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オランダの認知症ケア / そこから見える日本の課題

オランダの認知症ケア / そこから見える日本の課題

調査の仕事でオランダに行ってきました

2017年9月末に、オランダの認知症ケアについて理解を深めるための調査依頼があり、オランダに行ってきました。話題のビュートゾルフにも会ってきました。ただ、施設レベルの詳しい報告は、仕事の依頼主に届けられるものであり、ここではできません。とはいえ一般論であれば問題ないという許可を得たので、KAIGO LAB でも簡単にオランダの報告させていただきます。

まず、この調査における私の強みは、私自身が、2000〜2009年の期間、オランダで暮らしていたことです。日本企業ではなく、オランダ企業のオランダ本社に勤務していたことも、オランダの実情をつかむのに有利と思われます。暮らしていたのも、駐在員の集まる地域ではなく、日本人の極端に少ないオランダの田舎でした。

オランダに移住した当時、いちばん驚かされたのは、労働時間の短さです。17時をすぎると、一部の管理職をのぞいて、職場にはほとんど誰もいなくなります。当時は、スーパーでさえ18時には閉店となり、誰もが自宅で家族と夕食を共にするという文化がありました(現在は、スーパーは結構遅くまでオープンしています)。

とはいえ今でも、様々な幸福度に関する国際比較調査において、オランダは常に上位に入ります。日本は、残念ながら、幸福度の低い国としてランキングされることがほとんどです。私は、オランダで暮らした9年間によって、この幸福度の違いを肌で感じることができました。

私は、そんな、国民の幸福度の高いオランダにおいて、認知症ケアがどのような状況にあるのかを知ることになりました。結果から先に言えば、やはり、認知症ケアにおいても、オランダのほうが日本よりもずっとよい状態にありました。ただし、オランダも問題を抱えています。

オランダの認知症ケアについて

オランダの人口は約1,700万人です。その中で、現在、認知症と考えられている人は、27万人(人口の2%弱)を超えています。日本の場合は、人口の4%前後の人が認知症ということですから、日本のほうが高齢化が先に進んでおり、認知症の問題がより深刻であることがわかります。

ただ、1950年には5万人程度だったオランダにおける認知症の症例数も、2040年には54万人にもなると考えられています。オランダもこれから高齢化社会に突入し、認知症の数的な部分では、日本と似たような状況になっていくということでしょう。

オランダにおける認知症の原因としては、70%以上がアルツハイマー病であり、17%が血管性認知症とのことです。このうち、若年性認知症(64歳以下の年齢で発症する認知症)の割合は10%程度になっています。

27万人の認知症に苦しむ人々のうち、およそ7万人が介護施設における施設介護を受けています。ただ、介護施設は満床状態にあり、入居待ちの人も多数いるとのことです。このため、昔であれば、長い期間を介護施設ですごす人も多かったのですが、今では、終末期に近くなってやっと入居できる状況のようです。

オランダでは、主流である在宅での認知症ケアのために、専門の介護職が30万人配置されています。日本の場合は、そもそも、500万人を超えているであろう認知症の症例数に対して、全ての介護職を足しても200万人程度しかいません。ただ、これはおそらく、30万人のうちの多くがパートタイムで働くことを選択しているからでしょう。

ちなみに、オランダでは、フルタイムとパートタイムには労働法上の区別は(実質的に)ありません。日本のように、非正規だからと色々な不都合が許されたりはしないのです。こうしてパートタイムを選択する人が多いと、いざ労働力が足りなくなれば、パートタイムに労働時間を増やしてもらうという社会的な選択肢も生まれます。

オランダの認知症ケアでショックだったこと

認知症ケアにおいては、中核症状(脳の病気によって引き起こされる症状)と周辺症状(環境によって引き起こされる症状)を分けて考える必要があります。たとえば、風邪をひいた場合、発熱や悪寒などは風邪の中核症状と言えます。これに対して、風邪をひいているのに仕事をさせられ、イライラして怒鳴るのは周辺症状という具合です。

優れた認知症ケアがあるところでは、周辺症状がコントロールされており、ケア対象者の幸福な状態を維持できます。これに対して適切でない認知症ケアがなされると、周辺症状が強くなり、徘徊や暴力など、様々な問題が発生してしまうのです。

