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特別養護老人ホーム(特養)の待機者が激減?その背景にある本末転倒について(ニュースを考える)

特別養護老人ホーム(特養)の待機者が激減

毎日新聞のスクープ

毎日新聞の調査で、これまで公式に52万人の待機者(入所待ち)がいた特別養護老人ホーム(特養)の、その待機者が激減していることがわかりました。しかし、入所待ちをしていた人が、入所できたからというわけではありません。

特養は一般に(例外はありますが)、他の老人ホームよりも優れた環境で、かつ、安価であるという特徴があります。こうした夢のようなサービスが提供できていたのは、特養は国と自治体が整備を補助する公的施設であり、そこに多くの税金が投入されてきたからです。

当然、重い介護負担に苦しむ家族であれば、誰もが、要介護者に入所してもらいたいと考える施設です。そこで、全国の特養はどこも満室(正確には職員が足りず空室ということもある)となり、多くの人が待機者として登録してきました。介護をする家族の中には、要介護者が特養に入所できる日が来ることを希望にして、日々の苦しい介護に耐えてきた人もたくさんいたのです。

ところが、毎日新聞の調査報道(2016年6月30日)が、この状況の大きな変化について明らかにしたのです。以下、同報道より、その内容の一部を引用します。

数年間の入所待ちが当たり前だった特別養護老人ホームの待機者が大幅に減り始めた。軽度の要介護者を門前払いにし、民間の施設や自宅での介護に回す国の政策が形になり始めた格好だ。一方で要介護度が低くても世話の大変な認知症の人が特養を利用できず、公費を投じた特養の一部に空きが出る矛盾も出ている。(中略)

待機者が減るとスムーズに入所が進まず、施設に空きが出る。東京都高齢者福祉施設協議会の調査では、回答の4割にあたる95の特養が「稼働率が下がった」と述べた。昨年4〜10月の平均稼働率は94.9%で、都内で2200人分のベッドが空いていた計算になる。

埼玉県では空きのある特養が3カ所ある。どれも新設で、人手不足もあり満床にするのに1年以上かかるという。ある施設長は「要介護度の低い人や低所得者のニーズに応えられていない」と指摘する。

北関東に住む60代の夫婦はともに認知症だ。夫は要介護2で老人保健施設に入ったが、いつまでいられるかわからない。支援する社会福祉士は「本当は特養に入れたいが漂流するしかない」と悲観的だ。

厚生労働省が実態調査に乗り出すことに

この報道を受けてか、厚生労働省が、特養の待機者激減についての実態調査をすることに決めています。恐ろしいのは、待機者が減った原因である「入所条件の厳格化」には手をつけず、待機者が減ったことを喜びつつ、これから新設される予定だった特養が作られなくなることです。

介護保険制度の理念は、介護の責任を家族からはがし、それを社会全体で見ていくということだったはずです。しかし、特養が作られなくなるということは、そうした理念に対する逆行となる可能性が高いのです。

日本の社会福祉のための財源を考えると、こうした方向に向かって、介護保険制度の改悪が進んでしまうのは、仕方のない部分でもあります。反対、反対で、状況が良くなるのであれば、いくらでも反対しますが『2025年問題の核心(介護と医療の崩壊)』でも述べたとおり、状況は完全に行き詰まっています。

今回の、特養の待機者が激減し、おそらくは、特養の設置そのものが減っていくという本末転倒も「終わりのはじまり」にすぎないのかもしれません。問題は、それが社会的に直視されておらず、あらたな理念の創設と、具体的なソフトランディングの方法についての議論がはじまっていないことです。

※参考文献
・毎日新聞, 『待機者が急減 「軽度」除外策、介護難民増加か』, 2016年6月30日
・毎日新聞, 『特養待機者急減 要介護者、奪い合い 施設空き出始め』, 2016年6月30日
・毎日新聞, 『待機の実態調査へ 待機者急減 整備抑制の可能性も』, 2016年7月2日

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