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解雇規制の緩和が近い?企業に社会保障財源の負担増を求める見返りとして

解雇規制の緩和が近い?企業に社会保障財源の負担増を求める見返りとして

解雇規制によって生まれてしまっている社会階層

解雇規制というのは、企業が、その従業員を解雇することが難しいという状況を生み出すための、国によって定められている規制です。日本は、世界の国々と比べても、この解雇規制が特に強い国であることは、広く知られている事実です。

経営者の視点からすると、十分な売上がえられない時にも(解雇ができないので)従業員の給与だけは出ていってしまうということです。このため、十分な売上があったとしても、おいそれと従業員を増やすことができません。これが、日本の長時間労働という問題の原因の一つになっています。

もちろん、従業員の立場からすれば、簡単に解雇されてしまう社会というのは、不安で仕方がありません。そこで、長時間労働にもなんとか耐えて、安全を確保しようとしてきた背景があります。

ここで、生まれてしまったのが、非正規社員という存在です。2008年のリーマンショックのときに「派遣切り」が起こったように、企業としては、解雇できない正社員の数は最小限としつつ、解雇のしやすい非正規社員を増やすという方向に向かっています。そうしないと倒産してしまうので、仕方がないというところです。

「派遣切り」が問題視され、非正規社員であっても、解雇しにくいように規制すべきという話も出ました。しかしそれでは、給与が支払えないような不況時には、企業は倒産しなければならなくなります。それは無理な選択なので、非正規社員に関する規制が厳しくなれば、企業は、国外に労働力を移動させることが明らかです。

そんなわけで、今の日本には、解雇規制によって守られている正社員と、簡単に解雇されてしまう非正規社員という、2つの社会階層ができてしまっています。これを「労働条件の多様化」と言う人もいますが、こうした言葉は、社会的弱者を見えにくくさせるだけではないでしょうか。

複数回に渡る、OECDによる対日勧告

要するに、日本という社会は、正社員の安全を守るために、多くの非正規社員(契約社員、派遣社員、パート、アルバイトなど)が生まれているという状況にあります。正社員よりも優れた仕事をしている非正規社員がいるということは、衆知の事実でしょう。

こうした状況に対して、OECD(経済協力開発機構)は、複数回に渡って勧告を出しています。OECDによれば、日本は所得の格差が広がっており、その根本的な原因は、正社員が守られすぎていることにあります。

本来であれば、正社員も非正規社員も、労働者という意味において違いはないはずです。どちらも、平等に守られているべきであり、大きな違いが出てしまっている社会保障についても、正社員と非正規社員の差があるのはおかしな話なのです。

これまでは、こうした話を議題に乗せても、既得権を守ろうとする正社員が多い社会でしたので、解雇規制の緩和というのは、実現不可能に思われてきました。しかし、現代の日本では、もはや非正規社員が4割(厚生労働省発表/2015年12月)を超えています。

多数決が前提の民主主義国家である日本において、解雇規制の緩和が実現するのは、時間の問題ということです。今後も非正規社員の割合は増えていきますから、どこかの時点で、少数派となった正社員の既得権は、はがされることになるでしょう。

「2020年以降の経済財政構想小委員会」による議論

こうした背景を受けて、国は、いよいよ、解雇規制の緩和についての動きを本格化させつつあるようです。2020年以降の日本を考えるという立て付けであり、その頃には、非正規社員の割合も、過半数になっていることを見越しているのでしょう。以下、日本経済新聞の記事(2016年10月14日)より、一部引用をします。

自民党の小泉進次郎農林部会長がトップの「2020年以降の経済財政構想小委員会」が月内にまとめる社会保障制度改革案の骨格が分かった。若者でパートなどの非正規社員が増えているため、正規・非正規を問わず全ての労働者が社会保険に入れるようにする。企業への解雇規制を緩和し、成長産業への労働移動を後押しする。

月内にも党の財政再建に関する特命委員会に提言する。(1)社会保険の範囲拡大と解雇規制の緩和(2)年金支給開始年齢の柔軟化(3)医療・介護費の自己負担割合の見直し――などが柱。(中略)

財源として企業に負担増を求めるが、一方で経済界に要望の強い解雇規制の緩和を認める。労働者の学び直し支援も拡充し、衰退産業から成長産業に移りやすくして労働生産性を高める。政府は激変緩和のための財政支援をする。

ポイントとなるのは、企業に求める社会保障(医療や介護のための費用負担が含まれる)の負担割合を上げるかわりに、解雇規制を緩和するという「取引」になっているというところです。社会保障の財源が枯渇しつつある国としては、とにかく、企業からの社会保障費の徴収が増やせれば助かります。

企業の経営者としても、従業員を解雇できるようになるほうが、社会保障の負担割合が上がる以上に、プラスの変化です。非正規社員にとっては、社会保障が今よりも手厚くなるだけですので、完全にプラスです。そして、明らかなマイナスは、正社員だけという状況になります。

ここで、正社員の立場にある人が「不公平だ!」と叫んだとします。しかし、そうした正社員の多くは「派遣切り」されていく非正規社員のために戦ったわけではないので、国はもちろん、経営者や非正規社員が、この主張を重く受け止めることはないでしょう。

もちろん、あまりにも経営者の力が強くなりすぎるのは問題です。同時に、雇用というのは天然資源ではなく、誰かがリスクを取って生み出したものであるという事実へのリスペクトも必要でしょう。ここのバランスが、いよいよ調整されようとしています。

※参考文献
・日本経済新聞, 『解雇規制を緩和 自民小委が改革案、雇用流動化狙う』, 2016年10月14日

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