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介護のプロたる証は「言葉がけ」と「見守り」の技術にある

介護のプロたる証は「言葉がけ」と「見守り」の技術にある

介護の知識と技術は陳腐化しつつある

かつて「介護なんて誰にでも出来る」と言われた時代がありました。しかし、過去のことではなくて、いま現在でも世間の認識としてそのように考えている人も少なくないのではないでしょうか。

実際世の中の多くの人が、身内の介護を担っており、仕事として介護をしていない人は山ほどいらっしゃいます。そんな中で、お金をもらっている介護のプロは何故プロなのでしょうか。家族介護と何が違うのでしょうか。

知識については、今ではインターネットを駆使して、独力でもプロ以上の情報を収集出来るようになっています。ですから、知っている程度であれば、家族介護者とプロの介護職との差は埋まりつつあります。

そうなるとやはり身につけた熟練の技術こそがプロたる証になりそうです。ところが実はこの技術に関しても、今では動画サイトなどでたくさんの介護技術が紹介されています。実際私の関わった利用者さんのご家族は、入院により重度な状態になった親を看るために、動画サイトでオムツ交換の方法を勉強されていました。

もちろん私たちも介護指導は行いましたが、動画による反復予習でそのご家族の力量が上がったことは間違いありません。今ではプロの技術すら(ある程度までは)簡単に入手できる時代なのです。もちろんこれは、介護に限らず、あらゆる世界で見られる傾向なのかもしれません。

介護のプロたる証とは?

さて、介護に関する知識や技術に簡単にアクセスできる世の中で、それでもなお、私が本当の介護のプロに備わっている、介護のプロたる技術が(まだ)残されていると考える領域があります。それは「言葉がけ」と「見守り」です。
 
これは、超一流の介護職の先輩たちと接したり、彼ら/彼女らの介護を見る中で私が感じたものです。一流のプロの介護職は、家族介護職や、多くの介護職と絶対的にこの「言葉がけ」と「見守り」の技術力が違います。

私たち介護職の本分は、利用者さんが、たとえ病気や障害や加齢によって日常生活に支障があったとしても、一人の人間として尊厳ある自立した日常生活を再構築することができるように支援することです。そして「言葉がけ」と「見守り」の技術力が高い介護職ほど、この本分に近づく高いパフォーマンスを発揮します。

私たち介護職は、身内の特定された家族だけでなく、あらゆる状態像の方々へ介護を提供します。ですから、障害児にも、難病の人にも、認知症状態の人にも、意識が無い寝たきりの人にも、相手に応じて駆使します。

この介護のプロたる証について、介護のプロはもちろん、介護のプロではない人も、認識を深めておくとよいと思います。介護のプロの場合は、自らの研鑽の方向性を考えるときのヒントになるでしょう。また、介護のプロでなくても、この技術を身につければ、介護がきっと楽になります。

実際の事例から考える「言葉がけ」と「見守り」

要介護5、80代男性のAさんは、大腿骨骨折の手術をした後、病院で肺炎を患い、2ヶ月の入院生活を経て自宅へ退院してきました。入院前はご自分で歩いてトイレも行っていましたし、認知症の状態もない方でした。しかし、退院後は完全に寝たきりで、いつも傾眠(うとうとする軽度の意識障害)がちな状態でした。

同居していた息子さんは、退院前から入念に動画サイトでオムツ交換の方法を学び、物品も全て用意していました。動画サイトで学んだ寝たきり状態の方のオムツ交換では、本人の両膝を立てて左右に寝返りを打ってもらい、その状態を繰り返しながらオムツを替えるというもので、一般的な教科書通りの内容でした。

知識と介助の行程は頭に入っている息子さんなのですが、実際に介助を拝見すると、ご本人が傾眠しているので、動画のようにうまく動いてくれず、結局全体重がかかったままので、Aさんを力一杯左右に転がして汗だくになっていました。

