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高齢者を災害から守るために考えておくべきこと

要介護者を災害から守るために考えておくべきこと

過去の経験は生かされなかったのか

先日、日本に上陸した台風10号は、東北地方や北海道地方に甚大な被害をもたらしました。なかでも岩手県のグループホーム(認知症に苦しめられている高齢者が共同生活をする場)では、入所者の9人が犠牲になるという、悲しい事故が起きてしまいました。

まず、この事故により亡くなられた方、そのご親族や関係者の皆様に、謹んで哀悼の意を表します。

今回の水害では、一気に水位が上昇し、救助が困難だったとのことです。とはいえ、本当に適切な避難指示がなされたのかは、しっかりと検証する必要があります。というのも、この地域は2011年の豪雨でも床上浸水を経験していたからです。

また、岩泉町は被害のあった前日から、全域に避難準備情報を出していましたが、ホームのあった地域では避難勧告等は出されていませんでした。国の指針では「要配慮者」については、避難準備情報が出た段階で、避難を始めるよう求めています。もし、過去の経験が生かされていたら、と考えてしまうもの無理はありません。

高齢者の避難は非常に難しいという現実

今回の水害では、このグループホームでの被害が大きく取り上げられました。これまでの過去の災害を振り返ってみても、高齢者や障害をもった人が避難できず、犠牲になる確率は、非常に高くなっています。

たとえば、東日本大震災では、2012年3月の段階で、15,331人の犠牲者が確認されました。そのうち、10,085人(65.8%)が60歳以上の高齢者だったのです。震災当時、岩手、宮城、福島の3県の全域で、高齢者の人口は全体の約31%だったので、いかに高齢者が犠牲になる確率が高かったかがわかると思います。

また、被災3県の沿岸部30市町村における総人口に対する、死者の割合が1.03%であったのに対し、障害をもった方の死亡率は2.06%と、2倍であったことも報告されています。この数字を見るだけでも、高齢者や障害を持った人の避難の難しさは明らかです。

高齢者を自然災害からどう守るか

自然災害が起こってしまうこと自体は、これからも避けることはできません。特に、日本は地震や台風の多い国です。災害を100%未然に防ぐことが出来ない以上、いかに避難に熟練できるかが大切な分かれ目になります。

まず高齢者に限らず、自分で自分の身を守るということが原則です。最低限、自分の居住地に近い、安全な避難場所や避難経路を、日頃から把握しておくことが必要でしょう。逆に言えば、日頃から居住地域の「危険な場所」を把握しておくことも大切なのかもしれません。

国交省の調査によれば、高齢者は他の年齢層に比べて、こういった情報を把握している割合が高いそうです。職場や学校と居住地域が離れていることが多い年代に比べて、高齢者は1日の大半を居住地域で過ごすことが多いからでしょう。

しかし、その調査でも、約3割の高齢者が、居住地域の危険な場所や、避難経路等について、把握していなかったこともわかっています。日頃からの防災訓練は、地域に関する知識や情報をためておく上でもかかせません。

では、安全な避難場所を知っていたとして、多くの高齢者や障害をもった人が、避難する際に問題になることは何でしょうか。まず一つは、身体機能の低下によって、避難に時間がかかることです。もう一つは、避難に関する情報伝達がうまくいきわたらないことです。

身体機能、あるいは認知機能が低下していて、本人が自力で避難をすることが難しい場合、誰かの助けが必要になります。公的なレスキューを待っていては間に合わない場合も多々ありますので、原則は身近にいる人間で救助をする必要があります。

家族が一緒に住んでいればベストですが、以前にも記事にしたように、高齢者の一人暮らしや、高齢者夫婦のみの世帯はどんどん増え続けています。家族が居ても、近くに住んでいないケースもたくさんあります。

