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車椅子での飲酒はダメなのか?大きな議論になってきている

車椅子での飲酒はダメなのか?大きな議論になってきている

車椅子をめぐる飲酒への対応が訴訟になっている

車椅子の利用者であることを理由に、百貨店において、ワインの試飲を断られたというケースがあります(産経新聞, 2018年)。この車椅子の利用者は、これを差別とし、百貨店を相手取り、訴訟を起こしています。百貨店側は、断った理由を、過去に起きてしまった車椅子による事故を繰り返さないためとしています。

道路交通法では、自転車は「軽車両」であり、車椅子(電動車椅子も含む)は「歩行者」と定義されています。法律上、自転車の飲酒運転はダメなのですが、車椅子の飲酒運転は問題ないことになっています。このため、少なくとも法律上は、相手が車椅子の利用者だからという理由で、飲酒を断る必要はないわけです。

ここで警視庁は、飲酒をしての電動車椅子の利用を「絶対にやめましょう」としています(東京新聞, 2018年)。車椅子をめぐる飲酒への対応が、道路交通法、警視庁、民間企業の間で、それぞれに違っているというところに、この問題の複雑さが示されています。

車椅子をめぐる飲酒の論点整理

問題が複雑なので、まずは論点を整理しておこうと思います。それぞれの論点において、結論となりそうなところが対立しているところで、問題が発生しているからです。以下、大きく3つの論点について、それぞれに考えてみます。

論点1. 法律の視点

法律の視点からは、そもそも車椅子(電動車椅子)は「歩行者」ですから、飲酒の問題はありません。法律上、車椅子は、自分の足では歩行できなくなった人の「足」として考えられているわけです。そうした車椅子の利用者に対して、車椅子を利用しているからという理由で飲酒を断ることは、障害者差別解消法に違反する可能性も高く、おいそれとは認められません。だからこそ、訴訟になっているわけです。

論点2. 車椅子利用者の視点

外出をして、家族や友人と飲酒を楽しむことは、個人の自由であり、多くの人にとって人生の楽しみです。それが、車椅子を利用しているからといって禁止されてしまうのは、さすがに行き過ぎに感じられます。確かに、飲酒後の車椅子の利用によって事故もあるかもしれません。しかしそれは、健常者が飲酒をしたあとに転んだり、階段から落ちたりすることと、本質的な違いがあるのでしょうか。飲酒は、そもそもリスクのある楽しみです。

論点3. 警視庁の視点

警視庁としては、実務的に、車椅子と電動車椅子を分けて考えているようです。電動車椅子の利用時の飲酒は「絶対にやめましょう」としていますが、電動ではない、手動の車椅子については言及していません。これは、統計上、電動車椅子の事故が増えていることや、電動車椅子の中には、実質的に軽車両に近い挙動をするものもあることなどから、総合的に判断しているものと思われます。

総合的には基本的人権をめぐる議論

これらは、総合的に見れば、個人の自由を保証した、基本的人権をめぐる議論になっています。ただし、基本的人権が保証する自由は、他人の自由を奪わない限りにおいて認められるもので、無制限ではありません。飲酒後に、自動車や自転車の運転が禁止されるのは、他人の自由を奪うリスクが高いと判断されているからです。

しかしこの背景が、飲酒後の事故リスクということだけであれば、遺伝的にお酒に弱い人もまた、飲酒が禁止されないと平等ということにはなりません。遺伝的にお酒に弱い人は、飲酒をして、なんらかの事故を起こしてしまう可能性が高いからです。

車椅子の利用者としては、これを基本的人権の問題として扱ってもらわないと、これからますます差別を強く感じることにもなるでしょう。最悪なのは、こうした本質的な議論が回避され、車椅子が自転車と同じ「軽車両」とされてしまうことです。

パラリンピックで来日することになる外国人の中にも、車椅子の利用者は多数いるでしょう。そうした人々が、せっかく来日したのに、外食で飲酒できないような状況が、本当に正しいのでしょうか。事故のリスクを考えることも大事ですが、基本的人権を基礎とした多様性についても、十分に議論する必要があるはずです。

※参考文献
・産経新聞, 『車いすでワイン試飲「拒否不当」 百貨店を提訴』, 2018年11月21日
・東京新聞, 『電動車椅子で飲酒ダメ? 「誤操作恐れ」 警察庁呼び掛け』, 2018年11月24日

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