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親にとって、介護を受ける価値とは?ある事例からの考察

親にとって、介護を受ける価値とは?ある事例からの考察

出来ることならば避けて通りたい?

介護生活は、介護をする側にとってもされる側にとっても、とても大変なことです。介護離職や介護心中など、介護に起因する様々なことが社会問題化しています。ですから、多くの人にとって介護は「出来ることならば避けて通りたいこと」の代表格になっているのではないでしょうか。

しかしながら、医療技術の進歩、女性の社会進出、その他様々な社会構造の変化により、超高齢社会の日本では、今後、介護生活を避けて通ることは難しいものになっています。どんなに嫌でも、誰もが向き合わなければならないのが、介護という課題なのです。

避けて通れないのであれば、介護生活には一体どんな意義があるのか、その存在価値を問うところからはじめたいものです。意義を問うことは、介護生活を乗り越える上で大きな原動力にもなりえるからです。

KAIGO LAB では、主に、介護をする側である家族(介護家族)の視点から介護を考えてきました。しかし今回は、介護を受ける側である親(要介護者)の視点から、介護生活の価値を考えてみたいと思います。

ある要介護者が見出した「介護を受ける価値」とは?

80代の女性Aさんのエピソードです。Aさんは長年、自営業をしてきました。しかし数年前から足腰が弱くなり、介護サービスの利用をするようになっています。それでもAさんは、さすがに自分で商売を切り盛りしてきただけあって「自分でできることは自分でやりたい」という思いが強い人です。

「人様に迷惑をかけたくない」という思いも強く、家事も時間をかけてできる範囲でこなし、買い物にも手押し車を使いながら通っていました。しかし昨年、脳梗塞を発症してから身体に麻痺が残り、移動はほとんど車椅子で、ついには寝たきりの生活になってしまいました。

明るく社交的だったAさんは、すっかり落ち込んでしまいました。いつもうつむいて口数も少なくなっていくのを見ているのは、周囲としても、とても辛いことでした。そして、認知症の症状も現れるようになり、生活は一変しました。Aさんからは「情けない」「ごめんなさい」「家族にも迷惑をかけて申し訳ない」という言葉が多く発せられるようになりました。

そんなAさんのことを案じた介護スタッフは、Aさんに対して、入院中だったご親族のお見舞いに行くことを提案しました。Aさんは、この提案に驚かれました。寝たきりの状態で、誰かのお見舞いに行けるとは考えていなかったのでしょう。

そうして、介護スタッフが付きそうかたちで、Aさんは、ご親族のお見舞いに行きました。Aさんはこの日、ご親族と会えたことを大変喜び、大事な思い出として、後々何度も思い出しては、話題にするようになったのです。

ある日のことです。Aさんは排便の失禁をしてしまいました。ベッド上でオムツ交換をしていたとき、Aさんはポツリ「こうしてオシメを替えて頂くと、あぁ親に感謝しなきゃ、って思います」とつぶやきました。どういうことか伺うと、Aさんは続けてくれました。

「私が赤ん坊の頃、両親はこうして私のオシメを文句ひとつ言わずに替えてくれたんだなぁ。感謝だなぁって思ったんです」「身体が不自由になって、何もできなくなった時、子供達や皆さんのお世話になって、本当にたくさんの人に生かされているんだなぁって初めてわかりました」「本当に感謝の気持ちが持てるようになりました」

そして、自営業で忙しい中、いつも優しくしてくれていたご両親や、曾孫を連れてくるお孫さんや、毎日介護をしてくれる家族への感謝を語るようになりました。Aさんはこれ以降、介護をしてもらう際に「ごめんなさい」「すみません」という言葉ではなく「ありがとうございます」「助かります」という言葉を発するようになったのです。

「絶望」と「統合」のはざまで揺れ動く

アメリカの精神分析学者エリクソンは、人の誕生から死に至るまでの発達の過程を研究し、心理社会的発達理論を提唱しました。この中で、死と直面する老年期は、自分のそれまでの人生を振り返り、それらを肯定的に捉え人として円熟していく「統合」と、それができずに「絶望」にとらわれていくことの間で揺れ動く時期としています。

たとえ順風満帆に人生を生きてきた人でも、介護を必要とする状態になったとき、自らの不自由な身体と心を嘆き、少なからず「絶望」の穴に足を踏み入れることになります。しかし、だからこそ、自分の人生を感謝のうちに総括する「統合」の方向にも、振り子が向かっていくのかもしれません。

確かに、要介護者を介護する家族にとっては、介護は大変な苦労です。しかし介護には、要介護者が自分の人生を肯定のうちに「統合」することの支援という側面もあるのです。家族の苦しみが、要介護者にとって人生最期の発達につながると考えてみると、介護生活に対して、また別の意義を見出せるかもしれません。

※参考文献
・介護福祉士養成講座編集委員会, 『こころとからだのしくみ(3版)』, 新・介護福祉士養成講座14, 中央法規

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