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宅幼老所(幼老複合施設)の可能性とリスクについて

宅幼老所(幼老複合施設)の可能性とリスクについて

宅幼老所(幼老複合施設)が増えてきている?

そもそも、高齢者と子供に対して、同じ場所で同時にサービスを行うという試みは、かなり以前から存在しています。これには、宅幼老所(幼老複合施設)という名称もあります。具体的には、小規模多機能型居宅介護と託児所が一緒になって、柔軟で多様なサービスを展開しているイメージです。

実際に、こうした宅幼老所は、日本全国で、少しずつ増えてきています。社会福祉の根幹とされるノーマライゼーションの視点からも、高齢者の居場所、子供の居場所、障害者の居場所といったものを分断するのではなく、自然に統合していくことが求められます。以下、朝日新聞デジタルの記事(2017年2月7日)より、一部引用します。

高齢者や子ども、障害者向けの福祉サービスを一体で受けられる「地域共生社会」づくりへ、厚生労働省は実現までの道筋を示す工程表をまとめた。2020年代初頭の全面実施を目標に各制度の縦割りを段階的に排除。まず18年度から相談窓口を順次一元化し、障害者と高齢者の共通サービスを導入するため、7日に関連法案を閣議決定する。

例えば育児と介護を同時に担う「ダブルケア」をしている人や、障害のある子どもがいる高齢の親などは、制度ごとに異なるサービスの相談を1カ所でできる。障害福祉事業所にいる障害者は高齢になると介護事業所に移る必要があるが、18年度からは指定を受けた事業所なら、そのまま利用可能に。このサービスは希望する事業所が提供する。

育児と介護を同時に行うダブルケアに苦しんでいる人は、すでに25万3千人もいます(男性8万5千人、女性16万8千人)。こうして、高齢者と子供の社会福祉が一体化していく流れは、介護者(家族)としても、行政としても、望ましいことです。

また、忘れられがちですが、少なからぬ介護職は、子育てをしています。そうした介護職は、介護の仕事をするために、子供を託児所に預ける必要があります。その託児所が、そのまま、自分が働いている宅幼老所(高齢者施設併設保育所)であれば、色々と安心でしょう。ここに従業員割引などがあれば、なお良いです。

利用者(高齢者と子供)の視点からはどうなのか?

宅幼老所のような取り組みは、とくに子育てもしている介護者(家族)からすれば負担が軽減されます。また、行政からしても窓口が一体化され、コスト削減にもつながるでしょう。では、宅幼老所の利用者となる、高齢者や子供からしたら、宅幼老所というのはどうなのでしょう。

まず、高齢者からすると、子供とのふれあいによって、自らを保護者として認識できることの意味が大きいようです。高齢者になって、心身が衰え、周囲から一方的に助けられる存在になることは、よいことではありません。「迷惑ばかりかけて、すまないね・・・」という心理状態では、人間は元気になれないのです。

しかし、高齢者であっても、近くに、より弱い存在である子供がいると、保護者になります。子供の安全を気にしながら、子供の教育に関わることは、高齢者に社会的な役割を与えます。これがひとつの生きがいにもなり、日々が充実していくという効果が考えられるのです。

つぎに、子供からすると、高齢者や障害者とふれあうことによって、社会の多様性を学ぶことができます。そもそも、障害者と健常者を同じ環境で教育するというインクルーシブ教育(ノーマライゼーションの一形態でもある)の教育効果が高いという報告は多数あります。子供の視点からも、宅幼老所の意義は大きいのです。

宅幼老所の推進には課題も多くある

理想的な事業に思える宅幼老所ですが、残念ながら課題もあります。まず、高齢者と子供を同時に預かるということは、高齢者と子供について高度な専門性をもった人材が必要ということです。ハコとしての宅幼老所は簡単に作れますが、そこで働いてもらえる人材の確保は簡単ではありません。

広く知られているとおり、介護職も、保育士も、全く足りていません。その理由は、どちらも、待遇が悪すぎるということにつきます。介護職や保育士の待遇改善なくして(例外的にうまく行っているところを除けば)理想的な宅幼老所の実現はありえないのです。

また、宅幼老所における大きなリスクとして、感染症の蔓延があります。そもそも、高齢者も子供も、免疫力が低い状態にあります。とくに子供は、感染症にかかりながら免疫力を高めていく(感染症の抗体を獲得していく)ような発達をするため、よく感染症にかかります。

こうした感染症が、宅幼老所で蔓延してしまうのは、ほとんど宿命とも言えます。感染症対策として、予防接種を徹底することが考えられますが、それでも、このリスクは完全に防ぎきれるものではないでしょう。宅幼老所における感染症の集団感染がニュースになるのは、時間の問題でもあります。

これは、こうした感染症のリスクを飲み込んでもなお、宅幼老所に意味があるかという議論なのでしょう。リスクの受容に関することですから、個々の責任における判断になります。同時に、宅幼老所の訴訟リスクを下げるための法整備なども必要になってきそうです。

※参考文献
・朝日新聞デジタル, 『高齢者や子ども、障害者の福祉一体化へ 厚労省が工程表』, 2017年2月7日
・厚生労働省, 『宅幼老所の取組』, 2013年1月
・北村 安樹子, 『幼老複合施設における異世代交流の取り組み』, Life Design Report, 2003年8月
・文部科学省, 『インクルーシブ教育システム構築事業』, 2015年

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