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ストレッチが日本の財政を救う?高齢者の転倒予防としてのストレッチについて

ストレッチが日本の財政を救う?高齢者の転倒予防としてのストレッチについて

ストレッチの大切さについて

身体が固くなると、関節の可動範囲がせまくなります。関節の可動範囲がせまくなると、怪我をしやすい身体になります。スポーツをする前に、必ずストレッチをするのは、柔軟なプレーに結びつけるためだけではなく、こうした怪我を予防するためです。

とくに身体の柔軟性が衰えている高齢者の場合、転倒しやすい状態になることが明らかとなっています(田井中・青木, 2007年)。実際に、高齢者が要介護状態になるときの原因として、転倒は全体の10%を占めており、原因のワースト5に入るのです。転倒がきっかけで寝たきりになってしまうケースもあります。

高齢者の転倒において、要介護状態につながりやすいのは、太ももの付け根にある骨(大腿骨頸部)の骨折です。この治療費は、1人あたり140万円〜180万円かかります。毎年、約20万人がこの骨折を起こすので、日本の医療費のうち約3,000億円が、転倒によって発生してしまっているのです。

高齢者の場合、転倒し、大腿骨頸部を骨折して救急車で運ばれ、要介護状態となり、そこからリハビリなどが必要となる可能性が高いのです。国家予算という側面からも、これがいかに大きな問題であるか、理解できるでしょう。

また、いったん要介護状態になったとしても、その状態を改善させたり、さらに悪化させないためにも、ストレッチは重要です。どうしても運動不足になりがちな高齢者にとって、ストレッチは、必須の日常的な活動の一つであるべきなのです。

QOL向上に資するストレッチの効果

もしかすると、ストレッチのことを「準備運動」程度に軽く考えている人もいるかもしれません。しかし、ストレッチの可能性は、一般に信じられている以上に大きいものです。極端にいうなら、人生の質(QOL)の向上にとって、非常に重要な意味をもっているのです。

ストレッチは、単に、高齢者の転倒予防であるばかりではありません。筋力を増加させたり、精神的なリラックスにつながったり、睡眠の品質を改善することも知られています。さらには、ストレッチが動脈硬化症や糖尿病の予防にもつながるという指摘もあるそうです(山口・石井, 2012年)。

ストレッチは、人間以外の動物(たとえばネコ科)であっても、頻繁に行うことが確認されています。動物がストレッチを行う理由については、まだまだわかっていないこともあります。しかし、それでもストレッチが、動物にとって必要な動作であることは間違いないでしょう。

進化論的には、私たち人間は、身体が資本だった旧石器時代に適応しています。しかし現代社会は、知力が資本です。そのため、日常的には、身体を使うことが(人間本来の姿に対して)減ってしまっているわけです。これが、人間の健康にとって害をなしていることは想像に難くありません。

なによりも、ストレッチは「気持ちがいい」という点は重要です。脳は、その個体にとって都合のよいことに対して「気持ちがいい」という刺激を、その個体に与えるように働きます。こうしたところからも、ストレッチの可能性を過小評価することの危険性が見えるかもしれません。

ストレッチ実践の基本的な考え方

介護業界のプロたちはもちろん、自治体の高齢者担当なども、ストレッチの重要性を深く理解しています。ですから、少し探せば、どこでも頻繁に高齢者向けのストレッチ教室を開催しています。こうした教室に通って、ストレッチについて、プロから正しい知識を得るようにしてください。

誤解が多いのは、身体が固くなるのは、高齢者であれば当たり前というところです。たしかに、高齢化にともなって、身体の柔軟性は低下します。ただ現実には、若いのに身体の固い人もいれば、高齢者でも柔らかい人がいます。運動不足と、長時間同じ姿勢を維持したりするといった日常の活動によって、身体の固さは変わってくるのです。

ストレッチにおける基本は(1)身体中の筋肉を「気持ちのよいところ」まで伸ばす(2)勢いをつけないで、ゆっくり伸ばす(3)伸ばした状態を30秒程度維持する(4)寝起きなど身体が固まっている状態で急にやらない(5)1度に長時間やるのではなく、毎日少しずつでも継続することが大切、といったところです。

なかなか、プロの指導を受けられない場合は『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』(高橋書店)という本がオススメです。学術的なバックグラウンドがしっかりとしている専門家が、写真を多用して、わかりやすくストレッチを解説してくれているからです。

ただし、この本は、基本的に健常者向けに書かれているため、なんらかの障害をもっている要介護者には向いていない可能性もあります。その場合は、やはり、プロの介護職に相談しながら、自分にあったストレッチを教えてもらう必要があるでしょう。

※参考文献
・東京消防庁, 『STOP!高齢者の「ころぶ」事故』
・高齢者転倒・転落ダメージ対策協議会, 『転倒・転落骨折の現状と対策について』
・山口 太一, 石井 好二郎, 『ストレッチングは健康の保持増進に寄与する』, JAPAN STRETCHING ASSOCIATION, 2012年12月
・田井中 幸司, 青木 純一郎, 『在宅高齢女性の転倒経験と体力』, 体力科学(56), 279-286, 2007年
・谷本 道哉, 石井 直方, 『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』, 高橋書店, 2008年11月14日

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