閉じる

自治体が「やりがい搾取」をする?時給100円の労働があっていいはずがない

自治体が「やりがい搾取」をする?時給100円の労働があっていいはずがない

ボランティアという名目で、時給100円の民間労働が・・・

ボランティアというのは、そのサービスの受け手(受給者)に支払い能力がないときに必要となるものです。サービスの受け手が子供だったり、貧困家庭だったりする場合は、本当になくてはならないものになります。また、サービスの受け手がペット、野生動物、自然環境だったりする場合も、ボランティアは重要です。

しかし、相手に支払い能力がある場合、これをボランティアでやってしまうと、むしろ大変なことになる可能性があります。ボランティアがいるところでは、サービスが無料やそれに近い価格で提供されます。そうしたところでは、民業(民間の営利事業)が価格で太刀打ちできないからです。

「地獄への道は善意で舗装されている」といいます。良かれと思って行ったボランティアが民業を圧迫すれば、そこで本来は上がるはずだった利益が消えます。利益が消えるということは、雇用が失われ、税収が下がり、地域が衰退するということです。以下、毎日新聞の記事(2018年1月13日)より、一部引用します。

(前略)若い世代を中心に高齢者宅の雪下ろしや雪かきなどのボランティア活動に参加してもらおうと、青森市が今冬に始めた「市ボランティアポイント制度」は、たまったポイントを商品券やバスカードに交換できる仕組みだ。登録者は2000人近くに及んでいる。(中略)

活動の内容は、高齢者支援▽介護予防▽雪対策支援--の3分野計12種類で、1人暮らしの高齢者宅の除雪や、積雪が1メートルを超えた時の屋根の雪下ろし、通学路を確保するための除雪などがある。

ボランティア希望者は、青森市ボランティアセンターで登録し、1時間の活動で1ポイントがたまる。1日2ポイントが上限だが、1ポイント=100円換算で1年間に最大5000円相当(50ポイント)の商品券か市営バスカードと交換できる。(後略)

高齢者支援、介護予防、雪対策支援といった、どれも民業が提供しているサービスが、時給100円で提供されるということです。もちろん、自治体の財政が悪化している中で、苦肉の策としてこうした事態になっていることは理解できます。青森市だけの問題ではありません。とはいえ、これは行き過ぎではないでしょうか。

このボランティアにおける3分野12種類とは?

以下、公的な資料 『青森市ボランティアポイント制度対象事業・活動メニュー一覧』から、このニュースにある青森市のボランティア活動、3分野12種類の中身を見てみます。この中身は、民業が提供しているサービスと重なっていることがわかります。

たしかに、これらはどれも、高齢者のためになる、本当にやりがいのある活動だと思います。しかしだからこそ私たちは、そこに「やりがい搾取」の構図ができてしまっていないかにも、注意する必要があります。「やりがい搾取」は、本当に、誰のためにもならないのです。

区分
対象事業・活動名
地域福祉サポーターの活動内容
1. 高齢者支援 こころの縁側づくり事業 高齢者同士や若年者等との交流の場の提供及び運営
2. 高齢者支援 ほのぼのコミュニティ21推進事業 「ほのぼの交流協力員」として高齢者世帯等の訪問見守り活動
3. 高齢者支援 ひとり暮らし高齢者給食サービス事業 高齢者の仲間づくりや生きがいづくりのための給食会や茶話会の運営
4. 介護予防 認知症カフェ 認知症高齢者や家族の交流活動への運営補助
5. 介護予防 介護予防普及事業 介護予防体操の普及及び運営補助
6. 介護予防 元気わくわくサポート事業(運動器機能向上等プログラム) 介護事業所での運動器機能向上プログラム提供への補助活動
7. 介護予防 元気アップサポート事業(認知症予防等プログラム) 介護事業所での利用者間交流を通じた認知症予防プログラム提供への補助活動
8. 雪対策支援 ひとり暮らし高齢者世帯除雪奉仕活動 ひとり暮らしの高齢者世帯除雪
9. 雪対策支援 屋根の雪下ろし奉仕活動 積雪が1mを越えたときに実施する屋根の雪下ろし
10. 雪対策支援 福祉の雪対策事業 「福祉の雪協力会」の一員として除排雪活動
11. 雪対策支援 冬期歩行者空間確保除雪機貸与事業 市から貸与される除雪機を使用した地域の歩道除雪
12. 雪対策支援 冬期児童通学路確保に関わる除雪機貸与事業 市教育委員会から貸与される除雪機を使用した小学校通学路の除雪

ちなみに、調べてみると、民業としての雪かきの相場は安いところで5,000円、平均的には1万円程度のようです。これが時給100円で提供されてしまう地域は、民業からすれば、サービスエリア外にせざるをえないでしょう。どうしても、雪かきのプロから、雇用が奪われることになります。

モチベーション理論(動機づけ理論)に照らしてもおかしい

ボランティアをする人には、純粋に困っている人を放っておけないという利他的なモチベーションと、そうした活動から精神的な充実感を得るといった利己的なモチベーションの2つが内在しています。ここを理解した上で、以下、3つのポイントをおさえておく必要があります。

