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リンゲルマン効果(社会的手抜き)とは?人数が多ければよいというものではない。

リンゲルマン効果(社会的手抜き)

リンゲルマン効果(リンゲルマン現象)とは?

リンゲルマン効果が知られるきっかけとなったのは、フランス人のリンゲルマン(Ringelmann, M)自身による報告ではなく、ドイツ人のメーデ(Moede, W)の論文(1927年)に「興味深い研究」として掲載されたことがきっかけでした。

リンゲルマンは、1人、2人、3人、そして8人という4つの集団(被験者)をつくり、それぞれに綱引きをさせて、そのときの引っ張る力を測定したのです。結果としては、1人の場合で63kg、2人の場合で118kg、3人の場合で160kg、そして8人の場合で248kgとなりました。

当然のことながら、集団を構成する人数が増えれば、綱引きの力は上がりました。全員が綱を必死に引けば、2人の場合では、1人で綱を引いたときの2倍、3人で3倍、8人では8倍となるはずです。

しかし、この結果を分析してみると、1人で引いたときの力を100%(63kg)としたとき、2人ではそれぞれが93%(118÷2=59kg)、3人では85%(160÷3=53kg)、そして8人ではなんと49%(248÷8=31kg)ということがわかったのです。

集団のサイズが大きくなるにつれて、集団の構成員1人あたりの能力発揮が、劇的に低下するという観察が見られたということです。これは、非常にショッキングな事実であっただけでなく、なんとなく誰もが知っていたことでもあったため「リンゲルマン効果(リンゲルマン現象)」として、世界的に有名になったというわけです。

現在でも、この「リンゲルマン効果」たとえば大企業病を説明したりするときに、よく引用されています。実際に、ビジネスにおけるキャリアを考える上でも、また、経営者として従業員の能力発揮について考えるときでも、注意しなければならないことでしょう。

リンゲルマン効果の追試験では?

世間一般には、面白がられ、集団における注意を喚起するというレベルでもよいのかもしれません。しかし、元のメーデによる論文には、ごく簡単に「リンゲルマン効果」が示されていただけですし、そもそも、1927年の報告です。正確な調査だったのかどうかも不明ですし、時代の影響もあったかもしれません。

そこで、1974年になって、インガム(Ingham)らが「リンゲルマン効果」が本当なのかどうか、追試験を行っています。こちらは、ロープの重さや、滑りにくい床など、環境要因が作用する部分を極力減らした、より信頼のおける実験でした。

こちらでも、たしかに集団が大きくなるにつれて、集団の構成員1人あたりの能力発揮は低下していくことが証明されました。とはいえ、こちらの実験では、4人目以降の能力発揮の低下は一定となり、それ以上はあまり落ちないという結果になっています。

この追試験で特に面白い点は、集団の中に「力を込めて引っ張る振りをするサクラ」を混ぜたことです。これにより、綱を引っ張るタイミングといった技術的な効果(協調の失敗)を排除することができます。

集団が大きくなると、一人ひとりの能力発揮が減少してしまうのは、それぞれの能力を技術的に調整することではなくて、モチベーションが原因だったのです。このインガムの追試験以降「リンゲルマン効果」は、研究者たちの間で「集団活動とモチベーションの関係」という方向に発展していくことになります。

リンゲルマン効果=社会的手抜き

ラタネ(Latane)は、人間に備わっているこのような傾向に対して「社会的手抜き」と名付けた研究者です。ラタネは、綱引きではなくて、拍手をするという課題について、音圧測定器を用いた実験などを行っています。この結果も「リンゲルマン効果」の存在を裏付けるものとなっています。

このような「社会的手抜き」が起こってしまう背景として、もっとも有力な仮説は「hide-in-the-crowd(集団の影に隠れる)」と呼ばれるものです。これは、人間は、特定の仕事を行うとき、周囲に自分の貢献度が見えない場合(隠れている場合)、どうしても怠惰になるという仮説です。

