閉じる

高齢者福祉の3原則(アナセンの3原則)

高齢者福祉の3原則(アナセンの3原則)

デンマークの高齢者問題委員会

デンマークでは、1979〜1982年の間に、党派を超えた高齢者問題委員会が設置されています。この最後1982年に、世界的に有名な「高齢者福祉の3原則」が打ち出されました。この委員会の委員長が、ベント・ロル・アナセン(Bent Rold Andersen)氏です。

この「高齢者福祉の3原則」をはじめとして、デンマークの高齢者福祉に対して、アナセン氏が与えた影響は大きいと考えられています。そのため「高齢者福祉の3原則」は、時に「アナセンの3原則」とも呼ばれることがあります。

アナセン氏は、デンマークのコペンハーゲンで生まれ(1929年)、コペンハーゲン大学を卒業後、福祉省に入省しています。後に、母校であるコペンハーゲン大学の准教授となり(1962〜1972年)、ロスキル大学の教授にもなりました(1972〜1975年)。高齢者問題委員会の委員長を勤めた後は、福祉大臣にもなっています。

高齢者福祉の3原則(アナセンの3原則)

高齢者問題委員会が打ち出した「高齢者福祉の3原則(アナセンの3原則)」とは(1)生活継続の原則(2)自己決定の原則(3)残存能力活用の原則です。これらは、現代の日本の介護においても、根底に流れる大事な哲学になっています。以下、それぞれについて、もう少し詳しく考えてみます。

1. 生活継続の原則

いかに心身が弱り、厳しい状態になったとしても、その人の生活は、できるかぎり、それまでの生活が継続されるべきだという考え方(ageing in place)です。これは、別の角度から考えると、老人ホームなどでの介護(施設介護)は理想ではないことを示しており、自宅での介護(在宅介護)を支持しています。仮に施設介護が必要ということになっても、そもそもデンマークでは、そうした介護施設はあたかも普通の住宅のようになっています。そこでは、それまでの生活が少しでも継続されるように、使い慣れた家具などを自室に持ち込めるのです。実際に、リロケーション・ダメージと言って、高齢者が生活環境を変えることには、現役世代が想像する以上のストレスがあり、様々な病気(特に認知症)が悪化することが知られています。便利だから、都合がよいからと安易な理由で、過去の生活を断ち切ってしまわないような配慮が必要なのです。

2. 自己決定の原則

高齢者になり、介護が必要になったりすると、周囲の都合から、様々な物事が決められてしまうことがあります。しかし、いかに心身が弱り、厳しい状態になったとしても、生き方や暮らし方については、あくまでも自分で決定すべきであるという考え方が、自己決定の原則です。本人がどうしたいのかという意思がもっとも重要であるという考え方自体が、日本にはあまり根付いていないものかもしれません。日本の場合は、周囲に迷惑がかかるとか、親の教育方針とか、他の人の意見を尊重するといった考えが浸透しすぎていて、今晩の食事を尋ねられても「なんでもいい」と回答する傾向があるように思います。自分の人生を自分で決めるというのは、その成功も失敗も、責任はすべて自分にあるという文化の存在が前提になります。この部分については、デンマークの考え方を、そっくりそのまま日本の高齢者に当てはめるというよりも、日本の文化が変化していかないとならないのかもしれません。

3. 残存能力活用の原則

「できないこと」をケアするのではなく、まだ「できること」を認め評価するという考え方です。デンマークでは「手を差し伸べる」のではなくて「背中に手をまわす」ことが大切とされます。日本のおもてなし(ホスピタリティー)の考えでは、相手の求めることを先回りして行うことが善しとされますが、これは高齢者福祉の場面では逆に働いてしまう可能性があります。本人が自分でできることまで先回りしてしまうと、まだ残されている能力が低下してしまう可能性が高いからです。あくまでも現場の噂レベルの話ですが、ホテルのように豪華な高級老人ホームでは、認知症が進んでしまうと言われることもあります。デンマークでは「介護が必要な人」に対して至れり尽くせりのサービスを届けるのではなく、「生きる主体性を持った大人」に対して自分のことは自分で行ってもらうという「あたりまえ」が大切にされています。

日本にもユーザー・デモクラシー(利用者民主主義)が必要

デンマークは、もっとも先進的な国として名前が挙がることの多い国です。そうしたデンマークには、政治家や官僚が提案したことを国民がただ飲み込むといった図式はありません。デンマークで基本となるのは、自分たちの求める公共サービスは、自分たちで考えて決めるというユーザー・デモクラシー(利用者民主主義)です。

現在の日本では、介護の改悪が進んでいます。いざ、自分が介護に関わるようになってから、国の介護に対する姿勢を批判しても遅いのです。もちろん、批判を発信することも大切です。しかしそもそも、民主主義社会であるかぎり、社会は批判ではなくて、議論と投票によって変えていくものです。

先にも述べましたが、日本の場合「高齢者福祉の3原則」における自己決定の原則を浸透させるのに時間がかかりそうです。目の前にある社会は、自分の意思決定によって出現しているという認識が広がらないと、どこまでも他者を批判するばかりになってしまうからです。

人口573万人のデンマークとは異なり、人口1億人を超える日本においては、こうした意識は醸成されにくいかもしれません。しかし、デンマークでも、徹底的な地方分権を進めることで、1人の国民が持っている重要な意思決定への影響力を高めています。

華々しい学歴と経歴を持った人物におんぶに抱っこする代理人モデル(エージェントモデル)ではなく、自己決定する人々の集合体になっていかないと、現在の日本が目指している地域包括ケアは実現されません。日本にもユーザー・デモクラシーが必要なのです。

※参考文献
・関 龍太郎, 『デンマークの高齢者福祉政策をささえるもの』, 海外社会保障研究 Spring 2008, No.162
・猪狩 典子, 『デンマークに学ぶ高齢者福祉』, intelplace, #118, March 2013
・朝野 賢司, et al., 『デンマークのユーザー・デモクラシー―福祉・環境・まちづくりからみる地方分権社会』, 新評論, 2005年3月

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

PR