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看護職の大量採用・大量退職の悪循環をなくすため、コンビニ受診を減らせるか。

看護職の大量採用・大量退職の悪循環をなくすため、コンビニ受診を減らせるか。

日本の医療体制は他国に比べて手厚いか?

少し古いデータになりますが、2011年の厚生労働白書によると、日本の病院の平均在院日数は33.2日です。他国と比べると、フランスが12.9日、ドイツが9.9日、イギリスが8.1日で、それぞれ日本の3分の1前後になっています。

アメリカにいたっては、なんと6.3日です。こうして比べてみると、いかに日本では入院日数が長いかがわかります。ここから、色々なことがわかってきます。もう少し詳しく見て行きましょう。

ここで取り上げた5カ国の、人口千人あたりの医師数を比べると、もっとも少ないのが日本の2.2人で、もっとも多いのがドイツの3.6人です。アメリカは2.4人ですから、そこまで大きな差がないような気もします。

しかし、病床の数で比べると大きな差が見えてきます。人口千人あたりの病床数は、日本が13.8、ドイツが8.2、フランスが6.9、イギリスが3.4、アメリカが3.1(予測値)です。アメリカに比べれば、日本の病院は圧倒的に人口あたりの病床数が多いのです。

さらに、病床百床あたりの医師の数で比べると、日本が15.7、ドイツが43.3、フランスが48.5、イギリスが76.5、アメリカが77.9です。この数字から見ても明らかなように、日本では一人の医師が受け持つ病床数(患者数)が、他国に比べるとかなり多いことがわかります。

疲弊する日本の看護職員の実態

これは看護職員数にも同じことが言えます。人口千人あたりの看護職員数にはあまり差がありません。しかし、病床百床あたりの看護職員数で比べると、非常に大きな差があります。日本では、百床あたりの看護職員数が69.4人ですが、ドイツは130.0人、フランスは115.2人、イギリスは279.6人、アメリカは344.2人となっています。

つまり、日本では看護職員1人で1床看るだけでは足りませんが、アメリカでは3人の看護職員で1床を看ればよいことになります。もちろんこれはすべての看護職員が24時間同時に稼働した場合の計算なので、実際は1人でもっと多くの病床を看ることになります。

日本看護協会によると、急性期医療の現場では、看護師1人が看る患者数が、昼間で3.5人、夜間では14.0人になるそうです(2011年)。また慢性期医療では、看護師1人で看る患者数が昼間で7.0人、夜間にいたっては27.5人にのぼります。

慢性期医療(病状は安定しているものの、治癒が困難な状態が続いている時期)に押し寄せる患者は、医療依存度が非常に高いそうです。にもかかわらず、急性期医療(病気のなりはじめのように、症状が急激に現れる時期)に比べると、医療体制がかなり手薄になっています。

看護師2人体制で夜勤を回していたとしても、例えば1人が看取り看護などに入ってしまうと、もう1人の看護師が単独で50人近くの患者を看なければならないという事態にもなります。また勤務時間が16時間を超えることもあり、夜勤の看護師は過労を極めます。

大量採用・大量退職を繰り返す看護職員

こちらも少し古いデータにはなりますが、2008年末の病院看護職数は87.0万人でした。その翌年、2009年には新卒で就業した看護職が4.7万人でした。しかしながら、2009年末の看護職数は89.2万人です。2009年度の1年間で2.2万人しか増えていません。

この数字だけを見れば、2009年には4.7万人採用して、2.5万人退職しただけのように見えますが、事態はそう単純ではないようです。詳しくこの数字をみると、実際は、新卒で4.7万人就業しても、10.5万人が離職し、8.0万人が再就業しているのです。

新卒で入る人数よりも、はるかに多くの看護職が離職しています。そして、それを埋める形で、55~65万人いると言われている潜在看護職から、新卒で入るよりも多くの看護職が再就業していることになります。

つまり看護職は大量採用、大量退職の悪循環に陥っているということです。大量に退職してしまう原因が、日頃の激務にあることは間違いないでしょう。その激務を生んでいるのは、看護職員の数に見合わない病床数の多さであると言えます。

人の入れ替わりが激しいことは、もちろん悪いことばかりではありません。新たな人材が入ることで起こる活性化もあります。また、潜在看護職が復帰する枠があること自体も悪い事ではないでしょう。

しかし、看護職の職場環境が慢性的な人手不足に陥っている中で、これだけ離職が起こり、人が入れ替わってしてしまうのは問題です。引継ぎや、新たな教育が必要になることは、ただでさえ忙しい職場環境の中で、大きな負担になります。さきほど紹介したような就業環境の悪さを抜本的に改善しないことには、この悪循環は収まらないでしょう。

目指すのは看護職員の質の向上なのか?

少子高齢化が急速に進展し、医療提供の在り方が大きく変化している状況の中、患者の多様なニーズに応え、医療現場の安全・安心を支える看護職員の役割は、ますます重要になると見込まれています。

厚生労働省では、看護職員の資質のより一層の向上を図るため、地域医療介護総合確保基金を通じて、財政支援等を行っているそうです。病院等が行う新人看護職員研修や都道府県が行う中堅看護職員実務研修、また専門分野における質の高い看護師を育成するための研修等が対象になっています。

こうした資質の向上はもちろん必要です。しかし、我々が考えなければならないのは、現在病院が受け入れている患者数は適切なのか、ということなのかもしれません。

国が進めている在宅介護や在宅医療については、家族の負担の増加など、多くの問題が指摘されています。しかし、だからと言って、病院がその分を何でもとりあえず受け入れる、という体制は限界を迎えています。この体制が長続きしないことを考えれば、少なくとも、いわゆるコンビニ受診と言われるような受診を減らしていく方法を考えなければなりません。

救急外来に来た患者が、なかなか受け入れてもらえず、病院をたらい回しにされてしまったというニュースを耳にすることも少なくありません。高齢者がどんどん増えていく中、本当に必要な患者に、必要な医療が施されるように、患者の受け入れのありかたを考えていく必要があるでしょう。

※参考文献
・日本看護協会, 『日本の医療を救え ~看護職の健康と安全を守ることが患者の健康と安全を守る~』, 2011年6月3日
・厚生労働省, 『平成27年度版厚生労働白書,第7章国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現』, 2015年

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