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失語症(しつごしょう)に苦しむ人とのコミュニケーション

失語症(しつごしょう)に苦しむ人とのコミュニケーション

失語症(しつごしょう)とは?

家族・友人との会話やメール、テレビや映画を観たり、仕事におけるコミュニケーションなどにおいて言語が重要であることは明白です。こうした言語をうまく活用できないと、日常生活に様々な制限を受けたり、不便さを感じることは想像に難くないでしょう。

失語症(しつごしょう)とは、脳の中でも特に、そうした言語の働きをつかさどる部分に障害を受けることで起こります。失語症の原因の90%以上は、脳血管障害です。具体的には、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞の3つの病気があります。

言葉に関する働きを担うのは脳内の言語野で、それは2ヵ所にわかれています。1つは「ブローカー野」と呼び、主に話す働きをつかさどります。もう1つは「ウェルニッケ野」といい、主に「聞く」「読み書き」の働きを担っています。

失語症といっても、どの部分が損なわれているのかは人によってさまざまであり、同じ症状の人はほとんどいません。そこで、本人はどんなことが難しくなっているのかを把握するために、失語症検査、たとえば「SLTA(標準失語症検査)」などが用いられています。

私の祖父の場合

実は、筆者である私の祖父にも、脳出血の後遺症として失語症があります。この祖父の場合、相手の話しも理解でき、相手に伝えたいことや自分の考えもしっかりとあるにもかかわらず、うまくそれを言語で表現することができません。

もともとは、戦時中の話しや、政治に関する考えを周囲の人に話すのが大好きな祖父でした。また、祖父は手紙を書いたり、SNSに文章を投稿することやカラオケも好きでしたが、それも難しくなりました。

現在は「そうだよ」「オーライ」といった簡単な言葉は発することができますが「リモコン」のことを「納豆」と言ったりします。本人の頭には確かに「リモコン」があるのですが、出てくるのは「納豆」という言葉なのです。

もちろん、失語症だからといって誰しもが私の祖父と同じ症状というわけではありません。なめらかに話すことができても、言葉がうまくつながらなかったりするタイプや、相手が話していることを理解しづらいタイプなどもあります。

このように、人によって失語症の症状は様々です。症状は様々なのですが、共通する悩みは、なかなか周囲の理解が得られないというところにあります。自分の伝えたいことが言葉でうまく表現できないため、ストレスが大きくなるだけでなく、孤立しやすいということもあります。

失語症ケアのために

失語症の原因となる元の病気を医学的にコントロールすることが第一です。その上で、言語聴覚士(ST)による失語症の治療やリハビリテーションがおこなわれています。このような専門職による対応で、十分に快方に向かう可能性もあるのですが、通常はそれだけでは不十分です。

失語症のケアには、家族や友人といった周囲の人が適切なコミュニケーションを学んでいくことも、とても重要になります。以下、簡単に失語症に対する適切なコミュニケーションのポイントを述べてみます。これらは、一般的な話であって、失語症のタイプによっては対応が無効になる可能性もあることは注意してください。

1. 言語以外は何も障害されていないという認識を持つ

うまくコミュニケーションがとれなくなると、家族は「何もわからなくなった」「認知症になったのではないか」と感じることがありますが、それは誤解です。失語症は(他の病気を併発していない場合)言語以外の能力は保たれています。例えば、異なる名前で、ある人物を呼んだとしても、しっかりとその人を認識しています。判断力も保たれていますし、人格や性格もそのままです。失語症の家族は本人が「言葉を忘れてしまったのではないか?」と感じ、一生懸命、言葉を思い出させようとする場合があります。「これはリモコンだよ!忘れちゃったの?」といった具合です。しかし、本人は「リモコン」という言葉を忘れてしまっているわけではなく、それを発することができないだけのことが多いのです。ですから「忘れちゃったの?」といった声かけは本人をより混乱させるばかりです。

2. 「はい」「いいえ」で答えられる質問を心がける

何かを質問するときは「はい」「いいえ」で答えられる質問(閉ざされた質問/closed question)をすると、本人の言いたいことが引き出せる可能性が高くなります。逆に「何が食べたい?」「どうしたい?」といった、いかようにも答えられる質問(開かれた質問/open question)だと、本人を困らせてしまうことがあります。私自身も祖父に「箱根駅伝って何校出場してるんだっけ?」と質問をしてしまったことがあります。すると、祖父は困った顔で「2、15、31、20…」といったように様々な数字で答えました。きっと、解答の数字は祖父の脳の中にはあったのだと思うのですが、上手く出てきませんでした。介護を学んだ今なら「20校くらいだっけ?」といった聞き方をしていたはずです。

3. コミュニケーション効率化のツールを活用する

慣れてくれば、こちら側が質問の仕方を工夫することで、失語症に苦しむ人と適切なコミュニケーションを取ることができるようになっていきます。とはいえ、やはり、失語症が完全になくなる訳ではないので、会話のやりとりには、普通以上に時間がかかってしまいます。ここで、こちらがイライラしてしまうと、本人を「自分はまともに会話ができないから、相手に迷惑がかかる」という具合に、萎縮させてしまいます。そうして萎縮させてしまえば、コミュニケーションの量が減ってしまい、結果として状態を悪化させてしまう可能性さえあるのです。とはいえ、こうした時間がかかるのは、本人にとってもストレスです。なので、介護の現場では写真やイラスト付きのコミュニケーションボードや、簡単な合図を作ったりして、コミュニケーションの効率化を進めることもあります。

※参考文献
・加藤正弘・小嶋知幸, 『失語症のすべてがわかる本』, 講談社, 2015年

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