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ピア・カウンセリング(peer counseling)は介護現場でこそ威力を発揮する!

ピア・カウンセリング(peer counseling)

ピア・カウンセリング(peer counseling)とは?

ピア・カウンセリング(peer counseling)は、1970年代初頭に、介護者に依存しがちな要介護者の自立をめざして起こった自立生活運動(IL運動)の中から生まれてきた手法とされています。現代では、要介護者の自立という文脈を超えて、思春期の子供の性教育や、就職活動中の学生支援の現場などでも使われている手法です。

この手法の根本理念は、なんらかの問題に悩んでいる当事者同士が、お互いを支え合い、影響しあうことで、学習と成長を促進するというものです。背景には、教師と生徒といったタテの関係ではなく、平等なヨコの関係への社会参加という意味合いもあります。ピア・カウンセリングのピアとは「仲間」「対等な立場の人」という意味です。

従来のカウンセリングは、専門家であるカウンセラーと、そのカウンセリングを受ける人という非対称な関係性のもとに実施されてきました。これに対してピア・カウンセリングは、お互いが、同じ悩みを抱えているという点で、従来のカウンセリングとは大きく異なるのです。

ピア・カウンセリングは、要介護者が集まって行うこともありますし、介護者(家族)が集まって行うこともあります。どちらも、大きな効果が報告されています。また、ここまでの話だけでも、家族会には、このピア・カウンセリングの側面が強く入っていることに気がつくでしょう。

注意したいのは、ピア・カウンセリングだけですべての悩みが解決したりはしないということです。従来のカウンセリングや、教師による教育とったことにも、変わらずに大きな意味があります。ただ、ピア・カウンセリングには、これらの手法とは異なる側面があるということです。

ピア・カウンセリングにしか提供できない価値とは?

悩みにアプローチするときに、ピア・カウンセリングが他の手法と異なる部分として重要なのは、自分と同じ悩みを持つ人と対話するという部分にあることは明白でしょう。これは「悩んでいる自分自身が、自分と同じ悩みを抱える他者に対して、自分の考えを述べる」という行動です。つまりは、自問自答なわけです。

この効果について考えるヒントとなるのは「教えることは、2度学ぶこと」という言葉です。フランスの思想家であるジョセフ・ジュベール(1754〜1824年)が述べた言葉なのですが、非常に示唆に富んでいるものです。私たち人間は、自分自身の発した言葉によっても、大事な気づきを得られる存在なのです。

後輩や部下から質問を受けて、それに回答するとき、むしろ自分のほうが勉強になったという経験は誰にでもあるでしょう。生徒と講師という関係においては、講師であることのほうが、そこに責任感も作用することで、よく勉強し、考えるようにもなるというわけです。

「ああ、自分はこの悩みについて、こんな風に考えているんだ・・・」

という気づきが得られることこそ、他の手法では得られにくい、ピア・カウンセリング独特のユニークな効果です。もちろん、自分の悩みを誰かに聞いてもらうというだけでも、大きな意味があります。また、他者は自分と同じ悩みに対して、どのように対処しているのかといった知識面でも意味があることも明らかです。

とはいえ、悩みを聞いてもらうだけなら、訓練を受けているプロのカウンセラーのほうが上手いはすです。悩みへの対処も、介護の専門家に聞いたほうが、正確で新しい知識を得ることができるでしょう。その意味で、これらの効果は、ピア・カウンセリング独特のものとは言えません。

そして、そもそもピア・カウンセリングが支援への依存というところから自立を目指すという自立生活運動(IL運動)から生まれているというところも思い出してください。プロのカウンセラーや介護の専門家に依存することと、ピア・カウンセリングは、この点において決定的に異なります。

ピア・カウンセリングを成功させるカギとなるアクティブ・リスニング

まず、ピア・カウンセリングにおいては、相手の批判をしたり、アドバイスを行ったりすることは、基本的には禁止です。その上で、相手の感情を聞き取り、それに共感することで、自分と同じ悩みを抱えている他者が「仲間」のように感じられて勇気付けられる、というところが大事です。

