閉じる

介護職の人材確保に向けた論点整理(介護職を公務員にすべき)

介護職の人材確保に向けた論点整理(なにが間違っているのか)

不足する介護職の問題と公務員人気について

介護業界には、2025年問題というものがあります。2025年から、人口ボリュームが大きい団塊の世代(1947~1949年生まれの人)が、75歳になりはじめます。75歳という年齢は、要介護出現率が、それ以前(65〜74歳)の6.4%から、14.0%に跳ね上がるタイミングなのです(生命保険文化センター, 2015年)。

こうした前提から、2025年以降は、要介護になる高齢者が激増することが理解できるでしょう。それにともなって、必要になる介護職の数も増えるわけです。そうした介護職への需要にたいして、供給は追いつきそうもありません。予想では、2025年の時点で、37.7万人の介護職が不足すると考えられています。

これは、誰にとっても深刻な話になってきます。まず、現役世代にとっては、近い将来、自分の親を介護してくれる介護職がいなくなるということです。そうなると、現役世代は、仕事をしながら、直接的に親の介護をする必要に迫られるでしょう。これでは、介護離職も多数発生してしまいます。

そうして、仕事を辞めてまで親の介護をしたら、次は自分が高齢者になる番です。そのとき、自分の介護を担ってくれる人もいません。自分の子供がそれをやってくれればよいですが、そもそも子供の数も減っています。子供がいない世帯も増えています。単身だったりすると、死に直結するような問題です。

にもかかわらず、学生の就職先の人気ランキング(2016年)のトップは地方公務員(28.2%)で、2位も国家公務員(16.0%)だったりするのです。3位以降は、大手銀行が占めています。学生は、社会不安を正確に感じ取っており、自分の身を守るための選択をしているということでしょう。

この問題を解決するための論点

この問題については、介護業界はもちろん、政府や各種シンクタンクなども把握しています。その解決策に向けた議論も、多数出ています。そうした議論における論点について、以下、網羅性に注意しつつ、簡単にまとめてみます。

1. 介護職のイメージ問題

日本における介護職のはじまりは、1956年の長野県ではじまった「家庭養護婦派遣事業」とされています。これは、なんらかの理由で、家事ができなくなった家庭に対して、幅広い範囲での家事手伝いを行うための人材が派遣されてくるという事業です。介護も、この「家庭養護婦派遣事業」に含まれていました。この家庭養護婦として採用されていたのは、夫に先立たれた女性(寡婦)だったのです。長年専業主婦だった寡婦が、夫の収入が絶たれても、貧困状態にならないための配慮でもありました。しかし、こうした寡婦は、専門性が問われることがないまま介護まで行っていたため、社会的には「介護は誰にでもできる仕事」という認識が広がってしまいました。現実の介護は、理論的な根拠に基づいた、非常に高度な専門性の求められる仕事です。それにもかかわらず、歴史的に「介護は誰でもできる仕事」というイメージが定着してしまっているため、優秀な人材が集まりにくい環境になってしまっているのです。このイメージ問題が解決されないと、必要な人材の確保は進みません。

2. 介護事業者の経営レベル問題

日本で介護保険制度が整備されたのは2000年です。それから、民間の介護事業者が立ち上がってきたという歴史があります。その意味で、介護事業者の歴史は浅く、経営レベルも決して成熟しているとは言えない状態です。就業規則があいまいだったり、それがあったとしても守られていなかったり、そもそも人事制度すらないという介護事業者も多数あります。そうした労働環境では、仮に介護職の人材確保ができたとしても、その労働力を長期的に維持することは困難になるでしょう。自然と離職が増えていき、人材は定着しなくなります。どんどん人が辞めていく職場では、先輩による後輩の育成ということが起こりません。成長のチャンスがない職場で働きたいという人材はいません。言葉は悪いですが、介護事業者の多くで、人材の「使い捨て」のようなことが発生しています。経営者に、そうしたつもりはなくても、現実として、そのような環境が生まれてしまっているのです(余談ですが、KAIGO LAB SCHOOL は、こうした環境の改善を目指しています)。

3. 行政による介護保険制度の設計問題

介護職の待遇は、全産業平均よりも年収ベースで100万円以上安いという、非常に不当なものです。この待遇を生み出しているのは、介護サービスに対して行政が設定している、安すぎる介護報酬単価です。さらに、どんなに高度な仕事をしても、経験豊富な介護職と、新人の介護職が提供する介護サービスの利用料は(原則として)同じです。そのように扱われる業界で、進んで働きたいという人材は少ないでしょう。例外的に、そうした聖人のような人材もいるかもしれませんが、普通はやりきれません。行政の中にも「介護は誰にでもできる仕事」という認識があるのでしょう。介護職が稼ぎ出す介護報酬が安ければ、介護事業者も儲かりません。儲からないところには、優秀な管理職が転職してくる可能性も極端に低くなります。結局のところ、先の介護職のイメージ問題にせよ、介護事業者の経営レベル問題にせよ、根本的な原因は、介護報酬単価の安さにあると考えられるのです。では、この介護報酬単価を上げられるかというと、そうもいきません。介護に限らず、日本にはもはや、社会福祉のための財源がないからです。

根本的な解決策は、ただ1つしかない

介護職の不足問題を根本的に解決するには、介護職を、現在の人気職種である公務員(または準公務員)にするしかありません。ちなみに、日本には、国家公務員(約58万人)と地方公務員(約274万人)あわせて332万人の公務員がいます。

人工知能やITによる業務効率化を進めれば、332万人の中から、2025年に不足する介護職37.7万人分の労働力を生み出すこともできるはずです。また、約200万人いるとされる既存の介護職も、公務員とすることで、待遇の改善が望めます(公務員の待遇は全産業平均よりもずっと高いため)。当然、介護職のイメージもずっとよくなるでしょう。

実際に、デンマークなどでは、医療職や介護職の多くが公務員です。ですからこれは荒唐無稽な話ではなく、実際に検討すべきものです。財源の問題で、いきなり公務員とするのが困難であるならば、準公務員として、介護職の職能スキルに応じて、段階的な追加給を税金から出すなど、やり方はいくらでもあるはずです。

介護の現場を見れば明らかなことですが「介護は誰にでもできる仕事」ではありません。また、公務員と同様に、労働条件をめぐってストライキを起こすことが実質的にできない仕事でもあります。社会的に、介護職の高度な仕事を認識しないと、2025年以降の日本は、本当に悲惨な状態になります。それは、どこかの誰かの未来ではなく、私たち自身の未来なのです。

※参考文献
・高橋 幸裕, 『介護職の職業的課題が与える人材確保問題に関する研究』, 尚美学園大学総合政策論集 22, 23-41, 2016年6月30日
・生命保険文化センター, 『介護や支援が必要な人の割合はどれくらい?』, 2015年
・マイナビニュース, 『就職希望先ランキング1位は地方公務員 – 2位は?』, 2016年5月10日

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

PR