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経験と理解は違う(トイレットペーパーの社会学)

経験と理解は違う(トイレットペーパーの社会学)

トイレットペーパーの向きに関する論争

社会学社のエドガー・アラン・バーンズ教授による有名な提言として、トイレットペーパーの向きに関する考察があります。「トイレットペーパーの社会学(Wikipedia)」という分野が存在し、そこでは多くの議論が起こされているのです。アメリカやカナダの調査では、約7割が表向きで、残りが裏向きという結果になっています。

トイレットペーパーの社会学

私たちは、子供のころから、トイレットペーパーの使用を経験しています。ですから「トイレットペーパーを理解していますか?」と聞かれたら、多くの人が「理解している」と答えることでしょう。

では、年収が高いほど、トイレットペーパーの向きとして、表向きを好むという指摘があることは知っていましたか?政治的にリベラルのほうが、表向きという指摘もあります。トイレットペーパーと、性格との関連性も指摘されていますが、これは、どうでしょう。

経験しているだけで、それを理解しているとは言えない

そもそも「自分は、トイレットペーパーをどのように使っているか?それはなぜか?」という問いを立てたことがあるでしょうか。バーンズ教授によるこの問いは、他の大学の社会心理学コースなどでも採用されている、とても優れたものです。

この問いは、日常的に自分が経験していることは、それだけで、その対象を理解していることにはならないという「あたりまえの事実」に気づかせてくれるからです。

私たちは、日々一緒に暮らしているパートナーのことを理解しているでしょうか。では、より一般化して、人間について理解しているでしょうか。そして、介護についてはどうでしょう。日々、介護に苦労していれば、それで介護を理解したことになるのでしょうか。

介護は、医学、生理学、薬学、社会学、哲学、心理学など、幅広い知識でできている非常に高度なものです。これを、ただ自分の経験だけで乗り越えていくのは、どうしても無理があります。

経験を越えられるのが人間の特徴でもある

何事も、経験することは大事です。そもそも、ほとんどすべての生物は、経験から学ぶという特徴を備えています(経験学習論)。ただし、人間だけが、経験していないことについても理解を深められるという側面があることは、ここで強調しておくべきでしょう。

初代ドイツ帝国宰相のビスマルク(1815〜1898年)は、有名な格言として「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を残しています。正確には、愚者は自分で痛い経験をしないと学べないが、賢者は他者の失敗経験(歴史)に学ぶことができるという意味での発言です。

介護においても、これは本当に大事な視点になると思います。数年も介護を経験すると、自分のやり方以外には考えられなくもなります。特に、介護がルーティンとして安定していると、状況を改善するというモチベーションもわかなかったりもするでしょう。

しかし、他者の失敗経験に耳を傾けたり、書籍や論文から新しい考えを学んだりすることをやめてしまえばどうなるでしょう。他者が、そこが危険だと理解している落とし穴にはまるようなことになれば、なんとも虚しいです。

特に男性の介護者は、自分だけで完璧な介護を目指す傾向が指摘されています(西尾, 2014年)。相談すること「負け」や「弱さ」のように感じてしまい、相談すれば解決することを、ずっと自分で抱え込んでいたりもするようです。

自分が知らないということを知るのが難しい

ソクラテスによる「無知の知」を持ち出すまでもなく、私たち人間にとって「自らが何を知らないか」を理解するのは、とても難しいことです。特に、長年の経験がある分野だと、私たちは、自分の理解を過大評価する傾向があります。

なにかを理解しようとするとき、経験が助けになることは疑えません。「百聞は一見に如かず」という言葉もあります。しかし、あまりにも経験を重視してしまえば、人間に与えられている可能性を無駄にしてしまうことにもなりかねないのです。

自分の専門分野であっても、自らの視野を広げるために、他者との交流が絶対に必要です。介護ほど広くて難しい分野においては、なおさらです。様々なセミナーに出席してみたり、家族会に参加してみることは(役にたたないものもあるでしょうが)、人間にだけ与えられている可能性を活用することにほかなりません。

※参考文献
・Wikipedia, 『トイレットペーパーの向き』
・西尾美登里, et al.,『在宅で認知症を有する療養者を介護する男性介護者の対処尺度項目の検討』, バイオメディカル・ファジィ・システム学 会誌, Vol.16, No1(2014年)

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