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ウェアラブル端末で糖尿病にイエローカード?ICTの力で行動変容を目指す

糖尿病にイエローカード

世界中で20人に1人は糖尿病に苦しんでいる

WHOが発表した、今年の「世界保健デー」のテーマは糖尿病です。現在、世界の糖尿病患者は3億5,000万人にのぼります。恐ろしいことに、今後20年間で、その数は倍増するとも言われているのです。

現在の世界の人口はだいたい70億人なので、おおよそ人類の20人に1人は糖尿病を患っていることになります。そのうち、年間で150万人が、糖尿病を直接の原因として死亡しています。

糖尿病の特徴は、その初期には、自覚症状がないことにあります。そして、それに気づいた時には大きな問題になっているのです。そうしたことを考えれば、まだ自分が糖尿病であることに気づいていないだけの患者も少なくないと予想されます。

日本人の6人に1人は糖尿病の可能性がある

厚生労働省によれば、日本人の糖尿病患者は316万人います。さらに、糖尿病が強く疑われる人は950万人、また糖尿病の可能性が否定できない人が1,100万人と推計されています。

つまり、日本には2,050万人もの糖尿病有病者がいるということです。実に、日本人の6人に1人が糖尿病有病者ということになります。40歳以上に限れば、男性では3人に1人、女性では4人に1人が患者か予備軍と考えられています。

ちなみに、アメリカに住む日系の移民は、日本に住む日本人と比較して、糖尿病の割合が2〜3倍になるとも言われています。これは、アメリカにおける食生活の違いが原因であると思われます。食の欧米化が進んでいる日本では、今後、糖尿病のリスクはさらに高まると予想されるのです。

国民病ともいえる糖尿病はどんな病気か?

糖尿病は、ブドウ糖を燃やすために必要なインスリンが、全身で働きにくくなったり、ブドウ糖の量に対してインスリンの量が足りなくなったりする病気です。結果として、血液に含まれるブドウ糖の量が異常に多くなります(=血糖値が高くなります)。血糖値が高くなると、尿に糖が含まれるようになるため、糖尿病という病名になっています。

まず注意しなければならないのは、糖尿病の全てが、生活習慣によるものではないということです。一般的に生活習慣によるとされる糖尿病は2型と呼ばれ、中高年に多い症状です。

これに対して1型は、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が、何らかの原因で破壊されてしまう、若年者に多い症状です。1型の場合は、生活習慣は関係ありません。とはいえ、こちらも、対応していくのが大変な病気であることに変わりはありません。

糖尿病のコントロール状況を知るうえで、大切な指標になるのが、HbA1c値(ヘモグロビンエーワンシー)と血糖値です。HbA1c値は、おおむね過去1〜2カ月の血糖値の平均を表します。一方、血糖値は血液検査をしたタイミングの糖代謝を反映した数値です。

当然、糖尿病患者は少しでもこの数値を下げたいと考えます。したがって、血糖値測定の前に食べ控えて、血糖値を低くすることがあります。しかしながら、HbA1c値は、過去の平均なので、こうした対応が有効ではありません。

糖尿病の恐ろしいところは、そもそも初期の症状があまりないことです。痛くもかゆくもないとはこのことでしょう。日頃からきちんとした検査を受けていないと、見過ごされてしまう場合もあります。糖尿病を患った多くの方は「もう少し早く気にしていれば」と後悔することが多いのです。

糖尿病の主な症状は気づかないうちに進行する

糖尿病の症状で大きなものは3つあります。

1つは糖尿病による網膜症です。目の奥の、カメラでいうフィルムにあたるところが網膜です。血糖のコントロールが悪いと、網膜に血液を供給する細い血管が脆くなったり、詰まったりします。これを放置しておくと、網膜に十分な血液が届かなくなり(酸素が足りなくなり)、失明してしまうこともあります。

2つめは足の壊疽です。簡単にいうと、足の指先やひざ下などが腐ってしまうということです。これも網膜症と同じで、足先の方に血液を送る動脈が詰まってしまうことが原因です。皮膚が赤紫から黒く変化したり、細菌感染が広がって、足が大きく腫れたりします。壊疽にいたる前に、足がつったり、しびれたり、冷え性になったり、さまざまな症状がありますが、これも放置すると、最悪は足指やひざ下の切断にもなりかねません。

3つめは糖尿病による腎臓の障害です。腎臓は人間のからだをきれいに保つためのろ過装置のような役割を果たします。糖尿病腎症になると、その働きが失われてしまいます。このろ過機能を人工的に行うのが人工透析です。

人工透析は、1日に何時間もベッドに固定され、治療が行われます。だいたい、週に3日はこれが必要になります。本当に大変な負担です。日本で人工透析を新たに始める人は、毎年3万人いると言われていますが、その内の45%(13,500人)を、糖尿病の患者が占めています。

これらの3つの症状に共通していることは、それが突然始まったわけではないということです。気づかないようなレベルから少しずつ始まり、ちょっとした初期症状があるものの、それを見過ごし(ないものとし)、いよいよ本格的な症状が出たときには、取り返しがつかなくなっているということです。

糖尿病を患い、闘病生活を続けてこられた方々の手記を見ると、ほとんどの方が「あの時こうしていれば」といった後悔の念をつづっています。もしかしたら、と思った時に検診を受けるか、生活習慣や行動様式を変えられるかが分かれ道になってしまいます。

ウェアラブル端末で行動変容を起こす

1年間で糖尿病治療にかかる医療費は、日本全体で1兆2,076億円(2014年)です。国民の年間医療費全体が約40兆円なので、糖尿病が占める割合は決して小さくありません。これだけの損失を引き起こし、一度患ってしまうと完治しない恐ろしい病を減らすために、経済産業省がモデル事業を始めました。

経済産業省の発表によれば、今夏から半年間、トヨタ自動車をはじめとする数社が協力し、大規模な実証実験を行います。これは、経済産業省が公募した「健康・医療情報を活用した行動変容モデル事業」の一環です。

この実験では、糖尿病になりかけているけれど、まだ腎機能障害がない「糖尿病予備軍」と、全く症状のない対照群も含めて、1,000人以上にウェアラブル端末を装着してもらいます。

被験者は、心拍数や歩数などを自動で計測されながら、血圧や食事内容、体重などを半年間にわたり送信し続けます。重要なのは、状態が悪化した時には医師や看護師、管理栄養士から、イエローカードが提示される仕組みになっているとことです。

今までであれば「ちょっと調子が悪いかな」と思っても受診しない人がたくさんいました。さらに受診したとしても、医師や保健師などの指示通りに改善しようとしても、日々の効果がわかりにくく、続かないこともたくさんありました。

今回のモデルでは、状況改善に向けて、より適切なタイミングで効果的なアプローチをすることができます。また半年間で集まったデータの解析を通して、糖尿病を避ける、新たな行動変容モデルの構築も期待できます。

糖尿病になるか、ならないかは、その先のQOLに大きく影響する、人生の分かれ道です。国民病であるからこそ、これらの取り組みをきっかけに、皆が意識するような環境をつくっていく必要があります。

※参考文献
・厚生労働省, 『糖尿病の治療を放置した働き盛りの今』, 2011年8月
・厚生労働省, 『世界保健デーとは』, 2016年4月
・厚生労働省, 『平成25年度 国民医療費の概況』, 平成27年10月7日
・毎日新聞, 『「ウェアラブル」で生活記録 実証実験へ』, 2016年6月20日

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