身体の苦しみが減り、意欲がわくとも言います。歌ったりして、自らも、その音楽に参加すれば「自分はまだ色々なことができる」という自尊心が高まります。

歌うことは、肺を使います。結果として、健康が促進されたり、身体機能が回復することにつながります。歌を、一人ではなくて、みんなで歌ったりすると、連帯感が得られます。連帯感は、自分は一人ではないという感情につながり、孤独感が減ります。また、協調性も高まるそうです。

人間に音楽が与えられていることの素晴らしさを、本当の意味で理解するのは、自分が高齢者になったときなのかもしれません。そう考えると、まだ高齢者ではない私たちは、今のうちから音楽をしっかりと聞いておく必要がありそうです。この「映画」の再生スイッチがないなんて、恐ろしすぎます。

※参考文献
・近藤勉, 『高齢者の心理』, ナカニシヤ出版(2010年)
・村井満恵, 『高齢者施設における音楽療法教育の指導について』, 聖徳学園
・坂下正幸, 『『なじみの音楽』が認知症高齢者に及ぼす改善効果』, 立命館人間科学研究, 16, 69-79, 2008年
 

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