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介護業界におけるシェアリングサービスの功罪

介護業界におけるシェアリングサービスの功罪

労働力のシェアリングエコノミー

個人が持つ物やサービス、場所などを多くの人と共有したり、交換して利用するシェアリングエコノミーのサービスが増えてきています。日本でも徐々に普及してきていますが、自家用車を持つ人が他者にそれを貸したり、乗せたりするカーシェアリングがよく話題に上がっています。

他にも、個人が保有するスキルや、中古品を仲介して売買するシェアリングのサービスも普及してきています。そうした中、特に注目されているのが人、つまり労働力をシェアするというシェアリングエコノミーです。

これまでの人材派遣などと異なり、子育て中の主婦層やシニア層など、ちょっとした空き時間やスキマの時間を持つ人たちに、仕事をしてもらうサービスです。そして、人材不足が懸念される介護業界でも、こうしたサービスが出てきました。以下、日経デジタルヘルスの記事(2019年2月20日)より、一部引用します。

介護テック事業を手掛けるプラスロボは、すきま時間を活用して働きたい人と介護施設をマッチングするWebサービス「Sketter(スケッター)」(α版)を2019年2月21日に開始する。

介護施設には、資格がなくてもできる一般業務が数多くある。すきま時間を活用して介護施設で働きたい、あるいはボランティアをしたいという人に、レクリエーション対応や話し相手、清掃、皿洗い、配膳、デスクワークなどを任せることで、介護職員は身体介助などの専門業務に集中できるようになる。

働き手にとっても、介護施設に就職したり固定シフトで勤務したりできなくても、1~3時間程度のすき間時間に仕事ができる利点がある。介護施設で働くハードルを下げ、これまで確保できていなかった新しい働き手を集めて介護分野の担い手不足の解消を狙う。

本当に介護の働き手を増やせるのか

こうしたビジネスとしての視点は素晴らしいものですし、今後成功する事例も出てくるでしょう。スキマ時間で社会的に意義のある介護の仕事に携わる人が増えることは、良い面も多いはずです。

一方で私は「介護職員は身体介助などの専門業務に集中できるようになる」という一見正しそうに見えることに大きな不安を抱いています。介護という仕事において、要介護者や障害者の入浴、排泄、食事など身体介護は専門的知識や技術が求められることは言うまでもありません。

しかしながら、私たち介護職はその人との情緒的な触れ合いや関わりの中で、その人についての理解を深め、本人の尊厳や自立した日常生活を支援する専門職です。つまり、入浴、排泄、食事の介助は、その人の望む暮らしを実現するためのプロセスの一部であって、介護職のすべての業務ではありません。

人の生活という営みを細分化して、切り貼りして、難しそうな身体介護に関する部分だけを専門職に、外出やレクリエーションや話し相手という一見“簡単そう”に見えることを非専門職に分業させることは、介護という一連の仕事を分断することに他なりません。

介護職が要介護者や障害者と共に外出したり、本人の願いをじっくり伺ったり、楽しい時間を過ごしたりということは、介護職が感じている介護のやりがいの大事な部分です。介護業界におけるシェアリングサービスは、介護職たちからこうしたやりがいを奪い、単なる作業者としての地位に押し込んではしまわないでしょうか。

今後の発展に期待していきたい

とはいうものの、やはり、介護業界の人材不足は深刻です。理想的には、介護の専門性をもった人材が、1人の要介護者を全人格的に理解しつつ支援すべきではありますが、それはもはや不可能という時代に突入しています。

また、介護の専門性をもった人材も、特定の事業所で働くことをやめ、介護の派遣労働に登録する人が少なくありません。その原因は、介護業界では、特定の事業所において正社員として働くよりも、派遣労働をしたほうが、賃金と働きやすさのバランスがよいケースも多いからです。

こうして、介護業界にもシェアリングエコノミーがやってくること自体は避けられない可能性が高いのです。ただ、介護業界に対してシェアリングエコノミーを導入するには、先に述べたようなリスクについても考えた上で、仕組みとしての成熟が求められていくと思います。

例えるならば、シュートやゴールがない、パス回しだけのサッカーになってしまっては、介護業界からますます人材がいなくなってしまいます。投げ技や決め技が無い、受け身だけの柔道のようなもになってしまっても、よくわからない仕事になってしまいます。

とにかく、介護の仕事の本質的なものが理解されないままに、ただ良かれと考えて参入してくるような形だと、シェアリングエコノミーは、介護の専門職の働く喜びを奪い去り、介護業界そのものをダメにしてしまう可能性があります。

※参考文献
・日経デジタルヘルス, 『すきま時間に働きたい人と介護施設をマッチング』, 2019年2月20日

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