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日本の公的年金で、アメリカの雇用創出?本当に大丈夫かしら・・・(ニュースを考える)

日本の公的年金で、アメリカの雇用創出?本当に大丈夫かしら・・・(ニュースを考える)

【追記:2017年2月5日】この報道に関して、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の髙橋則広理事長による否定のコメントが出されました(PDF)。ただ、この報道は、安倍首相によるコメントとして出た内容が記事にされたものであり、なにが事実なのか、現在のところ混乱しています。今後の動きに注目していく必要がありそうです。

私たちの年金が、アメリカのインフラに投資される?

日本の公的年金は、ただでさえ、将来の支払いが懸念されています。そんな公的年金のための資金を、アメリカのインフラに投資されるというニュースが入ってきました。本当に、大丈夫でしょうか。以下、日本経済新聞の記事(2017年2月2日)より、一部引用します。

政府が10日に米ワシントンで開く日米首脳会談で提案する経済協力の原案が1日、明らかになった。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が米国のインフラ事業に投資することなどを通じ、米で数十万人の雇用創出につなげる。対米投資などで米成長に貢献できる考えを伝え、トランプ政権との関係強化につなげる。(中略)

安倍晋三首相は1日の衆院予算委員会で日米首脳会談では「米産業界全体の生産性向上や競争力強化に貢献していくか、インフラ整備への協力も含め大きな枠組みで議論したい」と述べた。政府はトランプ氏が重視する米国内での雇用創出に力点を置く包括的な「日米成長雇用イニシアチブ」(仮称)の策定に着手した。(中略)

インフラ分野では、米企業などがインフラ整備の資金調達のために発行する債券をGPIFが購入することが柱だ。GPIFは130兆円規模の資金運用のうち5%まで海外インフラに投資可能。現時点で数百億円にとどまっており拡大の余地が大きい。テキサス州やカリフォルニア州での高速鉄道の整備プロジェクトには国際協力銀行(JBIC)などを通じて長期融資する。

研究開発分野では医療や介護向けロボットの共同開発を目指す。米国ではインフラの老朽化が深刻。ロボットを活用して点検作業を効率化する。原子炉の廃炉に向けた共同研究も検討課題とする。(後略)

大騒ぎする前に、まずは、これが投資であるという認識が必要です。投資ですから、使うお金よりも、大きなリターンが返ってくれば、経済的には問題ありません。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)もプロの資産運用団体ですから、そうしたリターンの計算もしながら、プロジェクトを進めるはずです。

機会費用(opportunity cost)は正しく計算されているのか?

ただ、どうしても気になるのは、この動きは、トランプの強硬な政治姿勢に対して、日本が屈したということを意味するのではないか、ということです。その場合は、リターンの計算において、経済合理性が最優先されず「政治的な意味」という、金銭では測定できない不明確なものが優先されてしまう可能性があります。

本来の投資であれば、機会費用(opportunity cost)が計算されます。ここで機会費用とは「特定の投資を選択した結果としてあきらめることになった、別の投資から得られたはずのリターン(利益)のうち、最大のもの」です。

ゲーム機を買ってしまったことで、英会話学校に通うための費用がなくなったとします。この場合、ゲーム機から得られる満足(リターン)を選択した結果として、英会話学校に通うことで得られた年収アップをあきらめた、ということになります。

このとき、英会話力向上による年収アップが、ゲーム機を購入することの機会費用になります(英会話力以上によい投資があれば、そちらが機会費用になります)。私たちは、人生の様々な場面で、特定の行動を選択することで、必ずなんらかの機会費用を支払っているということになります。

これから、様々なところで「どうしてアメリカのインフラ投資なんだ!」という声があがり、それに対して政府は「投資ですから、きちんとプラスになります」という回答をするでしょう。このとき、機会費用はどうなっているのか、それを分析したのか、その結果を公開してほしいという方向に議論が向かわないとなりません。

ニュースでは、医療や介護向けロボットの共同開発など、耳障りのよいことが述べられています。しかし、それと公的年金の投資は、別の問題です。まずは投資として成立するのか、そして、機会費用はどうなっているのかを確認しないとなりません。

国内の雇用創出の機会費用を計算する場合

今回のニュースは、アメリカでの雇用創出につながることが述べられています。雇用創出は、結果として、納税者を増やし、税収の増加にもつながります。政治的には、その政権の支持者も増やすことになります。トランプを勢いづかせることになるのです。日本企業としては、それによる不利益も増えるでしょう。

逆に、アメリカのインフラに投資されるお金を、国内のベンチャーに投資すれば、どうなるでしょう。納税者が増え、企業からの法人税も高まります。上場するベンチャーが増えてくれば、社会変革も加速できるでしょう。日本が元気になります。

こうした、直接投資の周辺で発生する間接的なリターンについても、機会費用の計算に入れないとなりません。もちろん、投資は分散しておかないと危険という面もありますから、外国に対して投資をすることが悪いというつもりはありません。ただ、社会福祉の倒壊を目前とした今の日本に、その余裕があるのかというと、疑問なのです。

日本は金持ちだと誤解されていますが、現実には、中流層が消滅し、もはや満足に子供ももてない社会なのです。そろそろ、日本の現実を理解し、できることとできないことを整理しないとならない時期にきているのではないでしょうか。

次は、日本に駐留しているアメリカ軍を引き上げると脅され、機会費用の計算されない投資をさせられるのではないかと、心配です。公開されていないだけで、実はすでに、そうした環境にあるのかもしれません。私たちは、本当に恐ろしい時代に生きています。

※参考文献
・日本経済新聞, 『公的年金、米インフラに投資 首脳会談で提案へ』, 2017年2月2日
・酒井 穣, 『機会費用(Opportunity Cost)』, 2006年5月27日

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