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高齢者に対して「今日は、何月、何日、何曜日?」と聞いてはいけない?(介護の守破離)

高齢者に対して「今日は、何月、何日、何曜日?」と聞いてはいけない?

「今日は、何月、何日、何曜日?」

認知症の予防や早期発見のためには、高齢者の現状を把握する必要があります。そのためのテストとして有名なものに「今日は、何月、何日何曜日?」という質問を、テストしたい相手に投げるというものがあります。

単純なのですが、今日が何月なのか、何日なのか、何曜日なのかがわからないと、認知症の疑いが確認できるということです。単なる物忘れと、認知症の疑いを区別するのにも適していると考えられてきました。

しかし、現場のベテラン介護職やケアマネと付き合っていると、この質問には「問題がある」という意見を聞くことがあります。

まず、この質問に正しく回答することができた高齢者は、自分の認知能力が疑われていることがわかるので、不快な思いをします。逆に、この質問に正しく答えられなかった場合、高齢者は、自信を失ってしまうのです。これは、介護本来の目的とは真逆の結果です。

ベテランは、どのように質問をしているのか

ベテランがこの質問をするときは(なるべく)相手に直接的には質問しないそうです。

たとえば、自分のほうが今日について忘れてしまったふりをします。「あれ?今日って、何月だったっけ?あれ?あれ?」といった状態を高齢者に見せます。その上で「何月でしたっけ?私、すっかり忘れちゃって・・・」といった質問のしかたをします。

こうして質問することで、この質問に答えられた高齢者は、自分が疑われているような気分にはなりません。仮に、質問に答えられなかったとしても、高齢者は「自分だけじゃなくて、みんな、こういうものなのかも」という気分になるでしょう。

もちろん、相手によっては直接的に聞いたほうがよいという場合もあるでしょう。いつでも「こうあるべき」という話ではなくて、ベテランは何を気にしているかという部分には、私たちも理解を深めていく必要があるという意味です(ここは強調しておきたいです)。

実際に、ベテランが若手に対してこういうことを言うと「そんな枝葉のことを・・・」という批判があるようです。しかし「神は細部に宿る」という言葉があるとおり、むしろ、ベテランと若手の差になるのは、こうした細部においてなのです。

マニュアルとの付き合いかたとしての守破離

守破離(しゅはり)という言葉があります。これは、日本の茶道、華道、武道といった伝統世界における、物事の学びかたとして伝わっているものです。有名な言葉なので、聞いたことのある人も多いでしょう。

守破離の守(しゅ)は、師匠の教え(マニュアル)を厳格に守る段階を指しています。この段階においては、ただ教えを厳格に守るだけでなく、どうしてそういう教えになっているのかを考えながら学ぶことが重要です。ただ、コピーするばかりだと、次の段階に進めないからです。

守破離の破(は)は、ときに、師匠の教え(マニュアル)を破り、自分の方法を試すという段階です。前の段階で、その教えがどうしてそうなっているのかという目的がわかっていないと、この段階には至れません。その目的を達成するためには、教え通りにやっていては、返ってよくない場合にこそ、破という行動が生まれるのです。

今回の例とした、ベテランは「今日は、何月、何日、何曜日?」という質問を(直接的には)しないというのも、まさにこの破の段階を示しているでしょう。マニュアルには、そういう質問をしなさいと書いてあるのです。しかし、ベテランは、要介護者の自立という目的を考えたとき、その質問を(直接的に)するのはおかしいと判断できるのです。

最後の守破離の離(り)は、師匠の教え(マニュアル)に書いてあること全ての背景にある目的を正しく認識し、自分で独自のマニュアルを作るという段階です。この段階にある人だけが、新しいマニュアルの作成を行うことができます。

※参考文献
・薬本 武則, 『画の六法-美術教育の活性化をめざして-』, 共栄大学研究論集 13, 119-133, 2015-03-31

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