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高齢者の性と向き合う

高齢者の性と向き合う

人間が生きる上で必要なもの?

人間が生きる上で必要なものはなんですか?このような質問を受けたとき、まず頭に浮かべるのは「衣食住」でしょう。では、人間の三大欲求はなんですか?この問いに対しては一般的に「食欲」「睡眠欲」「性欲」が思い浮かべられると思います。

介護を必要とする人は、こうした衣食住や欲求のすべてを、自分だけの力で満たすことは困難です。だからこその介護でしょう。ただ、これらの中で「性欲」に関してだけは、公的財源を使っての支援が認められていません。また、それが必要であると認識されることも少ないのが現状です。

日本では、健常者の場合でも、性というテーマはタブー視されています。まだまだ私的なこと、隠されるべきもの、話題にするのが恥ずかしいこと、という認識が根強く残っています。ところが海外に目を向けてみると、すでに、このテーマにしっかりと切り込んでいる国もあります。

ドイツでは、福祉の専門職の教育カリキュラムに、性に関する課題への対応が盛り込まれています。さらにオランダでは、障害のある人が性的な介助を受けることに対して保険適用があります。これらは、まだ世界的なスタンダードとは言えませんが、状況は変化しつつあります。

一般社団法人ホワイトハンズ

国際的な条約などでも、性が人間の根源的欲求の一つであり、そこへの支援が必要な人に対してのアプローチが検討されてきています。こうした流れを受けて、日本でも、一般社団法人ホワイトハンズという団体が、障害者や高齢者の性の支援や啓発、教育訓練について活動しています。

代表の坂爪真吾氏は、性の問題は「個人」ではなく「社会」の問題だとしています。そして、一番の課題は、福祉の専門職が、性に関する教育を全く受けていない現状にあると訴えられています。また、性の課題を改善することは、QOL向上に寄与するものだとも述べられています。

この団体は「公共の性をつくる」と言うミッションを掲げています。性に対する偏見をなくし、性の多様性に対する正しい理解と対応を学ぶ機会の創出や、当事者の支援に尽力しています。このような取り組みや見解があるということは、今後の日本の介護を考える上で、知っておきたいことです。

介護の現場ではなにが起こっているか

介護の現場にいると、多くの介護職や介護家族、そして何より本人が、こうした性の課題にぶつかり困惑していることが理解できます。社会的に注目されていないだけで、現場ではすでに、ずっと以前から性というテーマは課題でありつづけているのです。

介護職側に多いのは、利用者からのセクシャルハラスメントが課題の大部分としてあげられるでしょう。ある調査によると、なんらかのセクシャルハラスメントを受けた経験のあるという女性の介護職は、実に45.7%にも達するのです。

私自身の経験で言うと、施設入居されている認知症のご夫婦の方が、自室で夫婦生活を営まれ、奥様の方に強い不安と混乱が現れてしまったことがあります。引き離すに離せないという、難しい状況がありました。他にも、認知症の方から性器に触れて欲しいと求められたり、日常的に性器を露出してしまう認知症の方もいました。

介護をする人々にできることはなんだろう?

こうした可能性も含めた現実を前に、ただ不安に思っているばかりなのは、よくありません。坂爪氏の言葉を借りるならば、積極的な学びを深めて行くことが、介護家族、介護職、そして本人にとっても大切なのです。

昨今、認知症の方の心理的な背景についての認識は高まってきています。たとえば「小さな子供が家で待っているから帰りたい」と言う認知症の方は、かつて幼子を育てていた頃の記憶と現在の記憶を混同してしまっているということは、広く認識されつつあるでしょう。

同じように、性的な逸脱行為が、本人の中のどんな不安や記憶の混乱を背景としているかを考える必要があります。もちろん、セクシャルハラスメントや公共の場での性的な逸脱行為に直面する介護職や介護家族の困惑や被害としての心理にも寄り添わないとなりません。

こうした課題に向き合わなければならなくなった当人は「なぜ私が!?」と悲嘆すると思います。しかし、そうした向き合わざるを得なくなった私たちが、それぞれにこれに向き合い、実情を発信していくことでしか、状況は改善しないでしょう。

※参考文献
・NHKクローズアップ現代+, 『障害者と恋とセックスと』, 2017年9月25日
・財団法人フランスベッド メディカルホームケア研究・助成財団, 『フランスベッドメディカルホームケア研究助成財団研究報告書2008』, 2008年

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