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地域包括ケアと自己決定の原則(高齢者福祉の3原則より)

地域包括ケアと自己決定の原則(高齢者福祉の3原則より)

高齢者福祉の3原則(アナセンの3原則)

高齢者福祉の3原則(アナセンの3原則)の中には、自己決定の原則があります。いかに心身が弱ったとしても、自分のことは自分で決めるべきという原則です。本人がどうしたいのかという意思がもっとも重要であるという考え方を背景にしています。

この自己決定の原則が成立するためには、そもそも前提として(1)本人が意思表示できること(2)選べるだけの選択肢があること(3)周囲が本人の意思を尊重すること、の3つが求められるでしょう。それぞれに難しいことですが、非常に大切なことなので、以下、もう少し詳しく考えてみます。

1. 本人が意思表示できること

本人が認知症だったり、精神病を患っていたりすれば、自己決定が困難になるのは当然です。しかし、本人が十分に意思表示できる状態だとしても、なかなか決めてもらえないということは、意外と多くあります。なにかを決めるということは、その責任をとるということでもあります。結果が悪くても、誰も他に責められる人がいないという状態になるわけです。世代としても、今の高齢者が現役だった時代には、良い大学を出て、良い会社に入り、上の言うことに従うという価値観が通っていました。ですから、今の高齢者は、自分で決めて、結果に責任を持つというトレーニングが足りていない可能性があるのです。

2. 選べるだけの選択肢があること

選択肢というのも、ある意味で、自分で決めたいと考える人が、自ら準備するという性格のものでもあります。もちろん、極端な貧困にあるなど、環境が厳しすぎて選択肢がないという場合は別です。しかし、自分の老後を自分で決めたいという人であれば、現役時代から、複数の選択肢を準備しているものでしょう。趣味しかり、行きたいところしかり、食べてみたいものしかり、です。そうした選択肢のある状態を維持しようと思えば、体力の維持などにも積極的になれます。しかし、ずっと受け身で生きてきた人にとっては、老後とは、自分の未来を決めてくれるボスがいなくなるということであり、ストレスにもなりえます。

3. 周囲が本人の意思を尊重すること

家族の中に強い人がいると、高齢者は、子供扱いされることが増えてしまいます。他の家族の邪魔にならないことだけを強いて、本人の意思を尊重しない人もいます。その余裕がないというケースも、残念ながら少なくありません。思い立って、本人がどうしたいのかを聞いてみても、本人が意思表示が苦手だったりすれば、なんの答えも返ってこないため、逆にイライラします。そうなってしまえば、高齢者を子供扱いして少しでも楽になりたい家族と、自分で決めたくない高齢者との間で、よくない合意ができてしまいます。

自己決定の原則は、日本の社会問題ではないか?

こうして考えてみると、高齢者福祉の3原則の一翼を担う自己決定の原則は、そもそも、日本の社会に根付いていないのではないかと思えてなりません。もちろん、十把一絡げにはできない話であり、ステレオタイプと言われても仕方がない意見ではあります。

ただ、考えてみれば・・・幼少期には習い事を親に決められたり、ランドセルは絶対だったり、制服があって自分の服装すら自分で決められなかったり、先輩後輩にうるさい部活動では顧問や上役に練習メニューを決められてしまうというのが日本の一つの見方ではないかとも思います。

同じことが、日本の介護そのものについても言えるのかもしれません。日本の介護とは、日本に暮らすすべての人にとって、いつかは自分が受けることになる公的サービスです。その中身については、自分としても、こうあってほしいというものがなければならないはずです。

地域包括ケアの根幹には、自己決定の原則がある

それにも関わらず、聞こえてくるのは、政府や厚生労働省に対する批判ばかりです。介護はどうあるべきなのかという意見は、現役世代からはもちろん、大手メディアからも聞こえてきません。もちろん、介護業界からは、そうした意見が多数出ています。ただ、将来の本人たちからの意見がないのです。

しかし介護は、すでに地域包括ケアという時代に入っています。意地悪な見方をすれば、地域包括ケアとは、社会福祉財源が足りなくなった国が、介護の責任を、地域に押し付けるということです。要するに「実際に介護をするのも、されるのも、本人であるあなたですよ」という丸投げでもあります。

将来の本人になる私たち自身は、どういう介護を受けたいのでしょう。そこに自分なりの意思がある人は、自分が受けたい介護を、自分自身もまた地域包括ケアに(ほとんどボランティアとして)参加する形で実現しなければならないのです。そうした人が増えなければ、私たちは(ほぼ)もれなく介護難民になるでしょう。

※参考文献
・関 龍太郎, 『デンマークの高齢者福祉政策をささえるもの』, 海外社会保障研究 Spring 2008, No.162

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