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介護をめぐる殺人事件の4割で、再発防止策のための検証がなされていない(ニュースを考える)

介護殺人の再発防止策を検討していない自治体が4割(ニュースを考える)

介護殺人の周辺にある「なぜ?」

介護の困難によって、介護者(多くは家族)が要介護者を殺してしまったり、要介護者と心中をしたりしてしまう介護殺人が問題視されて久しいです。それなりに対策がとられてきたようですが、介護殺人は減少しているとは言えない状況です。

ニュースとして取り上げられたものに限定しても、1998〜2015年(18年間)で716件(724人が死亡)の介護殺人が報告されています。このうち、配偶者間の殺害が333件(46.5%)、子による親の殺害が331件(46.2%)でした。夫による妻の殺害が240件と最多で、次が息子による親の殺害が235件でした(湯原, 2016年)。

介護殺人を身近に経験したという人は少ないかもしれません。しかし、長く苦しい介護をしていれば「死んでもらいたい」「殺してしまいたい」と感じることは、よくある話だと思います。ギリギリのところで踏ん張った経験という意味であれば、誰でもあることでしょう。

この、ギリギリのところで踏ん張れる、踏ん張れないの差は、非常に大きいものです。非常に大きいものなのですが、その内訳は、わかっているとは言い難いのが現実です。自分自身、いつまでも、ギリギリのラインを超えないで頑張れるかというと、不安にもなります。

介護殺人の周辺にある「なぜ?」を深堀りすることは、本当は、多くの介護者(家族など)の助けになっていくはずです。しかし、それが国家レベルでできているかというと、かなり心もとないのです。

介護には難易度の高いマネジメントが求められる

介護は、まず、要介護者の状況を的確に把握すること(アセスメント)からはじまります。日々勉強をしているプロの介護職でも、この段階でつまづき、苦労をすることが多々あります。素人であれば、なおさらです。

ここで正しく把握した状況に対して、今度は、その状況に合った様々な対処を、様々な介護サービスと連携して進めていきます。そして、介護サービスには、自治体が提供するもの、民間のもの、そしてNPOによるものなど、理解するだけで大変なものです。

ここに関しては、プロの介護職でも、悩んでいる部分です。次々と新しい介護サービスが生まれ、そして、かつてそこにあった介護サービスは消えていったりもします。夜勤もある激務の中、その全てを把握するのは、かなり難しいことです。

このように、そもそも、介護をするということは、難易度の高いマネジメントなのです。行政が、介護殺人が起こってから「相談してもらえたら・・・」という趣旨の発言をすることがあります。しかしそもそも、どこに相談すべきかを考えること自体が難しいのです。

当たり前ですが、介護は、とても難しいものです。世間的には、介護=下の世話といった認識しかないかもしれませんが、そんな話ではありません。知的にも、能力的にも、かなり高度なものが求められるのだという認知が広がっていく必要があります。

再発防止策の検討には相当なリソースがかかる

介護殺人に至ってしまう背景には、大きく見れば、この難易度の高いマネジメントがあると考えられます。その難易度につまづき、相談すべき段階で、相談先がないように感じてしまうのは、むしろ本人のせいではありません。難しすぎる日本の社会福祉の構造のせいです。

具体的に、どこで困難になるのかと、どういう形であれば、介護殺人に至る前の支援ができるのか・・・。介護殺人の再発防止策を確立するには、個別に異なる事例を深堀するためのリソースが必要になります。

しかし、それをお金のない自治体にできるかというと、かなり難しいと思われるのです。以下、読売新聞の記事(2016年12月19日)より、一部引用します。

高齢者介護を巡り、2013年以降に家族間で起きた殺人・心中などの事件の4割で、自治体が再発防止策を考えるための検証を実施していないことが、各自治体に対する読売新聞のアンケート調査でわかった。

事件に関する情報が入手しにくいことや、ケアマネジャーなど在宅介護を支援する人たちへの批判につながりかねないことが検証を難しくしている。厚生労働省は、国と自治体が連携した検証態勢の検討を進める方針だ。

この記事では、ケアマネなどへの批判につながりかねないという原因が指摘されています。これはとても大事な配慮です。そもそも、要介護者(利用者)のところで介護殺人が起こってしまった場合、その周囲にいた人々に対するカウンセリングも重要になってくるはずです。

財源がない中、とても大変なことだとは思います。しかし、ここの再発防止策を検討するのが、そもそも国家の大事な役割のはずです。なんとか、しっかりとした検証を行い、悲しみの連鎖を少しでも減らしていただきたいと思います。

※参考文献
・湯原 悦子, 『介護殺人事件から見出せる介護者支援の必要性』, 日本福祉大学社会福祉論集(第134号), 2016年3月
・読売新聞, 『介護殺人・心中、自治体4割検証せず…読売調査』, 2016年12月19日

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