閉じる

認知症状を持つ人の「働きたい」を叶える支援の実態

認知症状を持つ人の「働きたい」を叶える支援の実態

働くことの意味が再確認されつつある

高齢化が加速している日本において、働くことの意味が見直されつつあります。生涯現役とは言わないまでも、65歳で一切の仕事から切り離されてしまうのは「さすがに早い」と感じる人も増えているでしょう。

働くことで、給料のみならず、社会とのつながりや様々なポジティブな感情を得られます。社会で役割を持つことで、居場所をつくることができるのです。そのような、働くことを認知症になったことをきっかけに諦めてしまう人が多くいます。

実際に、若年性認知症の人で、発症前と同じ職場で引き続き働いている人は、わずか1.8%にすぎません(認知症介護研究・研修大府センター, 2016年)。認知症になっても働き続けたいと願う人に対してどのようにアプローチしたらいいのでしょうか。

注文を間違える料理店

「注文を間違える料理店」について、KAIGO LABでも取り上げました。このプロジェクトで明らかになったのは、失敗しないよう環境を整えることや「間違ってもいい」という寛容さが周囲の人にあれば、認知症状を持つ人は活躍できる可能性がひろがるということです。

私が勤めている事業所の利用者さんも、この「注文を間違える料理店」でお仕事されました。その様子を動画で観て衝撃を受けました。事業所内で昼食づくりのお手伝いをしてくださることはよくあるのですが、そのときに見せてくださる表情と比べると、動画の中の利用者さんは、より輝き・活力に満ちあふれているのを感じたからです。

私は、この「注文を間違える料理店」からの気づきを通して、介護職として、ご本人が持つ可能性を引き出しきれていなかったことを悔やみました。そして、働くことのサポートの重要性を強く実感したのです。

認知症を持つ人の働く支援の実態

日本において、認知症状を持つ人が働き続けたいと思った時に受けられるサポートにはどのようなものがあるのでしょうか。例えば、障害者総合支援法では、以下のような働く支援があります。

就労移行支援 就労を希望する障害者に、一定期間、就労に必要な知識および能力の向上のために必要な訓練等を行う。
就労継続支援(A型・B型) 一般企業等での就労が困難な障害者に、働く場の提供をするとともに、知識および能力の向上のために必要な訓練等を行う。
就労定着支援 通常の事業所に新たに雇用された障害者に、一定期間、就労の継続を図るために必要な事業主、障害福祉サービス事業を行う者、医療機関などとの連絡調整等を行う。

若年性認知症の人が仕事を辞めた後、介護保険サービスを受けるまでの期間に利用できるサービスには様々なものがあります。しかし就労という観点からは、上記3つのサービスのどれか、または複数を利用することが多いと考えられます。

これらの支援が活用されていない背景と介護保険制度

しかし調査によると、就労継続支援(A型・B型)事業所、就労移行支援事業所において「若年性認知症の人を受け入れている」もしくは「受け入れの経験がある」事業所は全体の5.7%にすぎなかったのです(認知症介護研究・研修大府センター, 2016年)。

この理由としては、今まで「利用の申し出がなかった」とする事業所が圧倒的に多くなっています。また、職員が「若年性認知症に関する知識や対応技術などのノウハウを持っていない」ことも挙げられていました。

一方、介護保険制度上では、働くことの支援はどのようにおこなわれているのでしょうか。介護保険制度上、要介護者が地域へ出て活動したり、働くことは人員配置や制度上、これという仕組みがなく、なかなか難しいというのが実情です。しかし、少しずつではあっても、先の「注文を間違える料理店」のような事例は増えてきています。

若年性認知症支援コーディネーターの取組み

平成27年1月に策定された新オレンジプランでは、若年性認知症施策の強化のために若年性認知症支援コーディネーターを配置することが示されています。若年性認知症支援コーディネーターとは、若年性認知症の人やその家族からの相談対応や、多様な支援を行うための支援ネットワークを構築・調整する者のことを言います。

この若年性認知症支援コーディネーターの仕事には、就労・社会参加支援が含まれています。まだ、配置して間もない自治体もあり、地域による社会資源の差もあり、全国で適切な支援が受けられる環境は整備されていません。

しかし、この取組をきっかけに環境整備が加速化されることは期待できます。そして、若年性認知症にとどまらず、65歳上の方もこのようなサポートを十分に受けられる体制をつくる必要があるのではないでしょうか。

海外における就労支援の事例

例えばオランダでは、2013年にソーシャルワーカーのネットワーク組織、大学(アムステルダム大学)、国が連携しながら、1つのプロジェクトが生まれています。林野庁との協働で、認知症状を持つ人が敷地の管理の仕事をするDemenTalentプロジェクトです。

1つのプロジェクトには30人ほどが登録し、朝集合すると作業がいくつかあり、選んで参加します。例えば、木の伐採、清掃、建物のペイント等です。若年性認知症の方にとどまらず、高齢の方も参加されています。働くことで、賃金は発生させていません。この取組がオランダの各地で実践されているそうです。

世界各地で認知症状を持つ人が働くための支援の取組は行われはじめていますが、ほとんどがボランティアワーク的な取組にとどまっているのが現状です。ただ流れとしては「認知症を持つ人をいかに支援するか」から「認知症を持つ人が能力をいかに活かせるように働きかけるか」が重視されるようになっているのです。

※参考文献
・認知症介護研究・研修大府センター, 『若年性認知症の人の生きがいづくりや就労支援のあり方に関する調査研究事業研究報告書』, 2016年
・学校法人国際大学『若年性認知症を含む認知症の人の能力を効果的に活かす方法等に関する調査研究事業』, 2017年

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由