こういう状況で、頼りにできるのは地域住民のサポートしかありません。高齢者の孤独死というのも何度か問題になっていますが、災害時においても、日頃から町内会に顔を出したり、防災訓練に参加したりするなど、コミュニケーションをとっていたかが明暗を分けることもあるでしょう。

また災害対策基本法では、大きな災害により、避難が必要になった場合に備えて「避難行動要支援者名簿」の作成を求めています。これは、自力で避難することが難しい高齢者や要介護者などの情報をまとめておき、有事の際に活用する取り組みです。

実際に避難が必要な場合にも有効ですが、安否確認の際にも大事な資料になります。なかには、住居に被害がなく、避難の必要がなかった場合に、そのまま住居にとどまってしまう高齢者がいます。住居は安全であるものの、ライフラインが寸断され、結果的に犠牲になってしまうことも多いのです。

また、自力で避難する力はあるものの、情報が行き渡らない場合があります。たとえば、聴覚に障害を持っている場合は、防災無線に気付かない場合があります。事前に、聴覚障害についての情報が共有できていれば、FAX等による配信などでカバーすることも出来るかもしれません。

視覚障害についても同様に、活字では伝わらない場合に、メールを読み上げる携帯電話の設定をしておくことが役に立ちます。いかに災害弱者に、きちんと避難に関する情報が伝わるかがカギになります。避難に関しては、日頃から要介護者の情報を把握しているケアマネージャーの存在も重要になります。

避難所で気を付けたいこと

無事、避難所にたどり着くことができても、それで安心はできません。高齢者や要介護者にとっては、避難所での生活が非常に厳しいものになります。ここでも情報の共有が、大きなポイントになります。

例えば、心疾患や脳血管疾患については、周囲に知らせておくことが非常に重要です。調子が良くない時に、心疾患などの持病があるかどうかが把握できていれば、対処の遅れを防ぐことができます。また、食生活についても、塩分のとりすぎが状況を悪化させることもあるので、配慮する必要があります。

さらにお薬手帳などが、災害で流されてしまった場合には、できるだけ早く医療スタッフに相談することも必要でしょう。糖尿病患者にとってのインスリンなど、絶対に欠かせない薬の摂取が必要な患者も沢山います。

避難所での脱水症状も、高齢者にとっては非常に危険です。特別な病気がない限り、1日1リットルは水分が必要です。本来であれば、食事摂取に介護が必要であるのに、その情報が伝わっていないと、食事や水分を摂取できていない場合もあります。

避難所では、全体的に食欲が低下しやすいので、見落とされることも多いそうです。また、トイレに行きたくないために水分を制限してしまう高齢者も多いので、気を付けましょう。

認知症を抱えている人への対処にも注意が必要です。そもそも避難所では大きなストレスがかかります。さらに脱水や感染症など、身体疾患が基盤になり、症状が出やすくなります。急に怒ったり、泣いたりして、不安定になりやすくなります。認知症に関する知識のある人を探し、しっかりとしたサポートを行う必要があります。

過去の悲しい災害の経験を少しでも無駄にしないために

繰り返しになりますが、日本は自然災害の多い国であり、これを100%未然に防ぐことはできません。しかし、先人たちが残してくれた防災の知恵は数多くあります。被災地にいけば、過去の災害の教訓を伝えるような石碑などをよく目にします。

私たちは、このような過去から学び取れる情報をしっかりと活用する必要があります。また、これだけ情報網が発達しているのですから、常に自分が置かれている状況を更新し、いざという時に共有できるように準備しておくことも大切です。そして何よりも、助け合える「共助」の関係を日頃から作っておくことが重要でしょう。

※参考文献
・読売新聞, 『老人施設の女性所長、「一気に増水、助け出せず」』, 2016年9月1日
・国土交通省, 『平成17年度国土交通白書』, 2005年
・内閣府, 『避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針』, 2015年8月
・日本老年医学会, 『一般救護者用 災害時高齢者医療マニュアル』, 2011年3月23日

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