閉じる

「笑い」は百薬の長?「笑い」が様々な病気のリスクを低減する

期待値管理(エクスペクテーション・マネジメント)

「笑い」とはなにか?

恐怖など、ネガティブな感情に対する反応は、危険を遠ざけるようなものとして、人間以外の多くの生物に備わっている基本的な機能です。しかし、喜びなど、ポジティブな感情に対する反応としての「笑い」は、人間と、一部の霊長類に限定されている機能です。

古代ギリシアの哲学者アリストテレスは「笑い」を「他人を軽蔑し見下すことから生ずる快感」と考察しています。以来、多くの哲学者や科学者が「笑い」について考察してきましたが、未だにその意味は判明していません。

ただ、人間と一部の霊長類の場合、社会的な関係性が個体の生存を左右するという特徴があります。ここから「笑い」は、個体同士の関係性を強化することに重要な役割を果たしているという説が有力視されています。

「笑い」の医学的考察

「笑う門には福来たる」というように、怒りや悲しみといったネガティブな感情が健康を害し、逆に「笑い」は健康を促進するということは、古くから知られていました。これを、医学として考えたのは、ジャーナリストのノーマン・カズンズ(Norman Cousins/1915〜1990年)が始まりと言われます。

不治と言われた難病(強直性神経炎)を「笑い」によって克服したカズンズは、その経験をアメリカの医学雑誌に投稿し、また『笑いと治癒力』という本にまとめています。この業績により、カズンズは、カリフォルニア医科大学ロスアンゼルス校の客員教授になっています。

カズンズにより「笑い」の医学的な研究が幕をあけ、これ以降、多くの研究者が「笑い」をテーマとして調査研究を続けています。こうした調査研究により、これまでにわかっていることを、各種参考文献(最後に列挙してあります)をベースとして、以下に簡単にまとめてみます。

1. 呼吸生理学からの「笑い」の考察

呼吸には、胸式呼吸(きょうしきこきゅう)と腹式呼吸(ふくしきこきゅう)があります。呼吸を司る肺は、肋骨と横隔膜で支えられています。このとき、横隔膜を動かさずに、肋骨を広げて行う呼吸を胸式呼吸と言います。深呼吸などで胸を広げるイメージで行う呼吸です。

これに対して、肋骨を広げることなく、横隔膜を押し下げるような方法で行う呼吸を腹式呼吸と言います。胸式呼吸も腹式呼吸も、どちらも大事な呼吸なのですが、一般には、ほとんどの呼吸は、胸式呼吸で行われているそうです。

このとき、1回に行われる呼吸は、胸式呼吸では500cc、腹式呼吸では最大2,000ccにもなるそうです(昇, 1994年)。演劇の役者が腹式呼吸の練習をするのは、肺により多くの空気を取り込むことで、最後尾の客席まで届くような大きな声が出せるからです。

「笑い」(特に大笑い)には、腹式呼吸が使われます。このとき、多くの酸素が体内に入ることで、免疫力が高まり(畑野, 2009年)、高血圧や動脈硬化が抑制される(昇, 1994年)と言います。逆に、泣くときの呼吸は胸式呼吸になっているそうです(畑野, 2009年)。

2. 精神神経免疫学からの「笑い」の考察

ガン細胞と闘うことが特徴とされる免疫細胞(ナチュラルキラー細胞)が、大笑いをすると、大幅にアップすることがわかっています。薬物療法では、薬を投与してから3日もかかることが「笑い」では、短期間で免疫力が高まる(正常になる)ことが確認されたのです(昇, 1994年)。

関節リウマチに関連するインターロイキシン6(IL-6)も「笑い」によって有意に低下することが認められています(畑野, 2009年)。30〜50代の女性に多いとされる関節リウマチは、関節に炎症が起こるだけでなく「病気の総合商社」と呼ばれるほどに、様々な病気に関連します。

今のところ、関節リウマチは、本来は自分の身体を守る働きをする免疫細胞が、自分自身を攻撃してしまうことが原因と考えられています(正確には原因はわかっていない)。そのため、大変な病気なのですが、根本的な治療法がないのです(畑野, 2009年)。

3. 「笑い」に認められているその他の効果

朝日新聞の記事(2016年3月12日)によれば、ほぼ毎日「笑い」がある人は、そうでない人と比較して、脳卒中のリスクがずっと低くなることが報告されています。この原因はよくわかっていませんが、人のつながりや、ストレス軽減などが背景にあるのではないかと考えられているようです。

日本心臓財団のページ(2015年10月15日)では、動脈硬化や各種の心臓病にも「笑い」が良い効果をもたらすことが指摘されています。同ページでは、アメリカの研究事例紹介として、毎日30分「笑い」があれば、心筋梗塞の薬の量が減らせるといった報告が取り上げられています。

大阪府の資料(2006年3月)では(1)「笑い」は血糖値の上昇を抑制する(2)「笑い」はアトピーなどのアレルギー反応を抑制する(3)「笑い」により脳が活性化する、といったことが紹介されています。「笑い」は、認知症予防にもなるかもしれないのです。

「笑い」の多い生活を心がけたい

どうして「笑い」が人間に健康をもたらすのかといったことは、まだ、正確にはわかっていないことがほとんどです。しかし、臨床試験の結果として「笑い」には効果があることが認められつつあるからには、その効果は疑えないものになりつつあります。

とはいえ、いざ笑えと言われても、そうそう笑えないものです。一人で泣くことは簡単でも、一人で笑うのは難しいものですよね。「笑い」には、どうしても他者の存在が必要です。逆に言えば「笑い」は、なんらかの社会参加の見返りとして得られるものでもあります。

気乗りしなくても、社会参加をすると、苦しみだけでなく「笑い」も手に入ります。定年退職をしたりすると、どうしても他者との交流が減り「笑い」も得にくくなってしまうものです。高齢者こそ、社会参加を心がけて、できるだけ「笑い」の多い人生を送りたいものです。

※参考文献
・柴原 直樹, 『笑いの発生メカニズム』, 近畿福祉大学紀要 7(1), 1-11, 2006年6月15日
・大阪府, 『大阪発笑いのススメ』, 2006年3月
・昇 幹夫, 『笑いの医学的考察』, 笑い学研究(1), 26-30, 1994年7月9日
・畑野 相子, 『笑いが脳の活性化に及ぼす影響』, 人間看護学研究(7), 37-42, 2009年3月
・朝日新聞, 『笑わないと脳卒中リスク増える? 千葉大など調査』, 2016年3月12日
・公益財団法人日本心臓財団, 『笑いと心臓病』, 2015年10月15日

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

PR