Aさんを左右に寝返りを打たせても、左右を完全に向いてくれないので、ゴロンと仰向けの状態に戻ってしまい、何度も背中やお尻を押していました。「あれ、おかしいな。なんで。あぁ重い。お父さん!起きてよ!ほら向こう向いて!よっこらしょ」と、介護というよりも格闘しているという表現が合っているような介助でした。

そこで私が息子さんにお伝えしたのは、具体的な「言葉がけ」と「見守り」だけでした。

まずお伝えしたのは「お父さん起きて、俺の目を見てくれるかい」です。それをAさんの顔を見ながら伝えるように指導しました。繰り返し言葉がけをして、Aさんが目を開けてくださるまで待つようお伝えしました。結局3回言葉がけしたところで、Aさんは目を開けて、息子さんを見て「おぉぉ」と口角を上げました。

次にお伝えした言葉は「お父さん、今からオムツを替えるから両膝を立ててもらえるかな」です。同様に、Aさんの目を見ながら伝えるよう指導しました。今度は、Aさんは1回目の言葉掛けだけで自ら両膝を立ててくださいました。

息子さんは「なんだお父さん、できるじゃん」と言いました。「できるなら毎回ちゃんとやってよぉ」と、苦笑いです。次に息子さんにお伝えした言葉は「お父さん、壁(Aさんの左側)の方を向いて、手すりを右手で掴んで」です。

この時、息子さんは言葉を掛けながらAさんの右手を掴み、壁側の手すりまで引っ張ろうとしたので、私はそれを止めました。そして「もう一度同じ言葉をAさんにかけてもらえませんか。そして見守ってください」と息子さんに伝えました。

息子さんがAさんの目を見ながら同じ言葉がけをして見守っていたら、Aさんは「うんしょ、よいしょ」と自分の右手で壁側の手すりを掴んで下さったのです。そして「膝を立てたまま、左にゴロンと寝返ってくれる」と息子さんからAさんに言葉がけをしてもらうと、コロンと完全な形で寝返ってくれたのです。

これに対して私は「そう、お父さんは出来るんですよ。出来るのに、ちゃんと言葉を伝えて、動いてくださるのを待たずに、こちらで全部やってしまおうと思うと、出来るものもできなくなっちゃうんですよね」と伝えました。息子さんは驚きながら「でも病院では全介助だって言われたんで」とおっしゃいました。

私は、仮説として、病院から自宅に戻ってくると、ご本人の状態は、病院にいたときよりも改善しやすいということを伝えました。また、介護は長期戦だからこそ、ご本人のできることを信じて増やしていき、自分の負担を減らす努力が重要であることも述べました。

知識、介助の行程が頭に入っている息子さんは、コツをつかんだようで、Aさんの力を引き出しながら汗もかかずにオムツ交換を仕上げられていました。また、親子での会話のやり取りをしていることが、結果Aさんの表情を引き出し、側から見ていてもAさんがいきいきしているように見えるようになりました。

介護の負担を減らすためにも身につけたい技術

ちなみに、息子さんが見ていた動画サイトでは、一つ一つの介助の工程で言葉がけをすることも述べられていました。つまり、知識としての言葉がけは、息子さんの中に入っているはずだったのです。

言葉がけは、高いレベルでの見守りがあってはじめて、有効に働きます。これは、ご本人をしっかりと観察をして、残っている力を信じて、言葉がけによってご本人のできることを増やしていくということです。これが自立支援のひとつの形なのです。

こうした技術が求められるのは、相手が認知症の方であっても同じです。身体介護の状態が軽い方であっても、身の回りのことはなんでも出来る自立されている方も同じです。相手の力を信じて、それを引き出して、できるだけご本人の力で生活を営めるようにするから、私たちの仕事には付加価値が発生しているのです。

ゆっくりと待っている時間がない、という方もいるかもしれません。しかし実際、このAさんの場合のオムツ介助は、息子さんが全介助でやった時よりも、Aさんに言葉がけをしながら行ったときの方が、短時間で、労力も少なく終えることができました。

もちろん、必ずそうなるということはできません。しかし「言葉がけ」と「見守り」の技術を身につければ、介護はきっと楽になるだけでなく、介護の負担もきっと減るものと信じています。

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