1. 低額な金銭的対価は逆にモチベーションを低下させる

純粋に利他的なモチベーションで活動している人に、お金を支払おうとすれば「自分はお金のために活動しているのではない」と反発されるでしょう。たとえば「電車で高齢者に席を譲ったら100円あげる」と言われたら、席を譲るという純粋に利他的な行為でも「100円が欲しい人」と周囲から無駄に誤解されてしまいます。実際に、この社会には、低額な報酬をもらうくらないなら、むしろ無償のほうが良いというケースは多数あるのです(アリエリー, 2014年)。

2. 利他的なモチベーションは長続きしない

純粋に困っている人を放っておけないという利他的なモチベーションは、一般には長続きしないことが知られています(小野, 2005)。こうしたモチベーションもとても重要ですが、人間の善意だけに頼ったボランティアは、瞬発力はあっても、継続性がないのです。先の3分野12種類は、どれも継続性が求められるタイプの活動です。であるなら、仮にボランティアであったとしても、十分に利己的な満足につながる「なにか」がなければなりません。

3. ボランティアの受け手にも大きな負担がある

無償かそれに近いボランティアには、社会的に「えらい」ということになります。しかし、ボランティアの受け手は、どうでしょう。これに十分な対価として金銭を払わない代わりに、ボランティアに対して「かわいそうな自分」をネタとして、自己実現や満足感を与え続けないとなりません(小野, 2005)。仮にボランティアが時間に遅れてきたり、ひどい仕事をしたとしても文句は言えないのです。時給100円の仕事で文句を言われたい人はいないはずだからです。

見えている結末と、背景にある誤解の推測

今回のような制度を作ってしまうと、無償で雪かきをしていた人がモチベーションを失い、ボランティア活動から去っていく可能性があります。それでしばらく運用してみたら、はじめのうちは頑張ってくれていたボランティアも継続してくれなくなる可能性があります。そして、高齢者からは多くの文句が出るでしょう。

100歩譲って、この制度に多くのボランティアが集まり、それが継続されたとします。その場合は、青森市には、周辺から多数の高齢者が移住してきます。しかし周辺の自治体は、正当な対価を支払うだけで、青森市から若者をひきつけることが可能になります。こちらの結果も、望んでいるものとは違うはずです。

なお、これは推測ですが、実は、介護支援ボランティアを、こうした評価ポイント制で行うという制度は、他の自治体に前例があります(東京都稲城市)。交付額も、年間最大で5,000円というところが似ています。もしかしたら、今回のケースは、この前例を参考にしたのかもしれません。

ただ、この東京都稲城市の事例においてボランティアをするのは高齢者です。この場合、高齢者にとっては社会参加からの健康促進になりますし、年金収入などが心もとない高齢者には少額でも嬉しいという背景があり、満18歳以上を対象とした青森市のケースとは、事情が大きく異なります。

では、どうすればいいのか?

なによりもまず、労働にみあった対価を金銭的に支払うという原理原則が大切なのです。おそらく、今回の制度では、人数確保のために公務員も(半強制的に)駆り出されてしまうと思われます。しかしそうした公務員に対しても、公務員の副業として、労働にみあった対価が支払われる必要があります。

この原理原則を適用すると、民業の価格ではお金が支払えないという高齢者が出てしまうことが本当の問題でしょう。このとき、原理原則を曲げると、ありえない低賃金の労働が蔓延し、結果として、そうした支払い能力の無さは、その地域で再生産されていくことになります。そうした地域からは、稼げる人材が確実に流出します。

地域活性化には様々な定義がありますが、経済的に言えば、その地域の平均所得が上がっていくことそこ、地域活性化です。平均所得が上がれば、所得税収入だけでなく、お金が使われるようになることから消費税収入にもなります。とにかく民業の圧迫は、公的支出を増やし、公的収入を下げてしまうのです。

では、原理原則を守った上で、お金が支払えない高齢者はどうすればよいのでしょう。そのための生活保護であり、境界層制度であり、長期的にはベーシック・インカム制度への移行が鍵になります。それでも財源がないというなら、こうした労働の対価として、税金や社会保険料の支払い免除などで対応すべきです。

人件費も含めて物価が安いところからは、稼ぐ力のある人から順番に引き抜かれ、いなくなっていきます。残された人材は、物価の安いところでしか暮らせませんから、その地域に残るでしょう。そうした人材は、将来、雪かきなどに対して正当な対価を支払えなくなります。物価が安いというのは、決して褒められたことではないのです。

※参考文献
・毎日新聞, 『高齢者宅の雪下ろし、商品券と交換』, 2018年1月13日
・青森市, 『青森市ボランティアポイント制度対象事業・活動メニュー一覧』
・小野 晶子, 『「有償ボランティア」という働き方 ─その考え方と実態─』, 労働政策レポート, 2005年3月
・ダン・アリエリー, 『お金と感情と意思決定の白熱教室: 楽しい行動経済学』, 早川書房, 2014年6月26日
・厚生労働省, 『稲城市介護支援ボランティア制度の概要(平成22年度)』

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由