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日本全体で人材が不足している中、介護業界は人材の草刈り場になる?

日本全体で人材が不足している中、介護業界は人材の草刈り場になる?

帝国データバンクによる人手不足調査

帝国データバンクは、日本国内における最大手の企業調査会社です。一般には、企業の信用レベルを調査し、その結果を提供することで、投資や取引の判断を助けています。そんな帝国データバンクは、ほぼ半年毎に、日本全体の人手不足についての調査報道を行っています。

調査対象となっている企業の数は約2万3千社であり、有効回答企業数は約1万社という大規模なものです。非常に信頼性が高い調査として考えてよいと思われます。その最新の調査報道では、なんと、企業の45.4%が「正社員が不足している」と回答したと言うのです。

注目したいのは、この増加率です。1年前の調査報道では、これは37.9%だったのです。ここから、日本全体として景気が改善しており、人手不足が深刻化していることが想像されます。日本全体としては良いことでしょう。しかし介護業界にとっては、かなり悪い話になりそうです。

介護業界では約6割が人手不足と回答

介護労働安定センターは、約1万7千の介護事業者を調査対象とし、有効回答数約9千という人手不足についての調査を行っています。そのの調査報道(2016年度)によれば、介護事業者の約6割が「職員が不足している」と回答しています。

同調査報道によれば、人手不足の原因は採用が困難だから(73%)とのことでした。そして採用が難しい原因として「賃金が低い」ことが取り上げられている点が、どうしても見逃せないのです。なお、介護業界の採用の現状については、過去記事『介護業界における採用の現状について』も参照ください。

介護業界における人材は、2025年には、約38万人が不足すると言われています。この不足が埋まらないと、いざ、介護サービスが必要になっても、それが受けられない可能性が高まるということです。これは、どこかの誰かの話ではなく、私たち自身の生活が成り立たなくなるという話なのです。

介護業界の待遇は、実質的に国によって定められている

介護業界は、賃金が低いことによって、採用難にみまわれています。これは、ずっと以前からなんども指摘されてきたことであり、介護業界にいる人にとっては「今更なにを・・・」という話でもあります。しかし今後、単純な待遇の改善による介護業界の人材確保は、うまくいかない可能性が高くなってきています。

介護事業者の売上は、実質的に国によって定められています。具体的には、要介護者に対して特定の介護サービスを実施した場合の料金が決められており、より優れた介護サービスを提供すれば売上が高まるわけではないのです。

そこで、介護事業者が売上を高めるためには、介護サービスの数を売るしかありません。しかし、介護サービスの提供は、労働集約型のビジネス(従業員の数が売上に比例しやすい)です。ですから、介護サービスの数を増やすには、人材の数を増やすしか(ほとんど)手がないのです。

介護事業者は、売上を高めるために人材を採用しても、その分だけ人件費がかかるため、利益は増えていかないという構造をしています。利益が増えないと、従業員の数は増えても、従業員1人あたりの給与は増えないということになります。

つまり、介護業界の待遇は、実質的に国によって定められているということです。ですから、介護業界の人手不足を解消するには、国によって定められている料金を改善してもらうしかありません。しかしこれは現実的とは言えません。なぜなら、もはや国には社会福祉のために使える財源がないからです。

この話題になると「企業の内部留保を取り崩せ」、「国防予算を削減しろ」といった意見も出ます。しかし、そうしたことも必要かもしれませんが、足りていない財源の大きさに対して、企業の内部留保や国防予算をあてたとしても焼け石に水で、まったく不十分なのです。

このままでは、介護業界は人材の草刈り場になる

2025年までに、公務員の数を半減させ、税金にのみ依存する組織を解体し、さらに増税を行えば、なんとかなるかもしれません。しかし、日本の歴史を振り返るとき、こうした規模での財政改革が成功したことはありません。こうしたアプローチは、議論はできても、実現は困難と予想しておいたほうが無難でしょう。

そうした中で、人手不足が、介護業界の外でも深刻化してきました。わずか1年で7.5%も「正社員が不足している」と答える企業が増えた(37.9%→45.4%)のですから。これは、介護業界は、業界内部ではなくて、むしろ他の業界との人材の取り合いに巻き込まれていくことを意味しているでしょう。

ここについても「そんなことは昔からあった」と言われそうです。しかし、その環境が、わずか1年で劇的に(介護業界にとっては)悪化しているという部分が大事だと思っています。そして、この人材獲得競争の激化は、介護業界の外では、賃金の上昇として観察されていくはずです。

介護業界の外では、売上は、より品質の高い製品やサービスを提供することで高めることが可能です。人材が努力することで、人材の待遇も改善していけるという「当たり前の状態」が、介護業界の外にはあるからです。しかし介護業界には、それが通用しません。人材が努力しても、売上は(ほとんど)変わらないのですから。

このままでは、介護業界は、人手不足を解消するどころか、人材の草刈り場として、他の業界に人材を取られてしまう運命にあります。それはおそらく、介護の周辺産業にある介護保険に依存しない企業が「今よりも1.5倍の年収」といったオファーをするところから始まるでしょう。いや、すでに始まっていると考えたほうがよさそうです。

※参考文献
・帝国データバンク, 『人手不足に対する企業の動向調査(2017年7月)』, 2017年8月24日
・帝国データバンク, 『人手不足に対する企業の動向調査』, 2016年8月25日
・福祉新聞, 『「職員足りない」 6割 介護労働安定センター調査』, 2017年8月21日

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