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高齢者の虐待は、本当に、業務量の多さが原因なのか?(ニュースを考える)

高齢者の虐待は、本当に、業務量の多さが原因なのか?

高齢者の虐待と介護殺人は、いつ起きてもおかしくない

高齢者の虐待が問題になって久しいです。そして、介護現場における壮絶な現実を知っている人にとって、虐待は、単純に「いけないこと」と否定することが困難な問題です。

もちろん、虐待自体は「いけないこと」であり、倫理的な問題を超えて、犯罪です。この点については、強調してもしきれません。

問題は、善良な人であり、それが「いけないこと」であることも十分に理解していても、虐待は起こってしまうということです(そうでない虐待を擁護するつもりはありません)。自分でも「いけないこと」と理解しながらも虐待してしまい、自分自身も大きく傷ついている・・・。そういう人が、今この瞬間にもいるのです。

これが行き着くと、介護殺人になります。多くの介護現場に関わるケアマネの55%(サンプル数730人)は、あるアンケートに「殺人や心中が起きてもおかしくないと感じたことがある」と回答しています。

この問題が本当に難しいのは、介護現場を経験していない人には、虐待に至ってしまう心理的なプロセスが、どうしても理解できないことです。それに、まさか自分が、長年愛してきた人を傷つけるだなんて、想像もしたくないことです。しかしそれは、誰もが直面する可能性のある大きなリスクなのです。

全体からすると、介護をめぐる虐待や殺人の可能性に直面している人は少数です(数が少ないという意味ではなく、割合の問題として)。民主主義社会においては、こうした少数の問題への対策というのは、どうしても後手になってしまいます。そうして静かに、この問題は拡大し続けているのです。

日本介護クラフトユニオンによるアンケート結果

日本介護クラフトユニオンによる、介護従事者へのアンケート結果が、朝日新聞により報道(2016年8月4日)されています。このアンケート結果が示すところについて、少し違和感があるので、ここで考察しておきたいと思います。まずは、報道を以下に引用します。

高齢者に対する虐待がおきる原因は「業務負担が多いこと」――。介護従事者の半数以上がこう感じていることが4日、労働組合「日本介護クラフトユニオン」のアンケート結果から分かった。(中略)高齢者虐待の原因は「業務負担が多い」が54.3%でトップ。「仕事上のストレス」(48.9%)、「人材不足」(42.8%)が続いた。「報道される事件は氷山の一角。民間事業者には職業倫理をしっかりと浸透させるような時間も余裕もない」などの意見もあった。

介護従事者が虐待に至ってしまう原因として、業務の負担が大きいということが第一の理由というものです。業務の負担が大きくなるのは、介護業界の慢性的な人材不足からきていると考えられます。そして、そうした人材不足は、介護業界の待遇の悪さが原因であるという考察は多くあります。

この報道は、これはこれで重要なものです。ただ、いくつか周辺の事実を把握しておかないと、誤解を生んでしまうのではないかと感じます。その誤解の一番のものは、介護をめぐる虐待は、介護従事者が行っているというものです。

介護をめぐる虐待は、家族によるもののほうが、介護従事者の100倍多い

高齢者の虐待に関する統計(平成24年度)では、介護施設などの介護従事者によるものは155件なのに対して、家族による虐待は1万5202件でした。

家族による虐待は、表に出にくいはずです。それでも、家族による虐待は、介護従事者の虐待よりも、100倍近い件数が確認されているのです。

夜中になんども起こされ、昼間は昼間で文句ばかり言われ、感謝されることもなく、ただひたすらに介護を行うという日々・・・。それが、数ヶ月ではなく、数年、場合によっては10年を超えて起こるとしたら、どうでしょう。本当に、ただ愛しているというだけで、ニコニコとしていられるでしょうか。

こうした例は、介護をしていない人には、非現実的なものに感じられるかもしれません。しかし、実際の介護は、多かれ少なかれ、こうした例に近いことが起こります。虐待とまではいかなくても、怒鳴ってしまったり、激しい喧嘩をすることは、ほとんどすべての介護家族が経験することだと思われます。

あまり触れたくありませんが「いっそ死んでもらえたら」と感じてしまうことは、家族会ではよく耳にすることであり、どの介護家族にもあることです。愛しているからこそ、要介護者のことに真剣で、真剣だからこそ、介護の負荷がどこまでも増大し、結果として生まれてしまう感情なのかもしれません。

虐待を減らすために、何が求められているのか?

介護をめぐる虐待に関しては、介護従事者によるものへの対策も必要ですが、それ以上に、家族による虐待への対策が急務です。急務であることは多くの人がわかっていても、実際の対策は、ほとんど打たれていません。

その一番大きな理由として考えられるのは、現行の介護保険制度は、要介護者の支援のみをターゲットとしていることです。現在の日本には、介護をする家族の支援については、なんの制度も法律も整っていないのです。

どうしても、介護をする家族を支援する法律(=介護者支援法)の整備が必要です。大手マスコミも、この点に注目している政治家について報道し、また、それを軽視する政治家を糾弾することに動いてもらいたいです。さもないと、誰かを愛するということ自体が否定されてしまう世の中が生まれてしまいます。

誤解を恐れずに言い切ってしまえば、高齢者の虐待が起こっているのは、家族を支援するための介護者支援法がないからです。もちろん、それだけで問題のすべては解決しませんが、少なくとも、問題の一番大きなところへの切り込みにはなります。

※参考文献
・朝日新聞, 『高齢者虐待「業務多いため」 介護従事者の半数超が回答』, 2016年8月4日

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