様々な組織において、人事評価(個人評価)が導入されている背景には、この「hide-in-the-crowd」という仮説があるわけです。個人の能力発揮を観察し、できるだけ客観的に示すことで、個人が怠惰になってしまうことを避けようとしているのです。

そもそも、集団で仕事をするのは、集団でないと出せない大きな力を得るためです。実際に「リンゲルマン効果」があったとしても、人数が多いほうが、全体の力は大きくなることは明らかです。しかし、その効率については、個人の能力発揮を周囲に対して「見える化」することと、大いに関係しているということは、理解しておくべきでしょう。

介護という文脈におけるリンゲルマン効果

当然ですが、介護の現場においても「リンゲルマン効果」を観察することは可能です。むしろ、多くの人が潜在的に関わりたくないと考えていることだからこそ、介護の現場における「リンゲルマン効果」は、当たり前のように多数見られる現象です。

いちばん多いのは、兄弟姉妹の多い家族において、誰が親の介護をするのかというケースでしょう。このケースでは、だいたいにおいて、特定の1人が多くの介護負担を引き受けてしまいます。他の兄弟姉妹は「自分も介護に貢献している」と主張するでしょうが、そこに「リンゲルマン効果」があることは明らかです。

多少面倒でも、介護に対する貢献度というのも、なんらかの方法で上手に「見える化」しないと、先頭で綱を引いている人以外の人は「hide-in-the-crowd」の状態になりやすいのです。ここで、具体的にいちばん効果があるのは、介護のために使っているお金と時間を明確にすることだと思われます。

介護をする家族にとっては、介護のためのお金を出すか、介護のための時間を出すかのどちらかしか、本質的な意味はありません。もっとも嫌われるのは、口だけ出すという人です。また『介護の負担は人任せなのに、余計なことばかりする家族は実在する。』でも指摘したとおり、良かれと思っての行動でも、かえって迷惑になることもあります。

きちんと兄弟姉妹が力を合わせればやれないこともない介護であっても、現実には、協力しあう兄弟姉妹というのは多くはありません。その理論的な背景としての「リンゲルマン効果」を認識し、それを避ける方法を考えることは、介護にとっても重要なことなのです。

余談:リンゲルマンとは何者だったのか?

リンゲルマン自身はフランスの農業工学者(フランス国立農耕学研究所・教授)でした。実は、リンゲルマンが、ここで紹介した「リンゲルマン効果」に関する実験を行ったのは、1882〜1887年の期間であったことがわかっています。

リンゲルマンは、農業に関わる牛・馬・人間・機械といったリソースのパフォーマンスに関心を持っていた学者でした。1907年には「動物のパフォーマンス」に関する論文、1913年には「農業機械のパフォーマンス」と「人間のパフォーマンス」に関する論文を発表しています。

「リンゲルマン効果」として有名になる実験は、この1913年に発表されている「人間のパフォーマンス」に関する論文です。メーデは、この論文の価値を「再発見」したというのが真相のようです。論文が埋もれてしまっていたことが、リンゲルマンの不幸でした。

実は、リンゲルマンこそが、最初の実験社会心理学者であった可能性が高いのです。現代の組織経営にもつながる重要な視点を提供したリンゲルマンでしたが、その名が、経営学の世界で高く評価されていないという事実は、これから修正されていくべきものでしょう。

今から140年近い昔のフランスで実験を行っていたリンゲルマンの情熱が、こうして今、日本の介護を考える上でも重要な示唆を与えてくれることを思うと、不思議な気持ちになります。

※参考文献
・小窪 輝吉, 『リンゲルマン現象と社会的手抜き』, 鹿児島経済大学社会学部論集 7(3), 41-56, 1988-10-15
・小窪 輝吉, 『リンゲルマンの研究について』, 鹿児島経済大学社会学部論集 8(2), 43-56, 1989-07-15

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