ここで、多くの人が難しいと感じるのが、他者の感情を聞き取るという部分です。専門的にはアクティブ・リスニング(active listening)、日本語では積極的傾聴と呼ばれるスキルが求められるのです。

しかし、ピア・カウンセリングに参加するのは、カウンセリングについては素人です。ですから、このアクティブ・リスニングのスキルについては、ピア・カウンセリングを行う上で、どうしても事前に知っておかないとならない部分です。このため、ピア・カウンセリングを行うときは、アクティブ・リスニングについて学ぶ時間が必要になります。

アクティブ・リスニングのポイント

アクティブ・リスニングとは、もともとはアメリカの臨床心理学者カール・ロジャースが提唱したものです。その内容は、相手が「もっと話をしたい」と感じるような聞き方についてのスキル体系になっています。

スキル体系というと、なんだか難しそうに感じられるかもしれませんが、要するに「真剣に相手の話を聞いているという姿勢を、積極的(アクティブ)に相手に伝える」ということです。これは(1)真剣に聞く(2)真剣に聞いている姿勢を相手に伝える、という2つの部分からできていることがわかるでしょう。

(1)真剣に聞くという部分は、ピア・カウンセリングにおいては、そもそも相手が自分と同じ悩みを持っていることから、環境が自然と生み出すことになります。ですから、この部分については、ピア・カウンセリングでは、あまり心配する必要はありません。人間は、自分に深く関係することについては、真剣に聞くことができるからです。

しかし(2)真剣に聞いている姿勢を相手に伝える、という部分については、表現の問題であり、苦手な人は、とても苦手です。この表現に強くなるには、大きく2つのポイントを意識する必要があります。これらのポイントを理解したら、あとは実際にやってみることで、スキルを上達させていくだけです。

1. ノンバーバル・コミュニケーション(非言語的コミュニケーション)

自分が相手の話を真剣に聞いているということを、言葉ではなく、身体全体で伝える手法です。アクティブ・リスニングにおいては(1)やや大げさなくらいに相槌を打ち(2)身を乗り出し(3)表情と声のトーンを相手に合わせ(4)威圧にならない程度に相手の目を見つつ(5)集中を示すために腕組みや貧乏ゆすりなどは行わない、といったポイントに注意する必要があります。難しければ、とにかく相槌だけでもしっかりと行い、わざとらしくならない程度に身を乗り出すことだけでも心がけてください。

2. バーバル・コミュニケーション(言語的コミュニケーション)

言葉によって、自分が相手の話を真剣に聞いているということを伝える手法です。アクティブ・リスニングにおいては(1)ときに「なるほど」「うんうん」「そうですね」といった納得や共感を示す言葉を発し(2)ときに相手の話を自分の言葉で置き換えて繰り返し(3)質問をするときはYES・NOで答えるしかないような質問をできるだけしない、といったポイントに注意する必要があります。難しければ、とにかく、納得や共感を、きちんと言葉で伝えることだけでも心がけてください。

気がつくと思いますが、アクティブ・リスニングのスキルは、他者との信頼関係を築くためのコミュニケーション技術です。このスキルを身につけるということは、ピア・カウンセリングの範囲を超えて、その人の人生そのものにポジティブな変化をもたらすものでもあります。

※参考文献
・服部 佳代子, 『思春期のリプロダクティブヘルスを支えるピアカウンセラーの養成』, 活水論文集, 看護学部編 3, 37-45, 2015-03-31
・原田 和幸, 『障害者自立支援システムに求められる機能と構造 : 主体性・関係性の視点による「共に生きる」システムの構築』, 人間福祉研究 3, 79-112, 2000-12-30
・中村 幸, 『精神障害をもつ人のピアカウンセリング研究(1)』, 筑紫女学園大学紀要 13, 343-360, 2001

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