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健常者の目線からの「自立」を超越する

健常者の目線からの「自立」を超越する

自立について考える

これまでもKAIGO LABでは何度か「自立」という概念について取り上げてきました。介護を必要とする要介護者が生活をしていくためには、プロの介護職からの介護を受けることは必須です。そして、そのプロの介護職は、要介護者の日常生活の「自立支援」を生業としているからです。

介護という文脈の中で「自立」を考えることは、自分の親や家族、あるいは自分自身が受ける介護サービスが、そもそも、なにを目的としたものなのかを考えることなのです。この目的に関して誤解があると、介護サービスの評価をすることもできませんし、適切な介護を受けることもできなくなります。

今の政策の中では、要介護状態の原因の一つである“身体の衰え”に対して「自立」という言葉が使われることがよく見受けられます。つまり、自分で立ったり歩いたり“できる”ように支援する、という「自立支援」です。これも一つの立派な「自立支援」と言えますが「自立支援」の全てではありません。

「自立生活」する側の「自立」

「自立」を考える時によく思うことがあります。それは「自立」についての考えは、日常生活に支障がない“自立している健常者”からの「自立論」が多いということです。しかし「自立支援」を受ける側にとっての「自立」については、あまり目にすることはありません。

実は、プロの介護職でさえ「自立」について“自立している健常者”からの「自立論」で考えているのが実情ではないかと思います。こうした考えから、私は今春、とある介護職向けのイベントで、別の角度から「自立」について考えるきっかけを企画しています。

そこで、難病で呼吸機をつける障害者として活動をされている自立生活支援センター(注1)の方をお招きし、その方に「自立」について語っていただいたのです。以下、このイベントからの学びについて、もう少し述べてみようと思います。

何もしないで待機する「自立支援」

この方のお話は、私たち介護職や一般の健常者の認識を大きく変える力を持つ、多様な実体験に基づくものでした。その中で「自立」についてわかりやすいエピソードがありました。ご本人は、基本的には一人で移動したりすることが出来ない状態です。ですから、ベッドから起き上がったり、車椅子へ移ることも、すべてヘルパーの介助が必要なのです。

とある休日、ご本人がベッドで寝ていると、ヘルパーが時間通りにやってきました。そしてご本人はヘルパーに「私寝てるから、今はすることないから、何もしないでいいよ」と伝えました。ヘルパーはご本人が寝ている間、ずっとその方の部屋の椅子に座っているのです。そして、数時間寝た後、おもむろに「そろそろ起きるから起こして」という言葉があり、ようやくヘルパーは起床と車椅子に移る介助をしたのでした。

あなたはこのエピソードを聞いてどのような印象を持つでしょうか。「することがないならヘルパーなんて必要ないじゃないか!?」「ヘルパーが来ているのに寝ているなんてどういう神経しているんだ!?」「ヘルパーを使わないなら、人件費がもったいないじゃないか!?」「障害者はわがままだ!?何を言っても許されると思っているのか!?」といった様々な印象を持たれたのではないでしょうか。

会場で講演を聞いていた多くの介護職も、この話を聞いて、正直戸惑っているようでした。そして、お話は次のように続きました。

「皆さんは、仕事がない休日に、ベッドから出ないで昼近くまでゆっくり寝たりすることはありませんか。そしてそろそろ起きようかな、とおもむろに起きて、顔を洗って、何をするでもなく、だらだらと過ごす日はありませんか。それと同じです。」

ベッドで寝ているご本人は、人の手がないと体の動きに関しては何も出来ない状態です。それは本人が悪いのではない、そういう状態にあるのが日常な方のです。しかし、私たち健常者は人の手を借りなくても、自由な意思に基づいて、自分の日常生活を送ることができます。

そして、自由な意思に基づいてダラダラ何もしない時もある。それが私たちが当たり前に持っている自由な日常生活です。つまり、「自立」とは自らの自由な意思に基づき、自分の行動や生活、責任までも選んで生きるということです。それが出来る環境、許されることこそ、真の意味で「自立した日常生活」が保障されているという状態です。

これが世界人権宣言や憲法で保障されている、私たち人間、国民誰しもが持つ人権だと思います。健常者ならば、自由であり、障害者や要介護者で生活に人件費がかかる人は自由に制限がかかる、ということでは、真の意味で「自立」した日常生活とは言えないのではないでしょうか。

オリンピック、パラリンピック開催を前に、バリアフリーやノーマライゼーション、ダイバーシティ、ソーシャルインクルージョンなどの理念が注目されています。しかし私たちは、こういった理念が、健常者の目線からの「自立」を超越できているかをチェックしていく必要があると思います。

(注1)「自立生活支援センター」とは「運営委員の過半数と事業実施責任者が障害者である組織で、自立生活の理念を実現させるべく、活動するサービス事業体であり、障害者が暮らしやすい社会を実現するための運動を行っている組織」(全国自立生活センター協議会HPより)です。

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