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完全介護対応の留置室を持った留置所が登場(ニュースを考える)

完全介護対応の留置室を持った留置所が登場(ニュースを考える)

留置所とはなにか

まず、留置所とは、特定の事件の犯人として疑われている容疑者が入るところです。容疑者ですから、まだ、犯罪者ではありません。有罪判決が出るまでは、推定無罪というのが、大切な対応です。ですから、留置所は、刑務所(法務省管轄)とは異なり、警察の管理下にあります。

留置所の中の部屋(留置室)が、完全介護対応になったからといって、それだけで「犯罪者が優遇されている」と騒ぐのは間違いです。なんらかの犯罪の犯人であることが疑われていても、後になって釈放となるケースもあるからです。

とはいえ、高齢者の犯罪が増えているという事実もまた無視できません。高齢者人口の増加率よりも、高齢者による犯罪率のほうが増えてしまっていることは、高齢者のほうが犯罪に手を染めやすい社会になっていることを示します。

留置所に完全介護対応の留置室が登場

こうした背景から、警察官に対する介護研修が増えていたりもします。そしてさらに、バリアフリーの留置室が登場したのです。以下、共同通信の記事(2017年1月20日)より、一部引用します。

高齢などで介護が必要な留置人に対応するため、警視庁は20日、東京都北区の本部留置施設西が丘分室に、バリアフリー化した介護用留置室1室を全国で初めて設け、報道陣に公開した。24日から運用を始める。

介護室は個室で、対応する警察官が動きやすいよう、広さは通常の留置室の約2倍となる35平方メートル。車椅子による移動も考慮して段差をなくし、温水洗浄便座も警視庁で初めて設けた。電動式ベッドも利用する。

こうした留置室が必要であることは、頭では理解できます。繰り返しになりますが、留置所ですから、推定無罪です。しかしどうしても、普通に暮らしている要介護者よりも贅沢に感じられる環境に、どこか「いびつ」な社会構造が感じられてしまいます。

警察もまた、そうした民意に配慮して、慎重に設計し、報道陣への公開としたはずです。ですから、こうした報道だけで、警察を非難するのは筋違いでしょう。本当に異常なのは、留置所や刑務所の中よりも悲惨な環境で暮らす要介護者が増えているという点です。

珍しくない人生を俯瞰してみると・・・

日本から中流層が消え、子育にかかる費用も増えています。子供は、奨学金を受けながら、借金をして大学を卒業するかもしれません。大学を卒業しても、非正規社員としての雇用しかないこともありえます。2015年の時点で、すでに非正規社員が全体の4割なのですから。

非正規社員だと、給与もなかなか上がりません。労働者の多くが非正規社員なのですから、消費も低迷します。すると、経営者としても、正社員を増やすことができません。給与の安い非正規社員は、現在の4割からさらに増えていくでしょう。

ここに、人工知能のようなテクノロジーが登場しつつあります。社会全体としては、これで失業者を増やすよりも、賃金の安い雇用を維持したほうが合理的です。ですから、失業者を増やさないために、正社員、非正規社員の別なく、賃金の抑制が推進されるでしょう。

しかし、子育にはお金がかかるのです。大学の学費は上昇しつづけています。奨学金の返済もまだ終わっていない場合は、結婚や出産をあきらめる人が増えても、あたりまえです。子供が増えなければ、将来の労働力がなくなるのはもちろん、将来の消費者もいなくなります。経営もますます厳しくなり、倒産も増えるでしょう。

そんな不安定な社会では、子供を産まない選択をして、結婚もしないまま、高齢者になる人が増えるでしょう。ずっと非正規社員だと、貯金もあまりなく、年金も決して十分な額をもらえないでしょう。そこで病気にでもなれば、独居の要介護者になります。

この流れでは、子供が増えず、社会福祉のための財源は、今よりももっと厳しくなります。当然、医療や介護における自己負担の割合も高くなっていきます。すると、非正規社員だった独居の要介護者は、十分な医療や介護を受けられなくなります。

このとき、多少の犯罪を犯してでも、刑務所に入ったほうが、人間らしい暮らしができるとしたら、どうでしょう。なるべく他人の迷惑にならないような犯罪を指南するサイトを探し(すでに存在しています)それを実行して、残りの日々を刑務所で暮らす選択をするかもしれません。

本当の間違いは、どこにあるのだろう?

こうした珍しくない人生は、本当に、その全てが本人のせいなのでしょうか。自己責任として、切り捨てられるのでしょうか。逆に、こうした珍しくない人生の、どこに、改善点があるのでしょう。もちろんそれは、非人間的な留置所や刑務所を作ることではありません。

間違っているのは、要介護者に対応できる留置所や刑務所のほうではありません。それが間違っているように感じられてしまう一般社会のほうに、本当の間違いがあるのです。私たちは、それを正しく見定め、解決していかないとなりません。

日本の社会福祉が倒壊することは、もはや避けられそうにありません。問題は、そうして倒壊することを前提としたとき、新しい社会は、どうあるべきなのでしょう。私たちは、日本の社会福祉の倒壊に備えながらも、次の日本を構想していくべき段階にあります。

※参考文献
・共同通信, 『全国初の介護用留置室、警視庁 高齢化に対応』, 2017年1月20日

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