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介護福祉士の新・養成カリキュラムを読み解く

介護福祉士の新・養成カリキュラムを読み解く

新しい養成カリキュラム案が発表された

介護職の国家資格である介護福祉士の新しい養成カリキュラム案が発表されました。2025年頃には約38万人の介護職が足りないと予測される中、介護人材の確保は喫緊の課題です。養成カリキュラムの充実も、これから急速に増えなければならない介護職の仕事の質を高めることを目的としています。

増え続ける要介護者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けらるためにも、介護職にはさらに高い専門性が求められています。介護の医療との高度な連携や、増えていく認知症への対応など、とにかく時代は介護人材の量だけでなく質も求めています。

今回の新しい養成カリキュラム案を見ていくことで、今後の社会に求められる介護福祉士の姿と、その課題を考えてみたいと思います。まず、今回のカリキュラム案の大きな柱は下記の5つです。

(1)チームマネジメント能力を養うための教育内容の拡充
(2)対象者の生活を地域で支えるための実践力の向上
(3)介護過程の実践力の向上
(4)認知症ケアの実践力の向上
(5)介護と医療の連携を踏まえた実践力の向上

新しい養成カリキュラム案にみられる過去の改善部分(3)(4)(5)について

新しい養成カリキュラム案の中身について、まず(3)(4)(5)を見てみましょう。(3)介護過程は、具体的に介護を展開するための思考方法、知識・情報等を統合して実践する力を養おうということです。複雑多様化するこれからの介護ニーズに対して、介護以外の専門領域の知見からさらに深めて見立てる力が求められるようです。

(4)認知症ケアは、認知症の原因となる疾患や、その段階に応じた心理面を理解する力がより求められています。そして本人の想いや症状、家族への支援も含めて、認知症の人の生活課題に取り組むこと力が求められます。

そして(5)介護と医療の連携は、人間を多面的に理解するための知識を深めることを求めています。具体的に、異なる専門職やそれぞれの機関と連携するための実践力を身につける必要性があるからでしょう。

これら(3)(4)(5)については、従来のカリキュラムから介護福祉士の専門性として求められてきたものです。今回の改正案は、過去のこれらの内容がより深化したものだといえます。今後の介護ニーズに応えるためには、必要な内容だと言えるでしょう。ここで残った(1)と(2)が、今回の新カリキュラムで特に注目すべきものです。

新しいカリキュラム案における新しい部分(1)について

(1)チームマネジメント能力を養うための教育内容の拡充については、現在、国をあげて実践されています。この背景には、介護職の数が急速に増えることを見越した狙いがあります。先にも述べたとおり、そもそも人材の確保がうまく行っていないのですが、仮にうまく行った場合には、大きな問題が起こります。

実際に、現在、あの手この手で、介護職として採用できる人材の「すそ野」を広げようという戦略が実行されています。具体的には、その多くは、子育て中の女性やアクティブ・シニアの入職を狙ったものが多くなっているようです。また、外国人の介護職も、これから増えることが予想されます。

介護現場は、背景の異なる多様な人材が集まる場となりつつあります。そうなる場合は、とにかく人材の数は確保されても、介護福祉の専門性を有している人材の質は相対的に低くなってしまいます。介護福祉士には、そうした中にあって、自らの高い専門性を、新たな入職者たちに教え伝える役割が期待されているのです。

なるほど、現在の介護現場にも、フロアリーダーや主任といったチームマネジメントを求められるポストはあります。しかし、実態としては、こうしたポストにある人材は、チームマネジメントに関する十分な教育訓練を受けられているとは言えません。

こうしたポストには、現場職員だった人材が、先輩の退職にともない、繰り上がりで登用されることも少なくありません。また、彼らは完全なマネジメント層ではなく、現場もこなすプレイングマネジャーとしての位置付けがほとんどです。(1)で示された内容は、こうした実態に対しての打ち手になっています。

しかし、まだ課題がいくつかあります。いかにチームマネジメントの教育を受けたとしても、実務経験が乏しければ、介護福祉士に期待される新たな役割はこなせません。また、チームマネジメント能力は、介護福祉の専門性とはいえず、より広く一般のビジネスパーソンにも必須となるスキルでしょう。

こうしたスキルの教育が、果たして、これまで介護福祉を教えてきた教員にやれるのか心配です。チームマネジメントの専門性を持った教員を配置し、せっかくの新カリキュラムが形骸化しないようにしないとならないでしょう。

新しいカリキュラム案における新しい部分(2)について

(2)対象者の生活を地域で支えるための実践力の向上とは、介護が中・重度な状態であっても、できる限り住み慣れた地域で暮らせる社会を目指すための項目です。誰もが、ともに支え合いながら、自分らしい暮らしを営めるようにするという目標が掲げられています。

これまでの介護する人(介護職)と介護される人(対象者)という2者間の関係だけではありません。関係する他の職種や機関、地域住民やボランティアなど、多様な他者の力を借りながら、対象者の自立生活を応援するための実践力です。

これは、対象者が単なる「お世話を受ける人」という位置付けから、より人間らしく生きることを目指すためのインフラになるでしょう。しかし、この実践力の養成が実を結ぶためにも、いくつかの課題があります。

まず「地域生活の実現」ということ自体が、介護現場でスタンダードになっていないという現実です。自宅での最期、地域生活の必要性は認識されていますが、現時点では、日本人が息をひきとる場の多くは病院です。

対象者の希望に応じたいという理念を掲げながらも、家族を含めた介護の関係者たちが、入院させてしまうという現実もあります。この背景には、終末期にある対象者が、自宅で安心して時間を過ごすための支援がまだまだ整っていないということがあるのです。

こうした支援を整えないままに、地域生活を支援するための教育を受けたところで、うまくいかないのは明白です。それどころか、教育されたことと現実のギャップにショックを受けてしまう介護職の増えてしまうかもしれません。

もう一つの課題は、地域生活の支援を行うための財源が、現行制度では確保されていないということです。介護福祉士が自由に地域生活のための支援を行うには、時に介護現場を離れて、地域の関係職種や機関、住民とコミュニケーションを深める時間と労力が必要でしょう。

しかしながら、介護福祉士の現実は、目の前の対象者に介護サービスを提供するだけでもパンクしそうです。それにもかかわらず、この理想を実現するためのより自由な活動には報酬は(一部包括報酬の事業もあるものの)支払われないのです。

理想を実現しようと頑張る介護福祉士ほど、自分のプライベートを削って、滅私奉公しているのが実態です。しかし、これからの介護福祉士に、より広く一般的な地域生活の支援を期待するのであれば、どうしても、制度的な保障が必要になるでしょう。

介護福祉士の養成カリキュラムは、時代の求めに応じて、その内容が更新されてきました。しかし介護福祉士とて生活者です。私たちの奉仕の心だけに依存している理想は、遠からず瓦解してしまうでしょう。専門職養成も大切ですが、同時に、理想の実現に必要となる様々な基盤整備も求められます。

※参考文献
・厚生労働省, 『「介護福祉士養成課程における教育内容の見直し」について』, 第13回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会, 2018年2月15日
・社会保障審議会福祉部会, 福祉人材確保専門委員会, 『介護人材に求められる機能の明確化とキャリアパスの実現に向けて』, 2017年10月4日

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