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介護業界にICT(情報処理・通信技術)が浸透しにくい5つの理由

介護業界にICT(情報処理・通信技術)が浸透しにくい5つの理由

ICTの発達は目覚ましいが・・・

ICT(情報処理・通信技術)の発達は目覚ましく、一般の企業で働いていると、ICTなしでは仕事ができないレベルになっているでしょう。日常生活でも、駅の切符切りは、自動改札になりました。銀行の窓口もATMになりました。各種予約や買い物も、インターネットで片付けるようになってきています。

ところが、医師や看護師まで含めた、介護業界に限ってみると、ICTの導入は遅々として進んでいないという印象があります。ここ最近、手書きで入力した情報を思い出してみてください。ほとんどが、医療や介護に関係すること限定されつつあるのではないでしょうか。

これに対して、公的な機関の多くでは、年々、手書きでの入力の必要性が減ってきているでしょう。手書きで入力されたものは、後でコンピューターに打ち込んでデータ化する必要があります。しかしはじめから手書きを廃止してしまえば、後でデータ入力の手間がかからず、コストの削減にもつながるのです。

介護業界にICTが浸透しにくい5つの理由

介護業界においてICTの導入が進まない原因としては、5つのことが指摘(土川, 2016年)されています。手書きの面倒に悩まされている介護に関係する人のため、新規に介護事業をはじめようとしている企業のため、介護業界でICTの導入を考えている人のため、今回は、この5つのポイントについて少し考えてみます。

1. 職種の間に共通言語がない

介護は、医師、看護師、介護職など、さまざまな職種が関わります。実は、それぞれの職種は、異なる標準言語を使用しています。医師は「ICD-10」や「DSM-5」といった医学的診断基準による言語を、看護師は「NANDA-International」の看護診断基準による言語を、そして介護職は「ICF」や「MDS-HC」に基づく言語を使用しています。同じ状態を表現するのに、使用する言語が異なるので、データベースの共有が非常に難しくなります。これにより、ICTの導入が難しくなるのです。

2. 事業規模が小さい

介護事業者の多くは、事業規模が小さいため、ICTを導入しても、得られる効率よりもむしろ、導入と維持にかかる費用のほうが大きいという状況になります。介護ロボットの導入も期待されていますが、それを管理するための人材を採用する余裕もないというのが現状です。また、頑張って高い費用を払ってICTを導入しても、こうした小さな介護事業者は、介護保険法の改正によって事業収入が減ると、簡単に倒産してしまいます。

3. ICTの利用スキルが低い

これまでICTの利用が少ない業界であったということが、その業界のICTの利用スキルの向上を妨げてしまいます。一般の企業であれば、ICTを利用しないと競合に勝てないという状況になっており、日々、あたらしいソフトウェアが導入されています。それにより、一般の企業に勤務していると、嫌でも、ICTの利用スキルが高まっていくということにもなります。個々の人材の責任ではなく、介護業界自体が、ICTの利用スキルを高めるには不向きな状態になってしまっているのです。

4. 現場業務が煩雑である

ICTを導入しやすいのは、いわゆるデスクワークです。しかし介護業界の仕事は、デスクワークよりもむしろ、現場で手足を動かすというものが多いのです。これにより、いちいちICTの使い方を学ぶよりもむしろ、手足の動かし方を学んだほうが合理的という職場になりがちです。例外も多いですが、介護業界の仕事は、文字通り走り回っているような仕事なので、ICTの導入には不向きという面も否めません。

5. 人間のふれあいを大事にしてきた業界

介護業界は、伝統的に、人間のふれあいを大事にしてきた業界です。人間そのものを相手にする仕事ですから、メールよりも電話、電話よりも直接会うことを大切にして当然でしょう。実際に、現場の教育では、人間をデータで見るのではなく、その人間の雰囲気まで含めて、非言語的(暗黙知的)な情報に価値を置くような教育がなされています。それが結果として、ICTに対するアレルギーのようなものも生み出してしまっています。

介護業界の雇用の安定性のためにも

皮肉な話ですが、ICTの導入が進んでいないところは、それだけ、ICTの導入に成功すれば大きな利益(大幅な効率化)が出るような構造になっていきます。こうしたところは、いずれ、大型の投資によって、一気に雇用が奪われる危険性があるのです。

たとえば、これまではICTとは無縁だった国内約135万人の運転職(タクシー、トラック、バスなど)も、自動運転が登場すれば、雇用の危険にさらされます。これと同じように、介護業界にICTが導入されると、今は足りないと言われている介護職が、逆に余るという状況にもなりかねません。

介護業界は、きちんとICTの導入による効率化を進めることによって、これ以上の効率化は難しいというところまで自発的に向かわないと危険ということです。さもないと、巨大なICT企業(それこそGoogleやAmazonなど)が介護業界に参入してきて、既存の介護事業者は仕事を失ってしまいます。

※参考文献
・土川 洋子, 『介護サービスをとりまくICTの現状と教育のあり方』, 白梅学園大学・短期大学情報教育研究 19, 1-8, 2016-03-31

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