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包丁を持って歩き回る認知症の高齢者に、どう対応するのか?

包丁を持って歩き回る高齢者に、どう対応するのか?

認知症の高齢者が包丁を持って歩き回ったら・・・

包丁を持って歩き回る認知症の高齢者ともみ合いになり、軽傷を負わせてしまった33歳の介護職が、今年の4月に逮捕されています。その男性が、書類送検されたというニュースが東海テレビによって報道(2018年8月9日)されています。

書類送検とは、被疑者に逃亡や証拠隠滅の危険がなく、逮捕して拘束しておく必要がないと判断された場合の措置です。捜査の主体が警察から検察へ送られる(送検)ことになり、その後、刑が確定します。この事件を起こしてしまった男性には、逃亡の意思などないということが、書類送検の事実からもわかります。

あくまでも推測にすぎませんが、この男性に悪意はなかったのではないでしょうか。もしそうであれば、なんともやりきれない事件です。この事件の概要について、少し古くなりますが、以下、日本経済新聞の記事(2018年4月26日)より、引用します。

岐阜県は26日、同県高山市の短期入所生活介護事業所「シンシア高山」で、30代の男性職員が70代の男性利用者ともみ合いになり、軽傷を負わせたと発表した。高山市は同日、高齢者虐待防止法に基づく虐待行為に当たると認定。(中略)

県によると、職員は17日午後2時ごろ、事業所でパン切り包丁を持って歩く利用者ともみ合いになり、拳が利用者の右目尻に当たった。包丁を取り上げた後、向かってきたため投げ倒した。利用者は認知症で短期入所だった。(後略)

介護をする人を守るための法律が必要ではないか?

この事件そのものについては、事実がわからないため、一旦参考として置いておきます。その上で、認知症の人が包丁を持って歩き回っていたらどうするかを考えてみる必要があると思うのです。

普段、介護に触れていない人は、意外と認識できないのは、認知症の高齢者の中には、体力的にはなんの問題もない人も多いというところです。体力は現役世代に匹敵するほど充実していても、認知症に苦しんでいる高齢者も多数いるのです。そうした人が包丁を持って歩き回っているところを想像してみてください。

そもそも2025年には高齢者の5人に1人(約700万人)が認知症になると予想されているのです。そうした高齢者を介護する人(家族やプロの介護職)は、このような危険にさらされる可能性も十分にあるわけです。介護する人を守るための法律やガイドラインが絶対に必要でしょう。

仮に夫婦で暮らしていて、両親が4人いたとします。そうした夫婦が、認知症の高齢者の介護を担うことになる確率は相当高いわけです。そのとき、高齢者が包丁を持って歩き回るような場面に出くわした場合、どうすればよいのでしょう。包丁を取り上げようとしてもみ合いになれば、今回の事件と同じように逮捕されてしまうかもしれません。

正当防衛と過剰防衛のはざまを素人に判断させるのは残酷だ

もみ合いになっても、正当防衛と判断されれば、大きな問題にはなりません。しかし正当防衛(正当な防衛であり罪に問われない)と過剰防衛(防衛の範囲を超えて相手にケガをさせてしまう)の判断基準は、素人にはなかなか判断できないものです。

あくまでも参考にしかなりませんが、正当防衛が認められるのは、こちら側の生命や身体を守るため「やむをえずに応戦した」という場合だけです。攻撃力が、相手と同じ程度であることも重要とされ、武器、体格差や年齢差も考慮されます。

攻撃力という点で、そもそも認知症の高齢者と、まだ体力的に問題のない現役世代のもみ合いは、現役世代のほうが極端に不利になります。安易に応戦してしまえば、過剰防衛として判断される可能性も高くなってしまうのです。

こうした通常の正当防衛の判断においては、防衛を試みる相手として、混乱してしまっている認知症の高齢者は想定されていないはずです。今回の不運な事件から学び、認知症の高齢者を想定した正当防衛の考え方について、法律やガイドラインを準備すべきでしょう。

この準備をしないと、認知症の高齢者には、誰も関われなくなります。善意で介護をしていても、逮捕されて前科がついてしまうリスクと常に隣り合わせになってしまえば、誰も介護などしなくなります。結果として認知症の人が社会的に差別されるところまで行き着いてしまいかねません。

※参考文献
・日本経済新聞, 『事業所職員が虐待行為 岐阜』, 2018年4月26日
・東海テレビ, 『包丁を持って歩き回る認知症の男性を・・・入所者投げ飛ばしケガをさせた疑いで介護士の男書類送検 岐阜』, 2018年8月9日

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