私が見て回ったオランダの介護施設においては、どこでも、周辺症状が上手にコントロールされていました。その場から感じられる幸福感には、正直、ショックを受けました。どうしても、日本の認知症ケアの現場のイメージがあって、認知症そのものに対して暗いイメージがあったのですが、それが払拭されたくらいです。

できる限り客観的に、数字で捉えられるように調査をしたつもりです。しかし、どうしても数字では表現できないところに決定的な差がありました。私には、オランダについてポジティブな先入観があります。これは、そんな私の意見にすぎません。ただ、同行者もまた、私と同じショックを受けていたことだけはここで述べておきたいです。

そもそも全体として幸福度の高い社会においては、認知症ケアのベースラインが異なるのだと思います。また、そうした社会では、進んでボランティアをする人も多数生まれてくるのでしょう。こうした前提があってはじめて、それぞれの個性に対応する認知症ケアが可能になっていると感じました。以下、もう少し詳しく述べてみます。

オランダの認知症ケアが成功している理由(意見)

こうしたオランダにおける認知症ケアを支えているのは(1)社会全体の幸福度が高いこと(2)ボランティアが多数現場に入っていること(3)それぞれの個性に合わせたケアが実践されていること、の3つだと思います。

1. そもそも社会全体の幸福度が高い

日本でも、要介護者(利用者)のQOL(Quality Of Life/人生の質)が話題になります。現場の介護職は、その向上を目指して頑張っています。しかし、介護職自身のQOLはどうでしょう。全業界で最悪の待遇に苦しみ、不足する人材の穴を埋めるように激務をこなしていては、QOLもなにもあったものではないでしょう。オランダでは、そもそも、要介護者のQOLというよりも、社会全体のQOLが大事にされているのです。当たり前のことのようですが、日本の介護においては、要介護者のQOLのために、介護職のQOLが犠牲になっているというのが現実です。

2. ボランティアが多数現場に入る

あくまでも数施設での聞き取り結果なのですが、見て回ることができた介護施設においては、認知症の症例1人あたり2人程度のボランティアがついていました。そもそもオランダは幸福度が高く、労働時間の短い社会ですから、ボランティアをする人も多いのです(古いデータでも過半数の人がなんらかのボランティアをしている)。もちろん日本の認知症ケアにおいてもボランティアがいます。ただ日本の場合は、ボランティアには掃除や花壇作りといった仕事が与えられることが多く、直接的に、認知症ケアに関わることは少ないというのが現状です。これに対してオランダでは、ボランティアは、認知症の人と直接的な関係性を築いていました。

3. それぞれの個性に合わせたケアが実践されている

たとえば、絵が好きな認知症の人のためには、美術の教師がボランティアでついていて、一緒にコーヒーを飲みながら絵を描いていたりします。サッカー観戦が好きな認知症の人には、ジュニア・リーグでサッカーをしている子供がボランティアでついていたりもします。日本の場合はというと、認知症の人を一堂に集めて、一斉に絵を描かせたり、歌を歌わせたりします。日本では、メーカーが商品を大量生産するように、結果ではなくて、レクリエーションの提供効率が重視されているのです。少なからぬ日本の介護職も、本当はオランダのような個別のケアがしたいと考えています。しかし、忙しすぎる現状では、そんなことはしていられないのです。

オランダの介護を真似するだけではうまくいかない

結局のところ、介護に限らず、国家の経営においては、社会全体の幸福度を高めるというのが保守本流のところなのでしょう。二極化ばかりが進み、非正規の労働者の権利は侵害され、女性の低賃金は改善されず託児所の建設が反対によって中止されるような社会が変わらないままに、介護だけが理想に近づけるはずもありません。

全ては、密接につながっているのです。介護だけを切り出して、そこだけを理想的なものにすることはできません。日本の社会課題を直視し、政治家に期待するばかりではなく、自分たち自身も社会課題の解決に参加をして、より多くの人が幸福のうちに生きられる社会を築いていくことが重要なのでしょう。

当たり前のことを当たり前に進めるのは、非常に難しいことです。これから、オランダも苦しい状態に突入し、現状を維持することはできないでしょう。しかし、その根底には、当たり前のことを当たり前に進めるという信念が根付いています。オランダには、お金では買えないものが積み上がっていたのです。

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